3 ギガバイト到達

  このブログは2013年の6月から書き始めた.生物の持つ代謝系の解釈において、通常の解釈とは余りにも違う私の異見をどこかに書き留めておきたいと思ったからである。そして、アブシジン酸、ルヌラリン酸、多糖、リグニンなどを生合成する代謝や生分解する代謝の意義付け、植物の花についての考察など、学会あるいは学会誌という限られたステージでは発表しきれない思索の経緯を、実に我が儘に書き連ねてきた。読み返してみると、間違っているかも知れないなと反省する部分がないではない。今後、落ち着いて手を入れることになるだろう。

  当初、このブログを訪問する人は10〜20人/日、読まれる文書量は5〜15 Mb程度であった。2013年6月から12月までの7ヶ月間で訪問者が851人、読まれた文書量は353.24Mbにすぎなかった。こうした値が、世にはびこるブログサイトの中でどのような位置にあるのかには興味はあったが、別に調べはしなかった。どう考えてもアクセス数を競うような内容のブログではないのは明らかであろう。

  とはいえ、訪問者は着実に増え続け、昨年の訪問者は13,759人、読まれたページは106,207ページ、文書量は22.4 Gbに達した。こんな、蘊蓄ブログとしてはまあまあ良い値ではないだろうか。ブログ主としては、一月に3.0 Gb読まれることを夢見ながら、マイペースで書いてきた。昨年の11月に2.93 Gbに達したのだが、期待した12月は 2.27 Gbに終わった。そして今日、始めて 3 Gb/月に到達した。

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  訪問者数の計測ソフトは、底上げがあると聞く商用ブログ付随ソフトによる値ではなく、I 先生が組み込んだ計測ソフトの値である。もちろん 3 Gbになったからどうだという話ではないし、目出度いかどうかもわからない。何しろ筆者の発想が何時まで続くかということが、最大の不安材料なのである。発想が尽きたらどうするかって?農産物販売サイトに宗旨替え致します。

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  上に示したが、このサイトの特徴は訪問時間の長さにあるようだ。内容からして、一寸見てすぐに立ち去る人が多いだろうことは容易に推測できる。にもかかわらず、平均滞在時間が158秒というのは、結構よい値である。さらにだが、5分〜15分間の滞在者が68人(2.5%)、15分〜30分間の滞在者が36人(1.3%)、30分〜60分間の滞在者が59人(2.1%)、1時間以上滞在する人が35人(1.3%)と、じっくりと読み込んでおられる方々が存在する。こうした読者には感謝の意を表したい。

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歴史生物学・・・一次代謝と二次代謝 11

  前回の話を簡単にまとめれば、ヒトにもモルヒネ生合成系が存在するということになる。そうであれば、突然検挙され、お前の脳からモルヒネが検出されたから麻薬取締法違反で有罪だなどという悪夢が起るかもしれない。などという冗談はさておき、本筋であるケシのモルヒネ生合成系はどう読み解けば良いのだろう。お前はどう考えるのかという問いかけが当然あると思う。疑問だけを提出してハイさようならでは無責任の誹りを受けるに違いない。論の正否は別にして、私の考えだけは記しておくことにする。

  モルヒネ、この物質は正真正銘のシキミ酸系に属する化合物である。先に述べたように芳香族アミノ酸であるチロシンを暫定的に出発原料と見なして議論を進めるわけだが、どの植物もがモルヒネに達する系路を持つわけではない。モルヒネの生合成を行うのは、APG植物分類体系においてキンポウゲ目に属するケシ科の一部の植物に過ぎない。

  そこで代謝マップのフェニルアラニンとチロシンからの代謝の項を見て欲しいのだが、華麗とでも表現できそうな様々な系がこの2つのアミノ酸を基点として伸展している。それらの各系の中でモルヒネに辿り着く流れは、極めて微々たる流れに過ぎない。モルヒネの生理活性が際立っているが故に、我々の注意を引いているだけであり、植物界に存在する物質量としてみれば議論に値する量ではないことが、以後の考察の原点になる。そこで、チロシンからの代謝を見てみたい。

  以下にKEEGから撮影したポテトのチロシン代謝系を示すが、この図6-6において、グリーンの枠の中にある酵素ナンバーを持つ酵素がポテトに存在することを意味している。

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  何でポテトかと思われるかも知れないが、シロイヌナズナであろうがイネであろうが存在する代謝系には殆ど差がない。何となく使ったというのが本音である、さて、そういうことであれば、チロシンがアミノ基転移を受け4-ヒドロキシフェニルピルビン酸となった後、2種類のジオキシゲナーゼの作用を受けてベンゼン環が解裂した4-Maleylacetoacetateへ、4-Maleylacetoacetateのシス型二重結合の異性化による4-Fumarylacetoacetateを通ってアセト酢酸とフマル酸へと変換する系が主要な系であることは歴然とした事実であろう。(私はどう思うか?「ああ、チロシンも酸素分子の消去を伴いながら、二酸化炭素への道を辿るのか」)

  一方、チロシンの還元的脱アミノ反応でチラミンまでの反応は起こるが、そこから先の代謝系は存在しないように見える。しかし、現実はそうではないだろう。この段階の還元的脱アミノ反応で働く酵素はL-DOPAからドーパミンを作る酵素と同じであるのだが、できてくるチラミンもドーパミンもβ位にベンゼン環があるとはいえ、立体傷害の少ない1級アミンである。それ故に、これらの化合物が主要な基質であるかどうかは別にして、植物にも存在するモノアミンオキシダーゼによる酸化を受け、ゆっくりと4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒド、さらにアルコールデヒドロゲナーゼの作用を受けて4-ヒドロキシ酢酸へと酸化された後、最終的にはコハク酸の形でTCA回路に戻るに違いない。このような推論は、“いわゆる”二次代謝で働く酵素群の低い基質特異性に由来していると考えているため、そうではないと考えるヒトがいても構わない。そうではないと考えるヒトは、チラミンやドーパミンがどのような運命を辿るかを考えて、そうではないとする仮説を立てればよいだけの話である。結果はそのうち明らかになるだろう。

  さて、中間体が基質特異性の低い酵素で代謝されてしまうのであれば、モルヒネはできないではないかと心配されるかもしれないが、そうではない。上に述べた系路はほぼ全ての植物に分布する主要系路であることは間違いないとして、ケシにはケシに特有のローカル系路が存在している。図6-7にモルヒネ生合成の図の一部を示したが、一般の植物にはグリーン枠の酵素しか存在しない。

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図6-7 モルヒネ生合成系の初発部分

  しかしケシにおいては、他の植物同様にチロシンからチラミンを作る酵素が存在するだけでなく、チラミンからドーパミンを導く系路を持つ。同時にチロシンから4-ヒドロキシフェニルピルビン酸を通って4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドを作る経路がある。チロシンからL-ドーパを通ってドーパミンを作る経路も存在する。従って、ケシにおいてはモルヒネ生合成の原料は間違いなく揃うのである。

  生合成原料が揃った後、面白いのは次の段階の反応であろう。モルヒネ生合成において、本来の初発反応とも言える4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドとドーパミンとの縮合反応には、反応を触媒する酵素が存在しない。つまりこの反応は、2つの分子が出会いさえすれば触媒なしに即座に起こってしまう反応であることを意味している。

  有機化学を少しでも齧ったヒトであれば、1級アルデヒドと1級アミンがシッフ塩基あるいはアゾメチンと呼ばれる化合物群を形成する反応は、とても起こりやすい反応であるから当然ではないかと思うだろう。その通りである。問題になるとすれば、この反応においては生物側の意向は全く反映されないことである。作りたくなくても、できてしまうところに問題がある。ホストであるケシにとっては、先述したメインの系路に乗せて、アンモニアの回収をした方が有利であることは間違いない。しかしながら、勝手にくっついてしまう2種のチロシン代謝物は、ケシの思惑を外れてアンモニアの再利用系からスピンアウトしてしまうのである。

  「一次代謝と二次代謝 8 」の中で「アルカロイドは植物の意図しない窒素廃棄物である。」と書いた“意図しない”という言葉の中に、捨てたくない植物側の事情を反映していると書いた。上に書いたことが、この間の事情を表している。窒素を回収して再利用したいケシと、出会ったら不可避的に反応してしまう代謝物、この相克の狭間にケシの命が保持されている。生物は合理的な設計に基づいて創られたものではない。生き物は、多くの矛盾と相克の狭間にそのニッチを見つけた不合理の塊である。どう考えてもルネ・デカルトに端を発しド・ラ・メトリに引き継がれた機械論的解釈には乗らないようだ。

  それはそうとして、ケシという植物はこの反応性の高いシッフ塩基をどう扱ったのだろうか。この段階で意味を持ってくるのが、やはり基質特異性の低い酵素群であろう。“いわゆる”一次代謝に係わるようなリジッドな酵素ではなく、“いわゆる”二次代謝あるいは解毒代謝に関与する基質特異性の低い酵素群が、道から外れた少数派の分子の反応性の高い部分に、食いつき、食いちぎって、少しずつ変換していったに違いない。その結果がモルヒネであり、モルヒネからさらに続く分解系と呼ばれる代謝系である。

  アルカロイドは、動物における尿素のように植物における窒素代謝の最終産物であるとする昔の仮説は、植物中のアルカロイドの濃度が時間とともに変動することを理由にして否定された経緯がある。最終産物であれば、少しづつでも増えていくべきであり減少局面があってはいけないという思い込みによる否定であろう。つまり、この否定は代謝が議論しているアルカロイド分子で止まることを暗黙の前提としている。しかしながら、何度も言うようだが連続している代謝系を、興味を持った分子までで切断して考えるという観察方法の側に、大きな誤謬があったのである。

歴史生物学・・・一次代謝と二次代謝 12に続く

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近況 1/25

  体調がいま一つで仕事が進まない。根巻きされた55本のブルーベリーが、早く植えてくれと待っているのだが、前提となる柿の伐採が進まない。さらに、昨年10月には新居へ移転する予定だったのに、スケジュールが遅れてまだ原自宅に住んでいる。まあ、それほど急ぐ話ではないし、その方が職場に近くて便利ではある。

  昨日は好天気であった。今日こそはと張り切って6本の木を切り、幹と大きな枝は薪ストーブ用に切り揃え、残った小枝は燃やしてきた。これでようやくブルーベリーを植える場所の確保ができたのだが、この植物は植えればよいという植物ではない。土壌のpHが4.3~5.2であることが求められるため、ピートモスをかなり多量に混ぜ込んでpH調整をしなければならない。そのためにまとめ買いしたピ−トモスとボラ土が、近所の店に預けっぱなしだ。早く受け取らないとお邪魔かなと思いながらも、仕事の遅れに伴いそのままになっている。

  新居の外構工事も遅れ気味なのだが、どうやら田舎にも人手不足の影響があるようだ。しかし、それ以上に問題なのは施工主である。どうしましょうかと聞かれても、適当に、いや適切にやっといてと答えるだけだから施工する方も大変だろう。先日も、工務店に立ち寄って、エアコンの取り付けを頼んだ。では、カタログを取り寄せますからと社長がいったのだが、国産メーカーの製品であればどれでも良い、あなたの好きな機種を付けといてと帰って来た。実際のところ、カタログをいくら丹念に読んだところで大したことは分からないのが現実だろう。メーカーによってデザインに少しの差があるのは認めるが、製品の能力に大きな差はないのが現状である。さらにカタログに載っているデータはある種のスーパーデータであって、実際のデータは間違いなく違う。

  冷蔵庫のデータなんて、中に入れているモノの量と扉の開閉頻度で驚くほどの差が出ることは常識だ。車の燃料消費率も同じである。日本自動車工業界自身が、実走行燃費は10・11モードのカタログ値の7割、JC08モードのカタログ値の8割程度と認めているではないか。私はあらゆる機器に対して、カタログ値の8割の性能をコンスタントに発揮するモノであればそれでよいと考えている。

  ということで2月初旬頃までにはすべての工事が終わり、ついに隠遁生活が始まる。いよいよ現世との繋がりが細くなり、唯我独尊の世界に浸ることになる。昔から憧れていた因業爺の世界である。その分言説は過激になるかもしれないな。

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歴史生物学・・・一次代謝と二次代謝 10 

  とはいえ、薬学の研究者達も、モルヒネの存在意義の説明の難しさを喉に刺さった小骨のように感じていたのではないだろうか。モルヒネはオピオイドのμ受容体に結合するのだが、哺乳類においてμ受容体に結合する内因性リガンドは見出されていない。内因性リガンドを持たない、いわゆるオーファンレセプターに、人ならぬケシがつくるモルヒネが結合して顕著な生理作用を示すという現実を、上手く説明することはなかなか難しいに違いない。

  この状況を何とか打破しようとする動きは1970年代からあった。ケシが何故モルヒネをつくるかは横に置くとしても、モルヒネが哺乳類の体内で生合成されることを証明して、少なくともモルヒネを内因性リガンドとして位置づけようというわけである。これが、Davis とWalsh により提唱されたモルヒネ内因性リガンド仮説であろう《Science, 167, 1005-1007, (1970)》。その後、Hazum 《Science, 213, 1010-1012 (1981)》らは、ヒトおよびウシの母乳からモルヒネの単離に成功したのだが,これは食物由来である可能性が高いと判断され、この仮説の証明とは認められらなかったようだが、このモルヒネ内因性リガンド仮説は生き続けた。

  そして1986年にはGoldstein 《Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 83, 9784-978 (1986)》らがウシ脳内にモルヒネやその前駆物質であるコデインの存在を確認しただけでなく、Spector《Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 83, 4566-4567(1986)》らは、コデインやその前駆物質と考えられるサルタリジン,テバインをラットに投与すると脳を含む様々な臓器でモルヒネ量が増加することを報じている。その後、Matsubara《J. Pharmacol. Exp. Ther., 260, 974-978(1992)》らは、L-ドーパの薬物治療を受けているパーキンソン病患者の尿中ではモルヒネおよびコデイン量が上昇することを報告し、Stefano のグループ《MolBrain Res., 117, 83-90 (2003)》が、最後に残っていた前駆物質であるレチクリンをラット脳内で検出(12.7±5.4 ng/g wet tissue)に成功した。

  ここでL-DOPAからモルヒネまでの生合成経路は完全につながっただけでなく、哺乳動物における生合成系がケシの生合成系と同様であることが明らかになった。これらの結果をもってすれば、人もモルヒネを生合成できる可能性が十分にあると言えるだろう。モルヒネが哺乳動物においてμ受容体に結合する本来の内因性リガンドであると結論づけて良いかどうかはまだ分からないが、何とかしてモルヒネと人を関係づけようとする努力が実りかけていると言えるかもしれない。「なぜケシはモルヒネをつくるのか」という疑問に答えてはいないにしてもだ。

  この話と全く裏返しの物語がアブシジン酸についても存在する。奇しくもSpectorらが、コデインやその前駆物質と考えられるサルタリジン,テバインをラットに投与すると脳を含む様々な臓器でモルヒネ量が増加することを報じた1986年に、植物ホルモンであるアブシジン酸がブタやラットの脳に存在するという報告がなされた《Le Page-Degivry MT et al., Proc Natl Acad Sci U S A., 83(4),1155-8 (1986)》。アブシジン酸が哺乳動物の脳内に存在するというこの報告に、やはり食物由来ではないかという疑いがつきまとったのは仕方のないことであったろう。いつ頃アブシジン酸が哺乳動物における内生の物質であると認知されたのかは定かでないが、植物ホルモンがヒトの脳にあるなどという状況は居心地が悪かったらしく、哺乳動物におけるアブシジン酸の影響についての研究が開始された。

  その結果、Bruzzone等《Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104, 5759-5764 (2007)》は、アブシジン酸がヒトの果粒球(白血球の一種)を刺激するシグナルとして働いていると報じたあと、彼らのグループからはインスリンの分泌を刺激するという報告もなされている。さらにだが、国立感染症研究所の永宗らは、原虫であるトキソプラズマがアブシジン酸を生合成し、宿主細胞からの脱出を制御していることを明らかにすると同時に、アブシジン酸生合成阻害剤であるフルリドンがトキソプラズマのマウスへの感染を有意に抑えることを報じている。《Nagamune, K., et. al., Nature , 451, 207-10, (2008) ,Nagamune, K., et al., Comm. Integ. Biol. 1, 62-65 (2008)》 最後のフルリドンを用いた結果については、阻害位置がアブシジン酸生合成系とされているにしても代謝系のかなり上流にあり、カロテノイド生合成阻害なども視野に入れて考えるべきであろう。

  とはいえこれらの結果を見れば、さてモルヒネはそしてアブシジンはいったい何者であるのかとの疑問を誰もが持つと思うのだが。この疑問に拘泥して研究の手を止めるかどうかは別にしてもだ。

歴史生物学・・・一次代謝と二次代謝 11 に続く

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歴史生物学・・・一次代謝と二次代謝 9

  イソキノリンアルカロイドというグループに分類されている一見複雑に見えるモルヒネだが、この化合物は2分子のチロシンから生合成される。チロシンからモルヒネまでの生合成を(R)-Reticulineまでの系路と、(R)-Reticulineからモルヒネまでに分けて記述したい。何故(R)-Reticulineで区切るのか?他意はない。ChemDrawの図1枚では描ききれないからに過ぎない。各段階に記載している数字は、いつもの通りECナンバーである。

  まず、図6-3から始めよう。モルヒネの生合成に於いては、1分子のチロシンがオキシゲナーゼの作用で水酸化を受けたあと脱炭酸を受けてドーパミンが生成する。もう1分子のチロシンは酸化的に脱アミノを起こして4-ヒドロキシフェニルピルビン酸となった後、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼの触媒下に4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドとなる。このアルデヒドが先に生成したドーパミンとの間で脱水縮合を起こしてシッフ塩基となった後、すぐにキノリン環を形成して (S)-Norcoclaurineとなる。(S)-Norcoclaurineに存在するテトラヒドロイソキノリン環の2位の窒素原子と6位の水酸基がメチル基転位を受けて(S)-N-Methylcoclaurineとなった後、もう一つの芳香環の3’位がモノオキシゲナーゼによる水酸化を受けて3′-Hydroxy-N-methyl-(S)-coclaurineへ、3′-Hydroxy-N-methyl-(S)-coclaurineの4’位の水酸基がメチル化を受けて(S)-Reticulineを与える。

図6-3 モルヒネ生合成系 1
図6-3 モルヒネ生合成系 1

  この辺りの酸化反応のメカニズムはリグニン生合成の8辺りに書いたものと同様であろう。モルヒネへ向かう反応系は、(S)-Reticulineから(R)-Reticulineへと変換された後進んでいくのだが、この一対の光学異性体間の変換反応はいくぶん不可解である。図6-3に示した下側の系を通るのであれば一旦酸化して不整炭素を消した後、立体特異性を持つ還元酵素1.5.1.27の作用で(R)-Reticulineを生合成すると説明できるのだが、Laudanineの存在がどうも気になるのである。酵素2.1.1.291の反応の方向が(R)-Reticulineからも(S)-ReticulineからもLaudanine生成の方向に向かっているのである。この点については、平衡定数がLaudanine側に寄っていると云うことで、反応自体は可逆反応であると理解しておくことにする。それにしても7位の水酸基のメチル化あるいは脱メチル化に伴い、どのようなメカニズムで1位のラセミ化が起こるのか、私自身が理解できていない。

  図6-4は(S)-Reticulineまでのもうひとつの生合成を示している。この系は図6-3の系と混在して動いている系であろう。働いている酵素にも共通な物がある。しかし、混ざった状況で記述すると分かりにくくなるので、まず独立して動いているという立場から述べることにする。

図6-4 モルヒネ生合成系 2
図6-4 モルヒネ生合成系 2

  この場合も2分子のチロシンから始めよう。まず2分子のチロシンが脱炭酸反応を受けて、2分子のチラミンが生じる。このチラミンがmonophenol oxidaseによる水酸化を受けて2分子のドーパミンに変換される。勿論、この系にはL-DOPAを通る系も存在する。生成したドーパミンのうち1分子はaromatic amine dehydrogenaseあるいはamine oxidase と呼ばれる酸化酵素の作用により3,4-Dihydroxyphenylacetaldehydeへと酸化される。この時発生するアンモニアは再利用されるのであろう。生成した3,4-Dihydroxyphenylacetaldehydeはもう1分子のドーパミンと脱水縮合してシッフ塩基を形成した後イソキノリン間を形成して(S)-Norlaudanosolineを与える。この後、3段階に渡るメチル基転移によって(S)-Reticulineに変換され、図6-3の系に合流するわけである。量的な問題は余りに複雑すぎてここでは考慮しないことにする。

  図6-5に移る。Salutaridine synthaseと呼ばれるP450に分類されるオキシダーゼが、2つのベンゼン環でC-Cフェノールカップリングと呼ばれる結合が起こりSalutaridineが生成する。この反応については、後で少し補足するかも知れない。次ぎにSalutaridineのカルボニル基が立体選択的に還元されてSalutaridinol、生成したSalutaridinolの水酸基がAcetylCoAによるアセチル化を受けて7-O-Acetylsalutaridinolになると、フェノール性水酸基による攻撃と同時にアセトキシル基が脱離する反応が酵素の存在なしに進行してThebaineが生成する。

Fig. 6-5 モルヒネ生合成系 3
Fig. 6-5 モルヒネ生合成系 3

  モルヒネ生合成に於いては、メトキシ基を酸化的に水酸基に変更しながら反応を進める見慣れない酵素が重要な役を果たしている場面があるが、ThebaineからNeopinoneへの変換はその例である。多分だが、メチル基が水酸化を受け生成したヘミアセタールがホルムアルデヒドとエノールへと変換される反応であろう。こうして得られるNeopinoneはより安定なab不飽和ケトンへと自動的に変化しCodeinoneとなる。後は簡単である。Codeinoneは立体選択的にre面からのヒドリド還元によりCodeineに、Codeineに残っているもう一つのメトキシ基がやはり酸化的に水酸基へと変換されてMorphineが完成する。

  Thebaineを基点とするもう一つの生合成系は、反応の順序が入れ代わった系と見ればよい。Thebaineの4’位に由来するメトキシ基が先に酸化的に水酸基へと変換されてOripavineとなった後、6位のメトキシ基が同じく酸化されてMorphinoneとなり、続いて立体選択的にre面からのヒドリド還元が起こりMorphineが完成する。

さて、これら3枚の図を連続して並べて上記の説明を付ければ、初学者を「これがモルヒネの生合成系だ」と納得させることは難しいことではない。似たことを私もやってきた。「だが」である、図6-7を見て、モルヒネの生合成系はという議論をすることができるのか。図6-7はモルヒネを含むイソキノリンアルカロイドの生合成系を示しているが、左側の縦に降りてモルヒネに連なる部分のみを恣意的に切り出してモルヒネ生合成系として描いたわけである。

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図6-7 イソキノリンアルカロイドの生合成系(KEGGより引用)

  さらに図6-8をみれば、イソキノリンアルカロイド生合成さえも、チロシン代謝のほんの一部分に過ぎないことは明白である。要するに、モルヒネという1つの代謝物が、ヒトに対して特異的な活性を持ち薬学という分野で大きな興味をもたれたが故に描かれる系に過ぎない。モルヒネもまた、二酸化炭素から糖へ、糖からアミノ酸へと変換されて役割を果たし再度二酸化炭素とアンモニアへ戻っていく過程に存在する一つの微量物質に過ぎないのである。

図6-7 チロシン代謝系
図6-8 チロシン代謝系(KEGGより引用)

歴史生物学・・・一次代謝と二次代謝 10 に続く

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