- 先月末に三井化学大牟田工場で事故が起こった。小学校の4年から5年にかけて、この工場の近くに住んでいただけでなく、何人かの友人がこの工場に勤めていた経緯もありニュースを追っかけていた。ところがこの事故についてのオールドメディアの対応が余りにも酷いことに耐えかねて一文をあげることにした。
- 7月29日午後5時31分に事故が起こって3週間、もう全ての報道は出揃ったと考えて良いだろう。つまり、現在以上の情報は発信されないと考える。そこで、現在までの報道において決定的に欠けている部分について議論したい。
- まず天下のNHKの記事を引用する。
- 《福岡 大牟田 「異臭がする」20人以上病院搬送 ガス漏れか
- 2025年7月27日 23時41分
- 27日夕方、福岡県大牟田市で「異臭がする」との通報が相次ぎ、消防によりますと、およそ40人が体調不良を訴え、20人以上を病院に搬送したということですが全員、意識はあるということです。通報があった場所から1キロほど離れた工場で塩素系のガスが漏れたということで、会社や警察などが詳しい状況や原因を調べています。
- 27日午後6時すぎ「大牟田市橋口町で異臭がする」という通報があり、消防によりますとおよそ40人が体調不良を訴え、20人以上を病院に搬送したということですが全員、意識はあるということです。通報があった場所から東におよそ1キロほど離れた場所にある三井化学大牟田工場によりますと27日午後6時ごろ、工場の中にあるプラントから塩素系のガスが漏れ、7時50分ごろには収まったことを確認したということです。このガスを吸い込むと、せき込んだり、目に違和感を感じたりすることがあるということで、工場の外にいた社員数人も体調不良を訴え、病院に運ばれたということです。大牟田市は、漏れたガスが滞留している可能性があるとして、市民に対し、しばらくの間、屋内に避難するとともに、屋内にいる人も窓を閉めて屋外に出ないよう呼びかけています。会社と警察などがガスが漏れた詳しい状況や原因を調べています。》
次はやはりNHK、 福岡 NEWS WEBの記事より引用
《大牟田 ガス漏れ 三井化学“配管に穴 有毒ガス漏れ出す”
07月29日 08時46分
大牟田市にある化学工場で27日、塩素系のガスが漏れ周辺に住む住民が体調不良を訴えた事故を受けて、工場を運営する三井化学は記者会見を開き、何らかの原因で配管に穴があき、有毒なガスが漏れ出したと明らかにしました。
大牟田市では27日夕方、異臭の通報が相次ぎ住民などおよそ40人が体調不良を訴え20人以上が病院に運ばれ、通報があった場所からおよそ1キロ離れたところにある三井化学大牟田工場は、プラントから塩素系のガスが漏れ出したと明らかにしていました。
三井化学は28日夜、記者会見を開き、ガス漏れは自動車のシートなどで使われるウレタンの原料をつくるプラントで起きたと明らかにしました。
このプラントでは、おととい午後5時30分ごろに漏えいを知らせる検知機が作動したためプラントの停止や水をまくなどの対応をとり、7時20分ごろまでに敷地内の漏えいがなくなったのを確認したということです。
会社が事故後に調査したところ、ステンレス製の配管に穴が空いているのを確認し、6月に目視で点検した際には異常はみられなかったということで、対策本部を設置して穴ができた原因などを調べるとしています。
三井化学大牟田工場の鶴田智工場長は「ガス漏えいにより多くの方々に多大なるご心配・ご迷惑をおかけし深くおわび申し上げます」と述べて陳謝しました。
事故を受けて県や福岡労働局などは工場に立ち入り調査を行い、法令違反がなかったかなどを調べています。》
三井化学株式会社が出したお詫びの文書、これも引用しよう。
《2025 年 7 月 28 日
各 位
三井化学株式会社
大牟田工場における塩素系ガスの漏洩について(お詫び)
7月 27 日(日)17 時 40 分頃、弊社大牟田工場のプラントより塩素系ガスの漏洩が発生しました。
本漏洩により、近隣住民の皆様、関係ご当局の皆様、お客様をはじめとする多くの方々に多大なご迷惑をおかけし、深くお詫び申し上げます。
7 月 27 日 23 時現在で判明しております内容は、下記のとおりです。
記
1. 発生場所 福岡県大牟田市浅牟田町 30 番地
三井化学株式会社 大牟田工場 TDI プラント
2. 発生日時・経緯
7 月 27 日(日) 17 時 40 分頃 塩素系ガスの検知器作動、TDI プラント緊急停止
17 時 59 分 自衛消防待機
19 時 05 分 漏洩停止
20 時 32 分 敷地境界に塩素系ガスがないことを確認
3. 被害状況
人的被害 42 名が病院に搬送、受診中(7 月 27 日 23 時現在)
物的被害 調査中
4. 原因と対策
関係当局のご指導を仰ぎつつ、適切な対策を実施する予定です。
5. 製品出荷への影響
現在、鋭意情報収集中です。
6. 問い合わせ先
本社)コーポレートコミュニケーション部 広報グループ 03-6880-7500
大牟田工場)総務グループ 0944-51-8111
以 上》
少しだけ厳し目の論評をしたのが讀売新聞であった。
《三井化学大牟田工場、塩素系ガス漏れ事故で通報怠る…消防隊員26人体調不良「こうした二次被害は防げた」
2025/08/01 11:00
- 福岡県大牟田市の三井化学大牟田工場で有毒な塩素系ガスが漏れた事故で、同工場が現場処理に追われ、消防や警察への通報を怠っていたことがわかった。市消防本部が工場のガス漏れを確認したのは発生から約1時間半後で、救急出動した隊員26人が体調不良を訴えて病院で受診した。吉田尚幸消防長は「発生直後に通報があれば、こうした二次被害は防げたはずだ」としている。
- 同工場などによると、7月27日午後5時31分、ウレタン原料の製造プラントでガス漏れ検知器が作動したが、プラントの停止作業に気を取られて消防や警察に通報しなかった。その後、異臭や息苦しさなどを訴える周辺住民らからの119番が相次ぎ、消防隊員30人が出動。呼吸器やマスクを着用していたが、住民らに聞き取りする際にマスクを外したケースがあった。隊員らが同工場に入ってガス漏れを確認したのは午後7時頃だった。
- 大牟田市内の各工場には、事故が発生した場合、速やかに消防や警察、市に連絡することなどを定めた共通の対応マニュアルがあるが、今回、それが守られていなかった。同社の担当者は「通報しなかったことは申し訳ない。今後は再発防止に全力を尽くしたい」としている。
- 同工場によると、事故で医療機関を受診した人は、31日現在で延べ155人に上っている。
- 福岡県、被害者への適切な対応など要請
- 県は31日、同社に再発防止の徹底や被害者に対して適切な対応を行うよう要請した。生嶋亮介副知事が、県庁を訪れた同社の岡田一成・常務執行役員と鶴田智・大牟田工場長に▽確実な安全対策の実施▽全ての事実関係の公表▽被害者への適切な対応――を求めた。
- 終了後、報道陣の取材に応じた岡田氏は、「原因を徹底的に調べて再発防止を行う」とし、被害者に対しては「申し出に従って誠意ある対応をとっていきたい」と述べた。
有機化学を生業としてきた人間として、これらの報道そして三井化学のお詫び文書には納得がいかない。消防と警察への連絡の遅れが問題であることは当然として、どのメディアも三井化学でさえも、漏れたガスが何であるかの記載が無い。この報道を聴いた時、『塩素系のガス、水をまいて処理、ウレタン原料の製造に使われる』という条件を満たすのはホスゲンに違いないと判断した。何故、塩素系のガスというぼかした表現を繰り返し、ホスゲンであることを隠したのか。理由はホスゲンが余りにも危険なガスであるために違いない。会社側が隠したくなる気持ちは分からないでもないが、これはきちんと報道すべきだと激怒していた。会社側の責任は余りにも重い。
ホスゲンとは何か、長々と書くのは止めよう。第一次世界大戦では毒ガスとして使用された極めて危険なガスである。ウィキペディアのホスゲンのページ、特に毒性と治療法の項目を参照して欲しい。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%82%B9%E3%82%B2%E3%83%B3
消防への連絡時に漏えいしたのがホスゲンであることを伝えていなかった可能性もある。消防側が漏えいしたガスがホスゲンと認識していたら(消防隊員30人が出動。呼吸器やマスクを着用していたが、住民らに聞き取りする際にマスクを外したケースがあった)などという事態は起こる筈が無い。化学兵器対応の防毒マスクが必要な事態である。近隣住民には屋内退避を指示すべきであったろう。ただのマスクでホスゲン処理に行くなどありえないし、聞き取りを屋外で実施した可能性も捨てきれない。事故の規模が違うとはいえ、一つ間違えばインドで起こった『ボパール化学工場事故』を思い出させるような事故であった。
《このガスを吸い込むと、せき込んだり、目に違和感を感じたりすることがあるということで、工場の外にいた社員数人も体調不良を訴え、病院に運ばれたということです。》
などという能天気な記事を書いたNHKは、もはや報道機関としての体をなしていない。
オールドメディアの企業への忖度による自己規制、報道に携わる記者の知識レベルの低さ、あるいは質問能力のなさの何れが原因かは分からないが、報道しない自由が跋扈している気がしてならない。と書いた時点で気付いたのだが、この事件がウィキペディアにすでに記載してあった。そこには毎日新聞の記事が引用してあるのだが、そのなかには『原料であるホスゲンなどを含むガス』という記述がある。やはりホスゲンだった。などは塩化水素であろう。有料記事であるためこれ以上は読めないが、ホスゲンという物質名を出したという点で今回は毎日新聞を評価しよう。
ついでにもう一つの疑問、毎日新聞の情報源はどこなのだろう。毎日新聞が独自に取材をしてホスゲンであることを確認したのであれば毎日新聞の評価を上げてもよいが、これが合同の記者会見であったとすれば、他のメディアはこの情報を握りつぶした事になる。