農薬選択

 カキ畑の草取りも3回目が終わった。そろそろ、3度目の殺虫剤・殺菌剤の散布をしなければいけない時期である。対象はカメムシ類、カキノヘタムシ、フジコナカイガラムシそして炭疽病が対象となる。いつものS商店から殺虫剤としてはスプラサイド、殺菌剤としてはキノン銅フロアブルを購入していたのだが、梅雨末期に2つの台風が来たため散布のタイミングを失っていた。2つめの台風がごく近くを通って消滅した後、さあ散布と畑に出たら、となりの畑でナシの収穫が始まっていた。これは困った状況である。ちょっと手抜きをしようと考えて選んだスプラサイド、殺虫成分はメチダチオンと呼ばれる有機リン剤である。スプラサイドはナシに対しても使用可能だが、無袋栽培では散布後21日経たないと収穫できない。私がカキ畑にこの薬を撒いて、もし散布液が隣にドリフトした場合、ポジティブリスト制度の下では違反となる可能性がある。いつも風向きを考え、散布するときの位置を考えて、隣の畑に飛ばないように気をつけてはいるが、突然風向が変わればポジショニングは無意味になる。

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 カキの防除歴を見ながら、薬剤の選定のやり直しである。妥協の産物としてアルバリンを選んだ。この薬はカキとナシに農薬登録があり、散布後1日で収穫ができる。そう云う意味では都合が良い。 ただ、このアルバリンの成分であるジノテフランはネオニコチノイドに属する殺虫剤で、ミツバチに対してかなり高い毒性を示す。この化合物の殺虫スペクトルを考えれば4月頃に使いたいものだが、4月はカキの開花期、ミツバチの訪花が盛んな頃であるため使用を控えていたモノである。いまなら、カキ園に花はなく、ミツバチはほとんど飛来しない。

 こんなことを考えながらの農薬選択、撒かずに済めば最高なのだがカメムシとカイガラムシは間違いなくいる。カメムシが果実から吸汁すると果実の変形が起こり商品価値が激減する。カイガラムシも手を抜くと樹勢が落ちるほど増殖する。初期の処理剤として、バチラス スブチリスやバチラス チューリンギエンシス製剤を使い、可能な限り他の生物に影響が出ないようにしてきたが、真夏のこの暑さのもとで急激に数を増すカメムシをコントロールするためには、仕方がない。

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ああ、帝国ホテルマーガリン

 有機化合物の中には、分子式が同じであっても構造が異なる化合物群はいくらでも存在する。そうした関係にある化合物群を異性体という業界用語で表すのだが、この異性体にもいろいろな種類が存在する。高校の化学に於いて一応教えられてはいるのだが、幾何異性体、光学異性体といわれて、すぐに説明できる人はあまり多くはない。

 構造異性体を含めて、それぞれの説明は他に譲るとして、ここでは炭素-炭素間の二重結合に由来する幾何異性体、正式にはcis-trans異性体について少し述べてみたい。繰り返しのようだが、この異性は炭素炭素間の二重結合の性質に由来する。余りに初歩的な話をするのはこのブログの読者に対して失礼に当たるだろう。そこで、二つの炭素上にある混成に参加していないp軌道の間で成立しているπ結合の性質故に、炭素-炭素を軸とする回転ができないことを既知の知識として扱うことにする。高校に於いては、この幾何異性の例としてマレイン酸とフマル酸を採用する場合が多かった。

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シス-トランス異性体の例

 記憶が定かではないが、2-ブテンを例として採用した教科書があったような気もする。cis-trans異性体は、二重結合に対して主鎖となる炭素骨格が同じ側にある場合をcis体、反対側にある場合を trans体としている。IUPACで定められている置換基の順位則を用いて、この定義をもう少し拡大したEZ表示法が上位規則として存在するのでどこかで目を通しておいて下さい。

 そこでcis-trans異性体の話だが、構造が違うのだから当然それらの性質も異なる。マレイン酸のpKa 1、 pKa2は、それぞれ1.84 、5.83 フマル酸の pKa1、pKa2は、それぞれ3.07、4.58 であるし、マレイン酸は加熱すると容易に無水マレイン酸を形成するが、フマル酸は昇華してしまう。水に対する溶解度も違うし、融点も違う。従って、生物に対する作用も異なるわけである。アブシジン酸であっても2- cis体が植物ホルモンとして働くのであって、2- trans体はそうではない。生物にとってcis-体とtrans体は別のモノである。

 酵素の活性部位や情報伝達系で働く受容体の多くが、cis-trans異性体だけでなく、もっと似ているように見える光学異性体を識別するのだから、cis-trans異性体間で生理活性に差があっても何ら不思議ではない。とはいえ、いま騒がれているトランス脂肪酸問題は、どこに問題があるのかいまひとつ理解できない。ようやく来たかとニンマリしている読者もいると推察するが、誰が何の目的でこの騒ぎを煽っているのか理解に苦しんでいる。

 原因の1つはtrans 脂肪酸にある。trans 脂肪酸とは何であるかについて、何となく分かり難いのである。ヒトが摂取する不飽和脂肪酸には、多くの種類がある。例えば、ミリストレイン酸《(Z)-tetradec-9-enoic acid》、パルミトレイン酸《(Z)-hexadec-9-enoic acid》、オレイン酸《 (Z)-octadec-9-enoic acid》、バクセン酸《(Z)-octadec-11-enoic acid》、ガドレイン酸《(Z)-icos-9-enoic acid》、エイコセン酸《(Z)-icos-11-enoic acid》、エルカ酸《 (Z)-docos-13-enoic acid》など1つの二重結合を持つ不飽和脂肪酸類、リノール酸《(9Z,12Z)-octadeca-9,12-dienoic acid》、エイコサジエン酸《(11Z,14Z)-icosa-11,14-dienoic acid》、ドコサジエン酸《(13Z,16Z)-docosa-13,16-dienoic acid》など2つの二重結合を持つ不飽和脂肪酸類、α-リノレン酸《(9Z,12Z,15Z)-octadeca-9,12,15-trienoic acid》、γ-リノレン酸《(6Z,9Z,12Z)-octadeca-6,9,12-trienoic acid》など3つの二重結合を持つ不飽和脂肪酸類だけでなく、4つの二重結合を持つアラキドン酸やステアドリン酸、5つの二重結合を持つエイコサペンタエン酸やイワシ酸、6つの二重結合を持つドコサヘキサエン酸やニシン酸、等々である。

 一つの二重結合は一対のcis-trans異性体をもたらすことから、異性体の数はモノ不飽和脂肪酸では2、ジ不飽和脂肪酸では4、トリ不飽和脂肪酸では8、テトラ不飽和脂肪酸では16、5つの二重結合を持つペンタ不飽和脂肪酸では32、6つの二重結合を持つペンタ不飽和脂肪酸では64となる。的屋の云う1枚が2枚、2枚が4枚、4枚が8枚・・・・の世界である。さらに、1つの食物に1種の不飽和脂肪酸が含まれているわけではなく、何種も含まれている。さらにさらにだが、各不飽和脂肪酸の生物に対する効果も千差万別であろうことは容易に推定できる。トランス脂肪酸と云う括りは、どのようになっているのかが何とも分かり難い。

 もう一つの原因は、こうした把握が難しいトランス脂肪酸が、心筋梗塞、狭心症、気管支ぜんそく、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、認知症やパーキンソン病、さらに高血圧、糖尿病をも引き起こすという障害側の多様さにある?一説では、LDL(悪玉)コレステロールを上昇させ、HDL(善玉)コレステロールを低下させる効果もあるそうだ??(この咄にとって都合の悪い話だが、動脈硬化学会は、今年の5月に生活習慣の改善(たとえば油を控える)では、コレステロール値の改善はできないと発表している。(http://www.j-athero.org/outline/cholesterol_150501.html 参照)

 まあ過剰に摂取した場合の問題という但し書きはあるにしても、トランス脂肪酸の種類が多すぎるだけでなく、引き起こす疾患の種類も多岐にわたる。疫学的な調査の結果であると云われるかもしれないが、ごく最近まで「植物性脂肪は体に良く動物性脂肪は良くない」とされきた“常識”を否定するものである。だが、この“常識”もまた、何らかの実験あるいは調査を基盤としていたのではないのか。この部分の検証・評価なしに、突然、ちゃぶ台をひっくり返すような説明をされても、「この裏には何があるのかな」などとつい邪推しまうのである。そう云えば近頃バターが不足している。TPP絡み? いえ、別に政治の話をしているのではありません。

 動物性の脂質は体に悪いと言われてきた頃、私はバターを食べ続けていた。大した量を食べるわけではない。人生も、先がそれほど長いわけではないだろう。旨い方を食べ過ぎない程度に楽しんで食べればよい。厚生労働省が、ささやかな個人的嗜好に口を挟みすぎることの方がおかしいと思っていた。もっと大事なことがあるでしょう。心を入れ替えて働きなさい。(更正労働省とはそんな意味?)そんな私が、トランス脂肪酸の問題が話題になり始めた頃に考えを変えた。マーガリンにしたのである。

    子供の頃、給食には半分溶けたマーガリンしか出なかった。家庭でもバターモドキのマーガリンを食べ続けてきた。高校時代の弁当には、マーガリンを引いて焼いたベビーハムがはいっていた。浪人中、天神3丁目の下宿先で食べた朝食、高校生だった下宿先のお嬢さんが出してくれた、マーガリンをタップリ塗ったトーストの味をまだ覚えている。団塊の世代の青春とともにあったマーガリン、憧れの「帝国ホテルマーガリン」、それをあやふやなデータを基に貶めるとは何事だと考えたにすぎない。そしていま、いつも少数派の冷蔵庫には、「バターのようなマーガリン」が鎮座している。(田舎のスーパーには、帝国ホテルマーガリンはおいてないのです)

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過剰と蕩尽 5

 よく知られたビフィズス菌を含むBifidobacteriumのグループが行うもう一つのヘテロ乳酸発酵を述べるまでもなく、乳酸発酵の意義付けは上述したヘテロ乳酸発酵という系を考えた時点で完全に破綻している。にもかかわらず、いろいろな乳酸発酵の中でホモ乳酸発酵だけを取り上げこれをアルコール発酵と対比させ、未だ知識の少ない学部学生に、さも本当のことみたいに述べるのは一旦止めたらどうだろう。

 さらにだが、乳酸発酵を何故グルコースから始めるのかという問題も存在する。もちろん、グルコースから始まる乳酸発酵が存在することは間違いない。しかしながら、最も重要で誰もが知っている乳酸発酵製品はヨーグルトであろう。原乳がウシに由来するかヤギに由来するか、あるいはウマかラクダかスイギュウかは別として、哺乳動物の乳汁中に存在する主な糖は乳糖(ラクトース)である。この乳糖が加水分解を受けてグルコースとガラクトースに変換された後、グルコースはそのまま解糖系へと導入される。だが、ガラクトースはそうではない。

ルロワール系路を通るガラクトースの代謝
ルロワール系路を通るガラクトースの代謝

 図に示すように、ガラクトースはまずガラクトースキナーゼによりガラクトース-1-リン酸に変換される。ガラクトース-1-リン酸はUDP-グルコースと反応してグルコース-1-リン酸とUDP-ガラクトースに変換される。生成したグルコース-1-リン酸はホスホグルコムターゼの作用よりグルコース-6-リン酸となり、解糖系へと流入する。もう一方のUDP-ガラクトースはUDP-ガラクトース-4-エピメラーゼによってUDP-グルコースへと再生されることで、この回路が上手く機能することになる。ルロワール系路と呼ばれるこの系を通ったガラクトースは、グルコースを経由することなくグルコース-6-リン酸として解糖系に合流しているのである。乳糖に由来する6炭糖の半量が、グルコースを経由することなく解糖系に流れ込んでいるにもかかわらず、何故グルコースを系の出発物質に据えるのか、そこはかとない違和感を感じている。まあこのルロワール系路にしても、ガラクトース代謝系の一部を切り取って定義した系に過ぎないのだが。

Lactobacillus casei ATCC 334株のガラクトース代謝系 KEGG http://www.genome.jp/kegg-bin/show_pathway?org_name=lca&mapno=00052&mapscale=&show_description=hideより転載
Lactobacillus casei ATCC 334株のガラクトース代謝系 KEGG http://www.genome.jp/kegg-bin/show_pathway?org_name=lca&mapno=00052&mapscale=&show_description=hideより転載

 そういえば、近頃は乳酸菌も大流行である。我々の腸内には多種多様な細菌が棲息しているが、その中にはもちろん乳酸菌も含まれる。世の風潮では、これら多種多様な細菌は善玉菌と日和見菌と悪玉菌にわけられるらしい。何とも単純明快な発想だが、この善玉菌を利用して商売繁盛の「大会社」が幾つも存在する。まあ資本主義社会に於いては、稼いだ奴が勝者であるのだから仕方ない側面もあるかとは思う。

 こうした大会社には、世に言う「立派な大学」の卒業生が沢山在籍する。この方たちは、善玉菌を増やしましょう、善玉菌が増えれば体調は万全、いつまでも健康です、などという宣伝文を本当に信じているのだろうか? グーグル上で善玉菌をキーワードに画像検索すると、見るだけで恥ずかしくなるようなイラストのオンパレードである。この程度の画像に付ける宣伝文を書くようなことを、世に言う「立派な大学」の理系の卒業生はやってはいないと願うしかない。もし、多くの「立派な大学」の理系の卒業生がその程度のことしかやっていないのであれば、大学の理系学部は縮小して、文学・論理学・哲学・宗教学など常識と良識を修める文系学部の拡充と充実が必要だと考える。

 ああ、またもや現政権が進めようとしている方針に反することを書いてしまった。http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150719/k10010159301000.html

過剰と蕩尽 6 に続く

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過剰と蕩尽 4

 何故、酵母はエタノールを作り、乳酸菌は乳酸をつくるのか。この答えは多くの学部生でもご存知である。「解糖系について知見を述べよ」などと云う試験問題に対して、ちょっと気の利いた学生であれば次の答えを書くであろう。では、その程度の問題がなぜ意味を持つのか。

 先にも述べたが、教科書的解糖系はグルコースに始まりピルビン酸を終点とする嫌気的条件下で起こる代謝系である。つまり、グルコースが解糖系を通って分解を受けると、2分子のATPと1分子のNADH2(NADH+H+)が生産されることを意味する。ATPは彼等が生きるためのエネルギー源として必要であるにしても、還元剤であるNADH2は作りすぎるということになる。大学レベルの生化学の授業に於いては、作りすぎたNADH2がそのままでは、解糖系がスムースに機能しない。従って、ピルビン酸を脱炭酸して生成するアセトアルデヒドをエタノールに還元する際の還元剤としてNADH2を使い、この問題を回避していると教わるわけである。そしてグルコースからエタノールまでの糖分解系をアルコール発酵(エタノール発酵)と称するのである。(下図参照)

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解糖系に続くアルコール発酵と乳酸発酵

 乳酸発酵についても、全く同じ話が成立する。最後の段階を乳酸の生産に変えただけである。乳酸だけを生産するホモ乳酸発酵に於いて、グルコースは解糖系を通ってピルビン酸まで代謝される。2分子のATPと1分子のNADH2が生産されることも同じである。当然1分子のNADH2が余るわけだから、これをピルビン酸の還元に使って、解糖系におけるNAD(NAD+)の要求に応えることができると教えられる。そして、このグルコース1分子から乳酸2分子だけを生産する糖分解系をホモ乳酸発酵と称するのである。ストレプトコッカスやラクトコッカスあるいはラクトバチルスの一部などがこの系を駆動している。とはいえ、培地の栄養状態や存在する酸素量などに影響を受け、完全に2分子の乳酸が生成するわけではないようだ。

 少しレベルが上がって、乳酸発酵そのものを研究対象にするレベルに達すれば、ヘテロ乳酸発酵という系路の存在が視野に入ってくる。ヘテロの乳酸発酵を行う細菌はL. delbrueckiiL. acidophilusL. caseiなどのラクトバチルス属細菌やLeuconostoc属細菌などで、1分子のグルコースから1分子の乳酸と1分子の2酸化炭素、そして酢酸やエタノールを生産する。(知らなかったのだが、L. acidophilusL. caseiはホモの乳酸発酵を行う菌ではなかった。)Lactobacillus casei ATCC334が行うヘテロの乳酸発酵は、一応、下に示すようにペントースリン酸経路の一部を通って進行することになっている。

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 そうすると、ATPの消費はグルコースからグルコース-6-リン酸の段階で起こり、ATPの生産は1,3-ジホスホグリセリン酸から3-ホスホグリセリン酸とホスホエノールピルビン酸ピルビン酸の段階で起こる。従って、正味のATP生産は1分子となると書いてあるようだ。

 しかし、生成物が酢酸となる場合であれば、もう1分子のATPが作られるという記述も可能かも知れない。なぜならばこの菌はD-キシルロース-5-リン酸のレトロアルドール縮合産物であるアセチルリン酸からATPを生産しながら酢酸を生成する系を持つからである。但し、加水分解でリン酸を作りながら酢酸を作る系も持っている。通常は、アセチルリン酸からエタノールを作る系を乳産生成系と組み合わした場合に対して、ヘテロ乳酸発酵という概念が成立すると考えるべきなのだろう。代謝系とは興味を持った出発物質と生産物を恣意的につなぐモノであるから、それはそれで認めても良い。ただ、少し困ることがある。NADの問題である。乳酸とエタノールを生成物とするヘテロ乳酸発酵に於いて、1分子のNADH2とNADPH2が生産されるのだが、2分子のNADH2と1分子のNADPH2またはNADH2が消費される。そうすると、差し引き1分子のNADPH2またはNADH2が不足してしまうのである。ヘテロ乳酸発酵に於いては、先に述べたホモ乳酸発酵の起こる理由が否定されてしまうではないか。

 ヘテロの乳酸発酵を一旦無視すれば、エタノール発酵とホモ乳酸発酵においては、ATP生産を続けるために解糖系の最終産物であるピルビン酸をエタノールあるいは乳酸へと還元にNADH2を使いNADの再生を行っていると云う説明が成立しそうに見える。多くのヒトがこれで納得というか満足というか、とにかく説明がついたと考えているようだ。私が会った大多数の人々がそうであった。教科書にもそう書いてある。いつも少数派の私だってそう考える。あれ、いつの間に私は多数派になったのだろう?

 しかしながら、気付かれることはほとんどないのだが、きわめて重大な問題が残っている。上記の説明について、私がそう考えても矛盾は生じない。しかし、他の人々がこの説明をするとすれば、論理的に破綻してしまうからである。私は、ある物質が作られる理由は作られるプロセスの中にあると言い続けてきた。多くの人は、作られた物質の機能を基に作られる理由を説明してきたではないか。抗生物質は他の菌の生育を押さえるためにつくられると云う説明の時間論理を踏襲するとすれば、エタノールも乳酸もそれらの持つ機能から説明すべきであろう。つまり、「エタノールも乳酸も、他の菌の生育を阻害し、周囲の栄養分を確保するために生合成される」とすべきではないか。そうでないと、事前と事後の事象を恣意的に採用するアドホックな解釈であるとする批判に耐えられないと考えるのだがどうだろう?

 どなたかが、明確で整合性のある反論をして私を納得させていただければ、こんなことで悩む必要はないのだが、いまに至るまでこんな鬱陶しい議論にまともに対応してくれる人には出会えなかった。こんな意識を持ちながら、常識的な生化学の講義をシラバス通りに行ってきた日々は、次第に記憶の深みへと遠ざかっている。

過剰と蕩尽 5 に続く

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遅ればせながら

 6月の末から少し余裕ができたので、放置していた柿畑の世話を始めた。柿は冬の間に剪定を済ませ、芽が出る前に石灰イオウ合剤とかマシン油を散布して、カイガラムシの防除をするものだが、冬から春にかけてはまだ仕事をしていたし、引っ越しなどもあって込み合った枝を落としただけであった。取り敢えず剪定だけは終わったと思っていたのだが、彼等の生命力は私の想像をはるかに超えるものである。4月に一旦は摘蕾と摘果をしたつもりだったのだが、行ってみるとどう見ても柿ではなくブドウの木である。余所の柿より小振りな実がびっしりとついている。枝が重なってできる日陰にも多数の実がある。これはいかんと気持ちを入れ替えて、一寸以上に遅めの摘果を行った。10本の木で3日ほどかかった。1本の木に3時間くらいかかる計算となる。数えてはいないが、1本当たり100個近く落としたのではないかと思う。

 今日も、8時頃から午後7時頃まで働いたが、働いてもお金になりそうな気がしない。秋になって本当に売れるかどうか心配である。一寸ばかり摘果後の写真を載せておく。

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 朝から晩まで、脚立の上り下りをして落とした柿の枝と幼果である。これだけ落としても、秋にはまだ足りなかった思うに違いないのだが、なかなか思い切って落とすことはできない。周りの人に聞くと、皆そうらしい。でも、他人の木であれば、一枝に一つにと云われれば、その通りにできるという。人の心理は難しい。互いに、相手の園の摘果を請け負えばいいのかなとも思うが、これがまたそうはいかないという。

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