過剰と蕩尽 34

ATP の起源

 この季節、ほとんどお金にもならない農作業が目白押しで、落ち着いて考えるどころではない。ましてや、ややこしい ChemDraw の図など描く気にもならない。その上一昨日は、一反つまり300坪程の果樹園を借りる話を決めてきた。馬鹿かと言われれば少々腹がたつが、阿保やなあと言われたのであればそうかなと笑わざるを得ない。

 今回は、ほとんどというか、全てが他の研究者の成果の受け売りである。では今までの分はどうなんだと聞かれると、ちょっと困る。今までの話であっても、他の研究者の研究結果を下敷きにしているのはなんら変わらない。いささか常識からずれた、私なりの解釈を付け加えているにすぎない。簡単に言えば、今回は学問的常識の中にあるということだろう。

 さて、そこで ATP に関する幾つかの話題を提供したい。ご存知の方は無視して頂いて結構である。ATPは生物にとって最も重要で基本的な物質に一つであることは、誰しも否定できないだろう。ATPの関与しない代謝系を挙げよなどと言われたら、頭をかかえるしかない。

 化学的に見れば、アデニンとリボースとリン酸が構成要素である。疑問はいろいろとあるのだが、先ずこれらの構成要素は、前生物的に存在できたのかというのが第一の疑問になるだろう。生物がいないとATPは作られないというのであれば、ATPと生物は鶏と卵の関係に陥ってしまう。

 まずリン酸であるが、これはどこにでもある化合物である。近頃、クラーク数に対する信頼度が落ちてきているが、その他の推定結果を見ても、リンの地殻中の存在量は少なくとも炭素の2倍以上はありそうである。地球が作られた時に、酸化物であるリン酸が存在したかという疑問が湧きそうに感じるが、創成時の地球に酸素がなかったわけではない。当時、酸素は酸化可能な無機物と有機物の酸化に使われ、大気中に遊離した形では存在しなかったというにすぎない。現在の地球においても地殻中の酸素存在割合は46%程度を占めている。ちなみに、ほとんどのリンはリン酸の形まで酸化され水中に存在したカルシウムイオンと結合して水に不溶性のリン酸カルシウムアパタイトの形であったと推定されている。水に溶けないと生物の利用が難しい点については、還元的条件下での放電でリン酸カルシウムが水に可溶性の亜リン酸カルシウムに変換されたあと、比較的容易にポリリン酸に変換することが知られている。これ以外の可能性についての仮説もいろいろあるが、とにかくリン酸があっただけでなく、ポリリン酸も疑いなくプレビティックに生成する。現在でも、熱水噴出口付近で非生物起源のポリリン酸が検出されている。こうして生成したポリリン酸が、最初のエネルギー源として作用した可能性が唱えられているが、その中で若い頃読んだアーサー コーンバーグの報告が面白かった記憶が残っている。とにかく、リン酸ーそれも高エネルギー化合物であるポリリン酸ーがprebioticに存在することは間違いないであろう。

 次は、アデニンである。通常は一番左に書いた9H−アデニンが優先するが、可能性としては以下の3異性体だけでなく6位のアミノ基がイミノ基となった異性体類もあり得る。

Adenineの互変異整体

    人工化学物質(定義が不明なのだが)を異常に怖がり嫌悪する人にこの図を見せると、こんなものは絶対食べてはダメなどと言われることがある。少しだけでもいいから化学に対する壁を取り除いて欲しいと思うのだが・・・。

 そこでこのアデニンだが、猛毒である青酸ガスの5量体である。だからと言ってアデニンに毒性があるわけではない。アデニンのprebioticな存在の問題を、いわゆる生物のエネルギー通貨としてのATPの問題にに限定するのは、あまり賢い方法ではない。1960年に Joan Oro (最後の小文字のoの上にバッククオートあり)が、シアン化水素の濃アンモニア水溶液を加熱してアデニンの生成を報告して以来、多くの類似実験が行われアデニンだけではなくグアニン、シトシン、ウラシルがかなり容易に生成することが常識となっている。つまりアデニンのprebioticな生成は他の核酸塩基の生成と同時に起こりうることを前提にすべきであろう。この件については中村運氏が訳したWiliam F.Loomisの著書「40億年の生命進化」(1990年)やタンパク質 核酸 酵素」の総説「生命の起源を解く鍵 RNAワールド 小林憲正・古田弘幸・柳川弘志著」(1989)などに記載してある。

核酸塩基の合成経路 (タンパク質 核酸 酵素、Vol 34  No.2「生命の起源を解く鍵 RNAワールド 小林憲正・古田弘幸・柳川弘志著」(1989)より引用

 ちょっと情報が古いかも知れないが、その後  J. William Schopf (編)の「Life’s Origin: The Beginnings of Biological Evolution」やJ. Seckbach(編)の「Origins: Genesis, Evolution and Diversity of Life (Cellular Origin, Life in Extreme Habitats and Astrobiology)」くらいまでは、情報をフォローしていた。その後は仕事が忙しくなって、新しい報告はフォローしきれていない。ただ、こうした報告にある青酸の4量体であるジアミノマロノニトリルからアデニンへの反応のメカニズムについて、著者ーこれは論文の著者ではなく書いている本人を意味するーは理解できていない。イオン反応で考えるのかラジカル反応で考えるのか、中間で転移反応が必要なのだがどのように進行するのだろう。とにかく、色々な核酸塩基の中でアデニンがもっともできやすいのは間違いなさそうだ。

アデニンのプレビオティックな合成経路

 それはそうとして、ATPやADPもリン酸残基を運んでいる補酵素であると考えて良い。昔から補酵素の分子中には、「ヌクレオチドハンドル」と呼ばれるアデニンヌクレオチド(ADP)ユニットを含むものが多いことが知られている。NAD, NADP, FAD, CoA などにおいて、この部分は補酵素の機能には関与しないが、酵素分子に補酵素を認識させる役割をもつと言われている。このように、生物によるアデニンの利用が際立って多いことは、アデニンのできやすさに由来しているのであろう。生き物は、あるものを使うのである。使うためにあるものを作るわけではない。ああ、これもまた盗用だ。紀元前1世紀のギリシャの哲学者ルクレチウスが言っている。「体内には使用するために生じるものは何もない。生じた結果、それは使用される」と。

 最後はリボースの問題である。この問題はちょっと悩ましい。この悩ましさについては、2008年にH. James Cleaves IIがPrecambrian Researchの総説「The prebiotic geochemistry of formaldehyde」に書いていた。要するに、その時代の地球の大気組成が分からないだけでなく、隕石や彗星などによる物質の持ち込みなど不明な要素がありすぎると言うことであろう。とはいえ、比較的容易に生成するホルムアルデヒドは重合してトリオース、テトロース、ペントースを初めとする複雑な糖の混合物を与えるだけでなく、途中で生成した糖もこの反応に参加する。膨大なアルドール縮合の集合である。さらに、そうした多種多様な生成物の中でリボースが優先して生成することはない。

 この為、リボースを使う核酸の出現前にトリオースやテトロースを使っていた時代があるのではないかとの仮説が提出されている。アルバート・エッシェンモーザーは人工の核酸ポリマーであるトレオース核酸(Threose nucleic acid、TNA)を合成し、TNAがヌクレオチド配列の中に遺伝情報を蓄えることができることを明らかにしている。まあ、帯状疱疹治療薬などで使われるアシクロビルやガンシクロビルの構造を眺めれば、さもありなんと思わざるをえない。下段左にグアノシンとガンシクロビルの重ね合わせた図を載せている。

いくつかの擬ヌクレオシドと擬ヌクレオチド

 不肖の研究者である著者も、ペンタエリスリトールを糖残基として持つ偽ヌクレオチドを合成したことがある。下段の右に示しているが、加水分解を受ければ下段中央の形になる。もっとも、1段階目のリン酸化まで終わっているという捉え方もあると考えていた。合成した化合物群は真核細胞に対する毒性はなかったが、一部の化合物が Vero 細胞を用いたプラーク形成試験において Herpes simplex virus や Parainfluenza virus に対して活性を持っていた。2007年の人種差別発言によって地位と名誉をを失う前の James D. Watson  から文献請求が来て驚いた記憶が残っている。

 いま一つの問題は、アンモニアやアミノ酸などアミノ基を持つ化合物が糖の混合物と共存した場合、メイラード反応が起こるのは避けがたく、真っ黒なポリマーになってしまう。濃度の問題があるにしても、問題山積といった感じである。

 あまり長く引っ張りたくはない。生物は何故ATPを選んだのかと言う問題であったはずだ。この調子で続ければ、次はヌクレオシドのプレビオティックな合成を述べなければならなくなる。そうするとあやふやな糖の合成を基に議論せざるをえなくなる。大風呂敷を広げがちな私にとっても困った話である。雨は明日には上がる。数日は晴れるとすればまたアップが延びてしまう。という判断の下に、アデノシンが作られたことを前提にした所から続けたい。但し、このヌクレオシドの合成は、なぜ生物はL-アミノ酸を使うのかという極めて重要な謎を解くキイステップになる可能性を秘めている。是非、C4N説などを参照してほしい。

 ATPは生物にとって何故にこれほど重要な化合物になったのかという疑問が出発点であった。GTPでもUTPでもCTPでもなくATPである一つの理由は、ATPが他の塩基に較べて非常に生成されやすいことであろうと述べた。生物はあるものを使うしかないからである。では、ADPでもATetraPでもAPentaPでもなくATPなのかという問いに答えないといけない。原始の地球で比較的豊富に供給された生命エネルギー源と考えられるポリリン酸は、ATP と同様の高エネルギーリン酸結合を持ち、リン酸ナトリウムなどを単に数百℃で加熱するだけで合成される。但し、その鎖長はさほど均一ではないだろう。このポリリンサンを出発原料としてATPを特異的に生成する系が提出されている。生物工学 90 473-476に黒田章夫氏と廣田隆一氏が連名で書かれている総説「リン酸の無機化学とバイオテクノロジー」の中に次のような一節がある。

 「また、ポリリン酸の 一種である環状の3リン酸(トリメタリン酸)は無生物 的なATP合成に関係したかもしれないとされている《Etaix, E. and Orgel, L. E.: J. Carbo. Nucleosides Nucleotides, 5, 91 (1978).》。 長鎖ポリリン酸をマグネシウムイオン存在下で加熱する と、トリメタリン酸が優先的に生成される《Kuroda, A. et al.: Biotechnol. Bioeng., 78, 333 (2002).》。そのトリ メタリン酸とアデノシンを混合すると、無生物的にATP がワンステップで合成できる。無生物的にアデノシンの 5位にリン酸が一つ一つ結合してATPができたと考える のは難しいが、ワンステップなら合成経路として可能性 が高い.生物がなぜ3つのリン酸が重合したATPを生命 エネルギーとして選んだかは、ひょっとすると、ポリリ ン酸からのトリメタリン酸合成、さらにはATPのワン ステップ合成に理由があるのかもしれない。」

アデノシン-3-リン酸の選択的合成経路

 この反応が起こっていたのであれば、トリリン酸にしかなり得ない。まだ本当かどうかは分からないが、とても納得しやすいクリアーな仮説である。いや、これを言うために長々と書いてしまった。プレビオティックな合成の世界は、まだまだ興味深い謎に満ちている。

過剰と蕩尽 35 に続く

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駒打ち

 朝から小雨が続いて何もできない。畑に出ようにも足場が悪い。残念だが、百姓とはそんなものであるものである。他にすることがあるかと考えれば、作業小屋の整頓くらいだが照明が暗いので老眼にはちょっときつい。仕方なく出荷者用の栽培管理記録表を書いたり今年度の作付け計画書を書いたりしていたのだが、どうにも動きたい。軽トラに乗って近場のナフコに行ったら、知り合いが何人も来ていた。皆、同じように感じているらしい。雨の日は、ナフコ、コメリ、そしてパチンコ屋が混雑するという。

 午後4時を過ぎて少し小雨になったので、ウインドブレーカーを着込んで外に出た。今日は、シイタケの駒打ちを予定していた。5日ほど前に、昨年の11月に切って放置していたクヌギの木を1.2mくらいの長さに切断して持ち帰り、毎日水をかけて吸水させていたのである。実はこのシイタケ栽培、過去5年ほど試みているのだが、一度も収穫に至っていない。日当たり、雨あたりなどの条件を満たす置場所を見つけきれなかったのが原因のようだ。もっとも大きな原因は水不足であると判断している。

 今年こそと思いながらドリルで穴を開けていたら、ドリルの刃がポロリと落ちた。取り付け用の締め具を探すが、マーフィーの法則が宣う通り大事な時には見つからない。またもや近場にある工具店に走った。結局、駒を打ち終えたのは7時頃、打ち終えた原木は軽トラの背中に乗せたままで本日の作業は終了。

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新芽について考える

 戦後、経済の高度成長期を通して、庭木の公的需要のみならず私的需要の拡大が起こり、まさに植木ブームとでもいうべき社会現象を現出し た。しかし、昭和48年のオイルショックに起因する景 気の後退により植木産業にもかげりが見え始め、数年後には植木 ブーム も終焉を迎えた。

 別に歴史を語っているつもりはないが、私の住むうきは市の隣は有名な植木の産地である田主丸である。たまに出かけることがあるのだが、春先に黄金マサキの苗が栽培されているのを見ると、新葉は花が咲いているのかと見紛うほどである。この新葉の黄色はすぐに緑色に変わるのではなく、夏を過ぎる頃まで黄色を保つ。前年度の葉っぱが光合成をしているので、生長に影響するほどの問題は起こらないのだろう。(http://puripuri.blog.so-net.ne.jp/2008-05-01)同じことが真っ赤な新芽を持つレッドロビン(カナメモチ)にも言えそうである。(http://green-netbox.com/pe-zi/syouhin/9002.html)

 秋に黄葉あるいは紅葉する植物については、植物生理学の立場からのある程度は納得できる理由の説明がある。例えばイチョウの葉について言えば、イチョウの葉には緑色素のクロロフィルと同時に、ルテインやカロテンなど黄色を示すカロテノイドが含まれているのだが、クロロフィル量が多いため、夏の間は緑色に見えている。秋が深まると、クロロフィルが次第に分解されて減少し、カロテノイドの黄色が優勢になってくるというわけである。

 紅葉するカエデなどでは、秋が深まるにつれ落葉の準備として葉と枝の境に離層が形成され、水分の往来だけでなく糖やアミノ酸などの栄養成分の移動がストップする。この頃から葉緑素の減少が始まるのだが、同時に葉っぱの中に存在していたフラボノイドからの代謝物であるアントシアニジン類の3位あるいは5位に存在する水酸基が、グルコースなどの糖と結合して赤色で水溶性のアントシアニンが形成される。その結果、紅葉という現象が起こるわけだ。

 現象をそのまま述べるというのであれば、上で述べたような現象が起こっているのだろう。しかし、イロハカエデや先ほど述べたレッドロビンなど多くの植物の新芽はできはじめから深紅色を示すし、黄金マサキやロータスプリムストーンなど、黄色を示す植物も多い。植物の葉の色を述べるのであれば、こうした新芽の色に対する説明も必要だろう。つまり、新葉においてはクロロフィルの生合成が抑制されているだけでなく、アントシアニン合成・蓄積が起こったり、カロテノイドの生合成は活発に行われていることを意味している。何故か?

 「春先のカエデの若い枝が赤く色づいたように見えるのは?」という質問に対して、「日本植物生理学会のみんなの広場」では以下のように答えている。

      https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=3717

 ここでは枝の発色を問題にしているようだが、私は枝だけでなく葉っぱの色の方がよほど問題だと思う。この疑問に対する解答は、恐らくアントシアニン類の紫外線吸収能力にあるだろう。アントシアニン類は270 nmから335 nmあたりに強い吸収帯を持つ。これはUV-Bと呼ばれる生物に対する影響の強い280–315 nmの波長域を完全にカバーする。つまり、紫外線に対してまだ弱い軟弱な組織である新葉においては、日焼けを防ぐ能力を持つアントシアニン類を生合成し蓄積する能力を持つことが、生き残るのに有効であったということであろう。葉緑体の生合成の遅れについては、活性酸素処理能力が追いつかない状況では、光合成を行うメリットより組織が破壊されるデメリットの方が大きいのであろう。

 などと、実験的根拠の少ない仮説を述べると批判を受けそうだが、傍証であればいくつも存在する。多くの植物において、芽生えの状態では葉緑体の存在量が少ないのは間違いないだろう。植物は大事な組織(生長点や子房をイメージしている。いや、花粉も含めた方が良さそうだ)には葉緑体を含まないだけでなく、活性酸素消去脳を持つカロテノイドやフラボノイドなどUV-Bと呼ばれる280–315 nmの波長域に強い吸収を持つ防御物質を必ず持っている。突然変異を頻繁に起こしては困る花の部分はこの典型的な例であろう。なぜ緑色の花が、緑色の花粉が存在しないのか、その答えがここにあると考える。

 緑の新葉を持つカエデがあるではないかと、なんとなく意地悪な問いかけがありそうな気もするが、やはり新葉の緑色はとても薄い。それよりも、薄い緑の新葉を持つカエデの花、葉っぱの影に隠れているだけでなく見事に真っ赤です。

 ここで書くべきことではないとは思うが、一言だけ述べておく。最近の「過剰と蕩尽」の議論の中で、プリン塩基とピリミジン塩基の生合成を書き続けてきたが、これらの生合成系はすべて嫌気的条件下で進行する反応であり、酸素を必要とする反応は1段階もない。植物にとっても、酸素は取り扱いが非常に難しい物のようです。

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春いろいろ

 4月17日、久しぶりの少しまとまった雨である。昨日までの好天で、目の周りが熱を持つほど日焼けしていたので、いい休日である。気温は高めに推移しそうだから、この雨の後はワラビと雑草の生長が一気に進むだろう。

ワラビ:芽生えを踏まずに歩くのが困難なわらび畑 今のところ、1日で1 Kg程度は収穫できる。だがしかし、それを売ってお金にする手腕に欠けている。

 山の果樹園(果樹園というには収入が伴っていない)では、春の盛りというところであろう。数枚だけ写真を出しておく。

ゼンマイ:ワラビより高価で取引されるそうだが、商売にできるほどの量が取れるわけではない。でも、株元を見ればわかるように、すでに誰かが採集していった形跡が残っている。誰かが良い目にあっていればまあいいとしよう。
カエデの芽生え:秋に真っ赤に紅葉する品種の芽生えである。苗木屋さんで見ると、結構いい値段が付いている。ここから掘り起こして、鉢に上げればと思わないでもないが、販路を持たないと徒労に終わるのは間違いない。
スミレの品種はいろいろあって、同定はなかなか難しい。アカネスミレではないかと思っているが、そうでない可能性も十分にありそうだ。

 カエデの新芽はとても綺麗であるが、これについては別に投稿しよう。

 甘夏、ダイダイ、温州ミカン、パールカンなど、柑橘類の幾つかの品種を購入して植え続けている。多くの柑橘類は植えつけて2〜3年後から実がなり始める。一昨日届いたレモンの苗(リスボンとトゲなしのビアフランカ)も植えていたのだが、この雨のお陰で水やりはかなり楽になりそうだ。

 植えた苗木に取っては有り難い雨だが、もうすぐ収穫期を迎える早生のタマネギにとっては有り難いとばかり云ってはおられない。昨年の不作の原因であるベト病が心配である。勿論、雨が上がったあと殺菌剤を撒けば感染は避けられるとは思うが、収穫が近くなった時点での薬剤散布はあまりしたくない。しかし、病徴が出てからの散布では手遅れになる。明日からの天気を見ながら、悩ましい判断をしなくてはならないだろう。

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過剰と蕩尽 33

  今回でピリミジン塩基の生合成は終わる。ここまでは、明らかになっている代謝系をある程度正確に(私が間違っている可能性を除外できないため)トレースする必要があるため、ぐっと我慢して代謝系の説明のみに絞ってきた。ここが終われば想像の翼を大きく広げることが可能となる。それを妄想というんだよなどという有益な助言なんか蹴散らしてしまうことにしよう。

 とはいえ、今回までは自重しておとなしく話を進めることにする。  前回までにデオキシウリジントリリン酸(dUTP)の生合成が終わっていた。今回はdUTPから デオキシウリジントリリン酸(dTTP)までの経路についてである。先に示した図を再度掲載するが、この図には1つの反応が抜けていた。UDPからdUDPへと変換する系で・リボース残基からデオキシリボース残基への還元反応である。反応機構については前述しているので省略する。

 さて、dUTPからdTTPへと変換する系についてだが、他の例を参照すれば1段階で進みそうに思えるのに、この場合は一旦dUMPまで加水分解が進んだ後、このdUMPのピリミジン環に対するメチル化が起こりdTMPが生成する。次にdTMPが2段階のリン酸化を受けてdTTPとなる5段階の反応が必要とされるのである。最初の2段階は、ATP : dUDP phosphotransferaseとATP : dUMP phosphotransferaseと呼ばれる酵素に触媒される反応で、dUTP、 dUDPのリン酸基を一つADPへと転移する反応である。反応式は何度も描いて陳腐なモノになったが、一応下に示しておく。

 

 リン酸基の転移反応だから転移が起こるように描けば良いとはいうものの、2段階めの反応にはエネルギー的観点から見た時かすかな違和感を感じざるを得ない。この反応を進めるための何らかのメカニズムがあるのだろう。まあ色々と疑問は残るのだが、それらに拘泥していても仕方がないので先に進むことにしよう。次の図が今回の本命とも言えるdUMPからdTMPへの変換を中心に置いた図である。

 

 この説明に入る前に葉酸について少々薀蓄を傾けておく必要があるだろう。葉酸と入力してYahooやGoogleなどの検索結果を見ると、葉酸についての説明はほとんどなく葉酸を含んでいるというサプリメントの宣伝サイトがずらりと並ぶ。要するに、葉酸を知りたいのではなく、葉酸を含むサプリメントの情報が欲しい人が多いだけだろう。とはいえ、葉酸の生体内での存在様式とその関与する代謝についての知識がなければ、後で行う議論に入ることは難しい。まず、次の図を見て欲しい。

 

     葉酸は単純に葉酸と表記されている場合が多いが、実際はさほど単純なモノではない。それどころか葉酸(Folic acid)は、一般的に葉酸の機能とされている反応において厳密な意味では関与していない。葉酸は葉酸の機能を発揮する化合物群の前駆体というのが正しい見方ではないだろうか。図にあるように、いわゆる葉酸はNADPHを補酵素とするdihydrofolate reductaseの存在下に、ジヒドロ葉酸を通ってテトラヒドロ葉酸に変換される。図から言えることは、葉酸の本質的な機能である1炭素転移反応に関わるのはジヒドロ葉酸からである。葉酸は生合成における前駆体に過ぎないと書いたのは、これが原因である。各反応の矢印の上に、反応を触媒する酵素のEC numberを示しているので、興味のある方はどんな反応を触媒しているか検索されることをお勧めする。現在問題となっているdUMPからdTMPへの変換は2.1.1.48によって触媒される反応であり、N5, N10-Methylene-tetrahydrofolateから5,6,7,8-Tetrahydrofolateへの変換に伴う反応である。

 少しだけ補足するが、地球上の生物にとって1炭素化合物の扱いはいささか難しそうだ。メタノールとエタノール、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒド、ギ酸と酢酸などを較べても、1炭素化合物の毒性が高い。こうした1炭素化合物群を利用するためのシステムは葉酸類を補酵素とする酵素群が働いている。こう書くと毒性のある1炭素化合物の解毒を担うように誤解される場合があるが、実際はそうではなくもっと積極的な意義を持つ。先ほど書いたがDNAを構成しているチミン残基の生合成に関与しているだけではなく、アデニンとグアニンの生合成においても必須である。さらに、タンパク質生合成の開始コドンに対応するN-ホルミルメチオニンのホルミル基の給源もN10-Formyl-tetrahydrofolateであるし、タンパク質を構成しているアミノ酸の中で、メチオニンの生合成、グリシンとセリンの相互変換にも必須である。

   これらの事実は、生物の起源についてDNAワールド仮説・RNAワールド仮説・プロテインワールド仮説のいずれを取るにしても、そのワールドができる以前に葉酸の関与する代謝系が成立している必要があると考えていいだろう。

 そこでdUMPからdTMPへの変換反応である。N5, N10-Methylene-tetrahydrofolateをメチル基の給源として利用する酵素5,10-methylenetetrahydrofolate,NADPH:dUMP C-methyltransferaseによって触媒される反応である。反応はカルボニル基の立ち上がりと協奏して酵素のシステイン残基が付加するところからはじまる。生成したエノール体が再びケト体に戻るとき、N5, N10-Methylene-tetrahydrofolateから生成した10位の窒素上に生成したイミニウムイオンの炭素原子に求核的に付加をする。メチレン基とカルボニル基に挟まれたメチ基のプロトンが、酵素内の塩基によって引き抜かれてメチレン基を形成する。このメチレン基に、葉酸残基の6位似合った水素がハイドライドとして付加すると同時に酵素が元に戻るという反応によりめでたくdTMPがつくられる訳である。

 これに続く2段階のリン酸化反応は、なんでもないATPリン酸基の転移でありさほどの説明はいらないだろう。図だけを示しておくことにする。

ようやくピリミジン塩基の生合成が終わったが、さて何のために核酸の生合成を述べる羽目になったのか。つい先ほどまでは、ポルフィリンの話をしていたはずである。次回のアップまでに、何を問題にしていたのか思い出していただければ幸甚である。

過剰と蕩尽 34 に続く

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