新芽について考える

 戦後、経済の高度成長期を通して、庭木の公的需要のみならず私的需要の拡大が起こり、まさに植木ブームとでもいうべき社会現象を現出し た。しかし、昭和48年のオイルショックに起因する景 気の後退により植木産業にもかげりが見え始め、数年後には植木 ブーム も終焉を迎えた。

 別に歴史を語っているつもりはないが、私の住むうきは市の隣は有名な植木の産地である田主丸である。たまに出かけることがあるのだが、春先に黄金マサキの苗が栽培されているのを見ると、新葉は花が咲いているのかと見紛うほどである。この新葉の黄色はすぐに緑色に変わるのではなく、夏を過ぎる頃まで黄色を保つ。前年度の葉っぱが光合成をしているので、生長に影響するほどの問題は起こらないのだろう。(http://puripuri.blog.so-net.ne.jp/2008-05-01)同じことが真っ赤な新芽を持つレッドロビン(カナメモチ)にも言えそうである。(http://green-netbox.com/pe-zi/syouhin/9002.html)

 秋に黄葉あるいは紅葉する植物については、植物生理学の立場からのある程度は納得できる理由の説明がある。例えばイチョウの葉について言えば、イチョウの葉には緑色素のクロロフィルと同時に、ルテインやカロテンなど黄色を示すカロテノイドが含まれているのだが、クロロフィル量が多いため、夏の間は緑色に見えている。秋が深まると、クロロフィルが次第に分解されて減少し、カロテノイドの黄色が優勢になってくるというわけである。

 紅葉するカエデなどでは、秋が深まるにつれ落葉の準備として葉と枝の境に離層が形成され、水分の往来だけでなく糖やアミノ酸などの栄養成分の移動がストップする。この頃から葉緑素の減少が始まるのだが、同時に葉っぱの中に存在していたフラボノイドからの代謝物であるアントシアニジン類の3位あるいは5位に存在する水酸基が、グルコースなどの糖と結合して赤色で水溶性のアントシアニンが形成される。その結果、紅葉という現象が起こるわけだ。

 現象をそのまま述べるというのであれば、上で述べたような現象が起こっているのだろう。しかし、イロハカエデや先ほど述べたレッドロビンなど多くの植物の新芽はできはじめから深紅色を示すし、黄金マサキやロータスプリムストーンなど、黄色を示す植物も多い。植物の葉の色を述べるのであれば、こうした新芽の色に対する説明も必要だろう。つまり、新葉においてはクロロフィルの生合成が抑制されているだけでなく、アントシアニン合成・蓄積が起こったり、カロテノイドの生合成は活発に行われていることを意味している。何故か?

 「春先のカエデの若い枝が赤く色づいたように見えるのは?」という質問に対して、「日本植物生理学会のみんなの広場」では以下のように答えている。

      https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=3717

 ここでは枝の発色を問題にしているようだが、私は枝だけでなく葉っぱの色の方がよほど問題だと思う。この疑問に対する解答は、恐らくアントシアニン類の紫外線吸収能力にあるだろう。アントシアニン類は270 nmから335 nmあたりに強い吸収帯を持つ。これはUV-Bと呼ばれる生物に対する影響の強い280–315 nmの波長域を完全にカバーする。つまり、紫外線に対してまだ弱い軟弱な組織である新葉においては、日焼けを防ぐ能力を持つアントシアニン類を生合成し蓄積する能力を持つことが、生き残るのに有効であったということであろう。葉緑体の生合成の遅れについては、活性酸素処理能力が追いつかない状況では、光合成を行うメリットより組織が破壊されるデメリットの方が大きいのであろう。

 などと、実験的根拠の少ない仮説を述べると批判を受けそうだが、傍証であればいくつも存在する。多くの植物において、芽生えの状態では葉緑体の存在量が少ないのは間違いないだろう。植物は大事な組織(生長点や子房をイメージしている。いや、花粉も含めた方が良さそうだ)には葉緑体を含まないだけでなく、活性酸素消去脳を持つカロテノイドやフラボノイドなどUV-Bと呼ばれる280–315 nmの波長域に強い吸収を持つ防御物質を必ず持っている。突然変異を頻繁に起こしては困る花の部分はこの典型的な例であろう。なぜ緑色の花が、緑色の花粉が存在しないのか、その答えがここにあると考える。

 緑の新葉を持つカエデがあるではないかと、なんとなく意地悪な問いかけがありそうな気もするが、やはり新葉の緑色はとても薄い。それよりも、薄い緑の新葉を持つカエデの花、葉っぱの影に隠れているだけでなく見事に真っ赤です。

 ここで書くべきことではないとは思うが、一言だけ述べておく。最近の「過剰と蕩尽」の議論の中で、プリン塩基とピリミジン塩基の生合成を書き続けてきたが、これらの生合成系はすべて嫌気的条件下で進行する反応であり、酸素を必要とする反応は1段階もない。植物にとっても、酸素は取り扱いが非常に難しい物のようです。

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