ペントースリン酸経路への異論・・・4

 いやいや原生生物界の生物群の多様性は驚きなどと云う言葉で現すべきではない、驚愕というかなんというか、目を洗われるような結果であった。分類に関しては Revision of higher taxonomic classification of eukaryote—As for classification in Adl et al. (2019) https://www.jstage.jst.go.jp/article/taxa/48/0/48_71/_pdf などを参照して下さい。とにかくざっとKEGGにおける分類を下に示す。

Protists

(no phylum) 分類門なし 1

Evosea    細胞性粘菌、原生粘菌

Discosea   ディスコセア綱(class Discosea)は、アメーボゾアの主要な分類群の1つ

Apicomplexa  アピコンプレクサ類は生活環のどこかでアピカル コンプレックス  (apical complex、頂端複合構造)という構造を持つ

Ciliophora   動物的単細胞生物の一種で、 ゾウリムシやラッパムシ、ツリガネムシ、テトラヒメナなどが含まれる

(no phylum)   分類門なし 2

Bacillariophyta  不等毛植物に含まれる単細胞性の藻類のグループで日本語では珪藻類。

(no phylum)   分類門なし 3

Oomycota   不等毛類に属する原生生物の一つで日本語では卵菌と呼ぶ。

Haptophyta   真核微細藻類の一群で日本語ではハプト藻と呼ぶ

(no phylum)   分類門なし 4

Euglenozoa   ミドリムシを含むユーグレナ植物門と、アフリカ睡眠病を引き起こすトリパノソーマなどが含まれるキネトプラスト類とをまとめた分類群

Heterolobosea   無色の原生生物の一群で、ペルコロゾア (Percolozoa) とも呼ばれ、アメーバ、鞭毛虫、シストといった形態の間を変態できる生物が含まれる。

Parabasalia   鞭毛虫型の原生動物の一群で、大部分が寄生性の生活を営む。特にシロアリやゴキブリの消化管内に棲むものは多彩な外見をしており、さらに自分自身の細胞内にも共生バクテリアを保持している。

Fornicata    嫌気性または微好気性の単細胞生物から構 成 さ れ る分 類 群 で あ る。 こ の 分 類 群 では典型的なミトコンドリアを欠き、その代りにミトコンドリアから進化し、機能が縮退したミトコンドリア関連オルガネ(MRO)を有している。

 この辺りの分類については無知同然ですし、分類自体も新説が毎年のように出されていて、確立されたとは言えない状態のようだ。偉大な先達である南方熊楠氏に助言を求めたい気分である。ともあれ上から見て行くことにする。

no phylum(分類門なし 1)の持つペントースリン酸経路


mbr Monosiga brevicollis の持つペントースリン酸経路
sre Salpingoeca rosettaのもつペントースリン酸経路

 この両者に関しては、襟鞭毛虫であるMonosiga brevicollisが経路1を持つ事で、いくらか動物に近く、群体形成性襟鞭毛虫であるSalpingoeca rosetta はこの系を欠いているため植物に近いのかなと思う程度で(この判断の正否は分からない)、NADPH2 生合成は行っているし糖の相互変関係も動いているため、さほど問題にするようなグループではない。

Evosea (細胞性粘菌、原生粘菌のグループ)

キイロタマホコリカビ ムラサキタマホコリカビ エツキタマホコリカビのペントースリン酸経路

Dictyostelium discoideum (cellular slime mold)(キイロタマホコリカビ)のペントースリン酸経路
Dictyostelium purpureum (ムラサキタマホコリカビ)のペントースリン酸経路
Cavenderia fasciculata (エツキタマホコリカビ)のペントースリン酸経路

 上記3種のペントースリン酸経路も、極めてオーソドックスなもので、ペントースリン酸経路の存在意義に異議申し立てをするようなものではない。

 次はEvosea(細胞性粘菌、原生粘菌)に所属する以下の3種の持つペントースリン酸経路である。

(no class)
Mastigamoebida
ehi Entamoeba histolytica
edi Entamoeba dispar
eiv Entamoeba invadens
Entamoeba histolytica の持つペントースリン酸経路
Entamoeba dispar のペントースリン酸経路

 Entamoeba histolytica はアメーバ赤痢を引き起こす病原体であると考えて良いようだ。詳しく言えば、原虫である赤痢アメ−バが引き起こす大腸炎で、粘血便をはじめとし、下痢、しぶり腹、腹痛などの赤痢症状を示すものをアメ−バ赤痢と呼ぶ。Entamoeba dispar Entamoeba histolytica の近縁種で人に感染するが、病原性は持たないらしい。この両者は同じペントースリン酸経路を持つのだが、NADPH2の生合成経路を欠いている。さらに、ペントースリン酸経路における象徴ともいえるトランスアルドラーゼも欠損している。この欠損があってもD-リボース−5−リン酸への系は存在している。とすれば、ペントースリン酸経路の存在価値は、D-リボース−5−リン酸生産にあるのかなと短絡的に考えてしまいそうだが、次のEntamoeba invadens のペントースリン酸経路をみると頭を抱えることになる。

Entamoeba invadens のもつペントースリン酸経路

  Entamoeba invadens は、人間の寄生虫である赤痢アメーバとよく似た爬虫類に寄生するアメーボゾア寄生虫なのだが、このEntamoeba invadens が持つペントースリン酸経路には、NADPH2の生合成経路のみならずD-リボース−5−リン酸生産を担う系が存在しない。さて、どのように考えればいいのだろう。まだ先があるので性急に結論を出すことは控えるが、これら3種の生物は寄生生物である。必要な生体成分はホストから供給されているという可能性を残しておくべきだろう。知らないことばかりでなかなか進まないが、70代半ばになっても考えるネタがあると云うのは幸せである。

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体調不良

 3月の終わり頃から一寸ばかり参加者の多い会合に3回ほど出席した。それが原因であるかどうかは不明だが、その辺りから無秩序な体調不良に悩まされている。視力の低下、倦怠感、体力の低下、味覚異常、痰が切れず声が出難い、嗅覚異常、平衡感覚の異常、食後の頻脈、昼夜を問わない頻尿など。症状をながめても腎臓が悪いとか肝臓が弱っていそうとか言えそうな体系性に欠けるのである。あり得る可能性の中で最もありそうなのは、しばらく放置していた糖尿病が悪化しているということだろう。

 あちこち纏めて全部悪い、頭も悪くなっていると云えば、それは仕方がないが、こんな場合西洋医学の切れ味が悪くなる。内科か、循環器科か、呼吸器科か、耳鼻科か、眼科か、泌尿器科か、どこに行けば良いか分からない。もうお年ですからと括られて終わりだろう。何とか科と分断された状況にある医師は他の分野に関して深い知識は持たない場合が多い。近くの総合病院に紹介するしかしないだろう。東洋医学はもともと切れ味鋭いものではないが、はまった場合はとても効果的なこともある。放置を続けていたらお盆が過ぎた。ロングコビッドの可能性も頭をかすめるが、その場合の治療法は確立していない。とすればどこへ行くべきか、しばらく考えてみよう。

 昨日、午後から夕立で少し涼しかったので、雑草が伸び放題になっていた5反ほどの畑の草を切った。前回から一月半くらいしか経っていないのだが草丈は1mを超えていた。秋作のジャガイモを植えようと思っているので、草切りをした畑を2度ほどトラクターで耕耘し、肥料をまいた後9月初めの植え付けとなる。それでも半分ほどの土地が余るので、残りにはカボチャ(冬至カボチャ)を植える予定である。植え付けた後、ほとんど手のかからないものを選んだわけだ。それはそうと、ほんの一畝だけ植えておいたサツマイモがそろそろ収穫なのだが、困ったことにすぐ近くにまでイノシシが侵出している。電柵をと思うが、乾電池式の発信機とポールと電線でも5万円ほどかかる。採れたサツマイモ、自分はひねたイモを食べ良い芋を売ったとしても1万円にもならないだろう。まあ来年も使えるので良いことにしよう。年に一回、一時期にしか使わない道具だけは増えて行く。生業としての農業では道具長者にはなれてもお金持ちにはなれない。もっとも納得してやっているので、苦にはならないし不満もない。

 

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ペントースリン酸経路への異論・・・3

 まあここまで来たのだから、ダメならダメで良い、一通り菌類(Fungi)、バクテリア、そして古細菌まで眺めて見よう。いままで解糖系やTCA回路に対する問題提起をして、それらの存在意義についての常識が違うのではないかとする仮説が、本人としては成立したと思ってはいるが、毎回思惑通りの結果が得られるものではないと半分諦めの境地で菌類のペントースリン酸経路を調べ始めた。予想通りといってはなんだが、菌類の持つペントースリン酸経路は、素反応1を欠き素反応2と3でNADPH2生合成を行う植物型のものであった。つまり、菌類に於いてもペントースリン酸経路はNADPH2生合成と不可分の関係にあった。いくつか馴染みのある酵母やカビの経路図を示そう。

Saccharomyces cerevisiae (budding yeast:出芽酵母) 
いわゆる清酒酵母のペントースリン酸経路
 Pentose phosphate pathway – Candida albicans のペントースリン酸経路
Neurospora crassa いわゆるアカパンカビのペントースリン酸経路
Penicillium rubens (抗生物質であるペニシリンを生産することが
知られていた最初の種)

 これ以上羅列しても仕方がない。Pyricularia oryzaeFusarium graminearum(ムギ類赤かび病菌)、Aspergillus niger 、Penicillium rubensSchizosaccharomyces pombe (fission yeast)、Trametes versicolor(カワラタケ)などなど、ほぼ全ての菌が植物タイプのペントースリン酸経路を持っていた。ただ一寸気になったのは、我々にとって身近な Aspergillus oryzae : (コウジカビ)が素経路1だけでなく2の両者を欠失しており、ペントースリン酸経路でのNADPH2生合成を行っていない。

 Pentose phosphate pathway – Aspergillus oryzae の持つペントースリン酸経路

 生体内には、ペントースリン酸経路以外にもNADPH2を生合成する経路はいくつも存在する。コウジカビがペントースリン酸経路でのNADPH2生合成を行っていないからと云って、そんな極々稀な例を基に論を起こすほど常識を失っているつもりはない。とにかく何か変だなという記憶を残しておくことにして、次の生物界である原生生物界に行きたいのだが、その前に少しだけ生物の分類群を整理しておく。動物と植物に関しては、まあ一般的理解と大きな開きはないとして、菌類と原生生物類と細菌類の違いについて充分に理解されているとは言い難い。そもそも分類そのものが未だ確定しているとも言い難い。私が参照しているKEGG のサイトも、分類に関しては余り気にしていないようだ。とはいえ、進化の起こった順というよりカール・ウーズの3−ドメイン説を幾分加味するとすれば、プロチスタの次に古細菌をおき、次に古細菌、最後に真正細菌を置いたほうが良さそうに感じるが、ここで問題にすることもないだろう。それよりも、ペントースリン酸経路を構成する系として描かれているにもかかわらず、素反応4と5を経由してNADPH2生合成を行っている生物がまだ出現していないことが少々気掛かりである。

 さてそこで、原生生物(プロチスタ)と呼ばれる生物群の持つペントースリン酸経路に入るのだが、この群に含まれる生物はなかなか難しい。プロチスタ (Ernst Haeckel 1866)、当初は真核/原核にかかわらず、何となく分類し難い単細胞生物を置いておく場所であったようだ。現在ではかなり整理が行われ、単細胞の状態で生活をする 真核生物を示す集合として用いられているが、含まれる生物は古典的な「原生動物」の他に、 珪藻など単細胞の藻類や、単細胞の生活環をもつ菌類なども含まれ、大きな多様性を秘めている分類群である。

 という事で、データの整理をしていたのだが、作っている田んぼにイノシシが侵入し畔を掘り起こしてしまった。先日の大雨で川から越水してした水で、かなり軟弱になっていたのも原因のようだ。そのままにしておくと穂ばらみ期に稲を食害されるだけでなく米に獣臭が付いて食べられなくなると云う。一昨日から弱った体にむち打って周囲の草刈りをし電柵の設置を始めた。明日には終わると思うが、それは体力次第である。取り合えず、ここまでをアップしておくことにする。次回は早いうちに公開できる予定である。

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老中会

 大学を卒業して52年、コロナ禍で開けずにいた50周年同窓会に出席してきた。浮羽には線状降水帯が居着いてしまい、二日前までは陸の孤島だったが。当日は何とか動けたので久しぶりの博多詣でである。

 52年というより半世紀余りと云ったほうがといったほうが雰囲気が出る氣がする。学科定員が40人でほぼ半数の出席だった。私の老化は着実に進んでいるらしく、貌を見ても誰であったか即座には分からない人が何人もいた。話し始めると昔のイメージがよみがえり、いまの貌の中に昔の貌が浮かんでくる。皆、変わったけど変わらないな。色々と話しながら、当時の苦い思い出もよみがえってくる。

 あの頃、私は小児喘息を引きずっていたため長時間の運動が出来なかった。インターバルを開ければ動けるのだが長距離を連続して走るのは全くダメ、それが原因で体育会系のクラブに入部することはなかった。山に登るのは好きだったが、いつ発作が起こるか分からず、ほぼいつも単独行、スライドショーで昔の山行きの写真が流れていたが何処にも私はいなかった。友人達が連れ立って九重山登っていた時、私は標高の低い宝満山・三郡山、四王寺山、古処山・屏山、浅間山・岳滅鬼山、英彦山から浅間山・岳滅鬼山などを彷徨っていたわけである。

 そんな事はどうでもよいとして、久しぶりの出会いは楽しかった。幹事をやってくれたM君と数人の方々に、改めて感謝である。さらに素晴らしい話ーF君が立派な賞を授与されたーもあって、会は盛り上がった。私は次の日に所要があって一次会で抜けたのだが、最後までいたかったな。

 一つだけ心残りがあるとすれば、この52年の間に亡くなった友人がいる。会の何処かで黙祷の時間を考えていたが、忘れてしまっていた。次回は忘れないようにしよう。

 さて、我々は後期高齢者という厚生労働省の官僚が名付けた、血も涙もないような名前で分類されるようになりつつあるのだが、この名前では前を向いて生きる気になれない。先はないよと冷酷にいわれているようで反発している。もし、このブログに出会った後期高齢者の方々、せめて名前だけでも反抗しようではないか。以前にこのブログの中で書いたかもしれないが、70~79歳を老中、80~84歳を筆頭老中、85~94歳を大老と呼ぶのはどうだろう。95歳以上をどう呼ぶか、神老ではどうだろう。少なくとも聞いて氣持ち明るくなる名を付けべきであると考えている。

 氣と気、顔と貌は意識的に使い分けています。本来の老中、大老に年齢の意味が含まれていないのも承知の上です。

 

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Tペントースリン酸経路への異論・・・2

 前回の最後に大袈裟なことを書いてしまったのかもしれない。しかしながら、この世の中に従前から唱えられ続けてきたペントースリン酸経路の意義を問い直すような仕事は、世捨て人みたいな生活をしている少数派にお似合いの営為かもしれない。

 まずペントースリン酸経路を概説したい。以下にKEGG に乗せられているReference Pathway に関する図とその説明を引用する。

ペントースリン酸経路の Reference Pathway

The pentose phosphate pathway is a process of glucose turnover that produces NADPH as reducing equivalents and pentoses as essential parts of nucleotides. There are two different phases in the pathway. One is oxidative phase in which glucose-6P is converted to ribulose-5P by oxidative decarboxylation, and NADPH is generated . The other is reversible non-oxidative phase in which phosphorylated sugars are interconverted to generate xylulose-5P, ribulose-5P, and ribose-5P. Phosphoribosyl pyrophosphate (PRPP) formed from ribose-5P is an activated compound used in the biosynthesis of histidine and purine/pyrimidine nucleotides. This pathway map also shows the Entner-Doudoroff pathway where 6-P-gluconate is dehydrated and then cleaved into pyruvate and glyceraldehyde-3P .

 「和訳:ペントースリン酸経路は還元剤としてのNADPH2 とヌクレオチドで不可欠な成分であるペントース類を生産するグルコース変換のプロセスである。この径には二つの異なったフェイズが存在する。一つは不可逆的な酸化段階であり、この部分においてグルコースー6ーリン酸は酸化的脱炭酸によりリブロースー5ーリン酸に変換され同時にNADPH2 が生成する。もう一つの可逆的かつ非酸化的段階においては、リン酸化された糖が相互変換され、xylulose-5P, ribulose-5P, and ribose-5Pを生成する。リボース–5−リン酸から作られたホスホリボシルピロリン酸は活性化された化合物であり、ヒスチジンやプリン/ピリミジンヌクレオチドの生合成において使用される。ここに示した経路図はまた、6−ホスホグルコン酸が脱水素と同時にピルビン酸とグリセルアルデヒド−3−リン酸へ解裂を受ける Entner-Doudoroff pathway も表記している。」間違っていた場合の責任は筆者にあります。

 ここで書いてあることを要約すれば、ペントースリン酸経路はNADPH2 とペントース類を生産するためのグルコース変換のプロセスである。そしてグルコースー6ーリン酸から酸化的脱炭酸によりリブロースー5ーリン酸に至る不可逆的なNADPH2 生産段階と、リン酸化された糖の相互変換によりxyluloseー5-リン酸、ribuloseー5-リン酸、 riboseー5-リン酸を生成する段階に分けられるということになるだろう。

 上図を眺める限りにおいてペントースリン酸経路の出発物質は α–D–グルコース–6–リン酸であると考えていいだろう。ここについて重箱の隅と突くような議論はしない。KEGG の説明に従えば、ペントースリン酸経路の本体は紫の選で区分された部分、右上の一画がエントナードルドロフ経路、左の緑の部分が解糖系、中央下部の緑の部分が核酸塩基並びにヒスチジンに連なる部分である。ペントースリン酸経路の本体の中では、赤の矢印で示した部分が酸化的段階で最初と4番目の赤矢印の段階でNADPH2 の生産が行われ、リブロース−5−リン酸以降の部分が糖の相互変換の部分ということになる。

 以上が世の中の常識であり、この見方に異を唱える人に出会ったことはない。当たり前の話で、ペントースリン酸経路のレゾンデートルなどというテーマでやり取りをしたことがないのだから、出会う筈はなくて当然である。色々な学会の懇親会であっても、例え二次会であってもそんな話題は出し難い。退職直前の最終講義などであれば可能かなと思うが、私の場合は自己都合による退職だったので、そんな機会は与えられなかった。それは自業自得のなせる業として、依って立つ基礎的代謝系の見直しを全く考えないという世の趨勢はそれで良いのだろうか。歴史生物学においては、一つ一つの経路において、その経路を持つ生物間における差違を重視し、経路の各部分が出現した順序すなわち歴史性を重視する。以下に種々の生物の持つペントースリン酸経路を列記して議論するので少し時間をかけて眺めてほしい。

 私自身はある生物が高等であるとか下等であるとか云う意識はほとんど持っていないのだが、多くの人々は人類を万物の霊長と捉えている様なので、動物の代表例として人のペントースリン酸経路を使うことにする。人類の近い友達であるゴリラ、チンパンジー、オランウータンのペントースリン酸経路も同時に考慮することにする。各生物の持つペントースリン酸経路を示す前にもう一度 Reference Pathway を示し、ペントースリン酸経路の素反応にナンバリングをしておくことにする。

ペントースリン酸経路の重要な素反応にナンバリングをした

そこで、霊長類4種のペントースリン酸経路を表示しよう。

Pentose phosphate pathway – Homo sapiens (human)
 Pentose phosphate pathway – Pan troglodytes (chimpanzee)
 Pentose phosphate pathway – Gorilla gorilla gorilla (western lowland gorilla)
 Pentose phosphate pathway – Pongo abelii (Sumatran orangutan)

 この4種の生物のペントースリン酸経路は似たようなものだと思えるが、チンパンジーにおいては素反応2の部分が欠失している。必然的に素反応3も酵素はあるにしても機能していないと考えて良いだろう。一寸だけ気になるのは2の反応がNADPH2の生成反応であるということなのだが、素反応1がバイパスとして存在しているので問題にはならないのだろう。ただ、1の経路で働く酵素(ENZYME: 1.1.1.47)は、補酵素としてNADP+だけでなくNAD+であっても機能する。それがどうしたと聞かれても答えはない。事実を事実として書いただけである。

 近縁なヒトとチンパンジーの間であっても系に差があるとしたら、多種の生物を比較するといろいろな変異がありそうに思えるがそうではない。ヒト型の系を持つ動物にはゴリラ、オランウータン、ヤギ、ネコ、アカギツネ、ディンゴ、ラット、マウス、ウマ、コウモリ、アフリカゾウ、ラクダ、ウシ(3を欠損)、アムールトラ(3を欠損)、タヌキ、それにボノボはチンパンジーと近縁だがこちらに属する。魚類とヘビとカメとワニ、カエルの仲間の大半もこちらに属しそうだ。シーラカンスでさえヒト型のペントースリン酸経路を持つ。

 チンパンジー型の系を持つ動物はいくぶん少なく、イエイヌ、バイソン、鳥類であるニワトリ、シチメンチョウ、スズメ(3も欠損)、フクロウ、ウズラ、それからクロコダイルなどなど、続けても明確な結論は出そうにない。何しろ、動物としては原始的とみられているカイメンやサンゴの仲間もヒト型のペントースリン酸経路を持つ。

 つまり経路1あるいは経路2と3を持って、NADPH2生産を行っているという事実である。次に植物に目を移すと、全ての種において1の経路を欠損しているようだ。この傾向は節足動物においても顕著である。掲載されている全部の種類をみたわけではないが、検索した昆虫類、ダニ類の全てが1の経路を欠損してた。

 続いて植物界の代表としてArabidopsis thaliana (thale cress)の系と原始的藻類とされるOstreococcus tauri の系を引用するが、両者は経路1が欠損したほぼ同一の経路を持つ。ここには素反応2を欠いた生物は存在せず、この反応によってNADPH2 の生産が行われているようだ。

Pentose phosphate pathway – Arabidopsis thaliana (thale cress)
Pentose phosphate pathway – Ostreococcus tauri

 何をしようとしているのかいくぶん分かりにくい話だと思われそうだが、実はペントースリン酸経路の持つNADPH2 生合成について、これは必須のものではなく後で付け加わったものに過ぎないという論証をしようと思ってここまできた。だが、ペントースリン酸経路はNADPH2 生合成を経路であるというロジックはびくともしない。次回もその綻びを探してもう少し彷徨って見たい。

 

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