ペントースリン酸経路への異論・・・6

 どうも考えることが多すぎてアピコンプレックス門のコクシジウム綱に属するトキソプラズマ(Toxoplasma gondii)を書き落としていた。この失念が本当に失念であるのか、この生物に対する私の嫌悪感が失念を引き起こしていたのかは区別がつかないが、とにかく補足することにする。ともかくToxoplasma gondii のもつペントースリン酸経路を以下に示す。

Toxoplasma gondii のもつペントースリン酸経路

 この経路は、NADPH2 生合成のみならずリボース–5−リン酸の生合成系が可能な植物のもつ経路とほぼ同じ経路であり、ここで取り立てて議論するようなものではない。ただ、寄生する生物であってもこうして完全な経路を維持するものがいるというだけである。

 このアピコンプレックス門に属する生物群は、先にも書いたように寄生性の生活史を持つ。私だけの感覚に過ぎないのかもしれないが、貴方は○○細菌感染症だと告げられた場合はああそうかと思うに過ぎない。しかし、○○と云う原生生物が寄生していますと云われたら、背中がゾクゾクしそうだ。

 さて知られているアピコンプレックス門の生物は全てが寄生性である。宿主は後生動物全般に渡るが、個々の種の宿主特異性はある程度高いと考えられている。腸管、体腔、組織、血液などに寄生し、宿主に対して病原性を示すものが多い。人に寄生するマラリア原虫を初めとして、アピコンプレックス門の原虫によって引き起こされる代表的な疾病には以下のようなものがある。

 バベシア症(Babesia): マダニの吸血の際に唾液を介してスポロゾイトが宿主内に侵入して発症する。症状は発熱と溶血性貧血を主とする。日本ではギブソン犬バベシア Babesia gibsoni 、および犬バベシア Babesia canis 感染による犬のバベシア症が存在する。

 クリプトスポリジウム症 (Cryptosporidium): 土壌や水、未調理もしくは感染者・感染動物の糞便に接触して二次的に汚染された食物などにより経口感染し、哺乳類の腸が障害を受ける寄生虫病である。免疫系が健全なヒトに対しては自然寛解性の2週間程度続く下痢が主な症状である。しかし免疫不全状態にある人では、重症化ししばしば致死的になる。クリプトスポリジウムのオーシストは塩素系漂白剤などの消毒剤に高い抵抗性を示す。

 マラリア (マラリア原虫、Plasmodium): マラリアについてはよく知られているので、説明は省くことにする。必要な情報は、大まかにはウィキペディアのマラリアの項を参照されるか、https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB のマラリアの項を見れば良い。一寸興味深いのは、マラリア原虫はアピコンプレックス門 胞子虫綱 コクシジウム目に属するのだが、分子系統解析の結果に従えばアルベオラータという系統に属する。ここには渦鞭毛藻類も属することが知られているのみならず、近年マラリア原虫からも葉緑体の痕跡が発見された。そのため、その全てが寄生生物であるアピコンプレックス類も、祖先は渦鞭毛藻類と同じ光合成生物であったと考えられ始められている。そうであれば、植物とほぼ同一のペントースリン酸経路を持っていても不思議はない。

 トキソプラズマ症 (Toxoplasma gondii): トキソプラズマ症 についても必要な情報は、大まかにはウィキペディアのトキソプラズマの項を参照されるか、https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB のトキソプラズマの項を見れば良い。そんな説明で済ますのであれば書くなといわれそうだが、幾分気になることがあるのでその部分について書くことにする。

 トキソプラズマは人を含む幅広い温血動物に寄生するが、終宿主はネコ科の動物である。人間への感染は、シスト(感染した生物の脳や筋肉の組織中に厚く丈夫な壁に包まれた球形の塊をシストと呼ぶ。シストは数千におよぶ緩増虫体(ブラディゾイト)を含み、無性生殖によりゆっくりと増殖している。)を含んだ食肉を食べること、オーシスト(終宿主であるネコ科の動物に感染すると、有性生殖を行ってオーシストを形成する。オーシストは糞便中に排出され、環境中で数日間かけて成熟後、数ヶ月以上生存する。)を含むネコの糞便に由来する経口感染が主である。

 トキソプラズマ症 は世界でも広く存在する感染症で、世界人口の3分の1が感染していると推測されている。健康な成人では感染しても無症状に留まるか、数週間のあいだ軽い風邪様の症状が出る程度である。しかし免疫不全状態にある人においては、重篤な日和見感染を引起こして死に至らせることもある。ということから、二つほど暗い未来が予測できる。

 私はコロナワクチンに関して陰謀論者に属している。このワクチンに関して明るく前向きに考える至極まともな人は、以下の議論を無視して欲しい。陰謀論者の界隈では、このワクチンによって免疫のレベルが下がり、種々の病気を誘発していると考える。よく知られているのは帯状疱疹だが、ターボ癌と呼ばれる急速な癌細胞の増殖も免疫レベルの低下が原因であると考えられている。この二つ以外にも色々とあるのだが、それらを列挙して人を脅すのは本意ではない。

 問題はトキソプラズマである。世界の3分の一の人が感染しているとされるこの原虫、いままでの普通の生活においては人の免疫系によって無害なレベルに制御されていたのだが、ワクチン接種者の免疫レベルが低下した時どんなことが起こるのだろう。免疫抑制状態の人が罹患すると、中枢神経系障害や肺炎・心筋炎、さらに重篤なトキソプラズマ脳症を発症するとされている。我が国のマンションでもネコの飼育が増えている状況であるため、一寸気になるな。屋外で飼えばネコが感染する可能性が高くなるし近所への迷惑が気になる。室内に閉じこめて飼ったほうが安全だとは思うが、室内で飼うとネコとの距離が近づいてしまう。さらに、ネコと云う生き物は必ず脱走する生き物である。油断はできない。これが一つである。

 さて、ロバート・A・ハインラインの作品に「人形つかい」という寄生生物を扱ったSFがある。具体的な詳しい内容は忘れたが、宇宙から侵入した寄生性の異生物についての物語で、その異生物はナメクジのような形状をしており、それが人の背中に張り付いて人間の脳を乗っ取ってしまう。服を着れば通常の人間と見分けがつかないという状況の中で、この異生物と戦うと云う内容だった。読んだのが 50 年以上前なのでディテールは記憶していないが、気色の悪い小説だなと記憶に残っている。

 じつはトキソプラズマの慢性感染が、宿主の精神や行動に影響を与えるという研究報告がいくつも存在する。例えばトキソプラズマに感染したマウスは、ネコを恐れなくなるという。これはネコを終宿主とする原虫にとっては都合がいい。ネズミだけではなくトキソプラズマの慢性感染によりヒトの行動や人格にも変化が出るとする研究報告も存在する。男性はリスクを恐れなくなる、集中力が散漫となり、規則を破り、独断的、反社会的になるという。女性は社交的で男性に媚びをうるなどと云う傾向が出るそうだ。こうなるとまるで人形遣いの世界である。これが私のトキソプラズマに対する嫌悪感の原因である。勿論、真偽についてはわからない。とは言え近年の研究によって、アルツハイマー病、パーキンソン病だけでなく、統合失調症、双極性障害、パーソナリティ障害、間欠性爆発性障害など多くの精神疾患との関連が指摘されるようになってきた。いわゆる切れる人が近年増えているように感じているが、免疫レベルの低下でトキソプラズマの活動が高まっている可能性はないのだろうか?これが2つ目。

 ニュースを辿りながら、社会が荒れているな、何かおかしいな、まさかと思わせられる事件や事故が多発している様に感じている。ワクチンを打ったであろう約一億人のうち三千万人位の人がトキソプラズマの慢性感染者であるとする。免疫低下に伴うトキソプラズマの活性化によりパーソナリティ障害を起こす割合など全くわからないが、0.1%の人が影響を受けるとしても三万人が異常を示すことになる。そんなことはあり得ないと否定する方がおられると思うが、ワクチンを打った後、性格が変わったと云う話は時々耳にする。偽相関であれば良い、私の推論が間違っていれば良いなと願っている。

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マダニ

 TCA サイクルの話は終わったのか・・・7 においては、マダニの嫌らしさが全開だった。このマダニ、中山間地のみならず都会の周辺でも大きな問題になりそうだ。

 マダニか、嫌ですね。里山から山里へのイノシシ、シカ、サル、ハクビシンなどの侵入が酷い。獣害に耐えかねて農地を放棄する人が増えている。さらにこれらの動物が農作物の被害を引き起こすだけではなく、マダニを人里にばらまいている実態がある。日本紅斑熱、Q熱、ライム病、回帰熱、ダニ媒介性脳炎、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)、など、命にかかわる危険な病気を媒介するしキャンプや山歩きなどで感染する人も散見される。困ったことにマダニには農薬である殺ダニ剤がほとんど効かない。誰がとか何処でとかいう話は抜きにして、かなり高濃度の旧来の殺虫剤の散布をしていると云う噂を聞くことがある。

 獣害に耐えかねて狼を復活させようと云う計画が、真剣に議論され始めている。勿論、反対論は強いのだが、狼を導入しようと云う計画がなされるほどにイノシシとシカの被害が酷いと云う実態が先にあるわけだ。撃ってジビエにしろと云う意見もあるが、そもそも人家の庭に現れたイノシシやサルは撃てない。人家のある所での発砲は法律で禁止である。射線を上に向けての射撃も禁止である。猟期が決まっていて年中撃てるわけではない。猟をする人の年齢が上がるだけではなく若者の参入も少ないため、猟友会の会員は激減している。狩猟に使うライフルを持つためのハードルは異常に高い。イノシシやシカに対して取得しやすいエアライフルでも撃てると云う人がいるが、止め打ち、つまり罠にかかった動物を撃つには使えても狩猟用には無理である。散弾銃の場合は小さな銃弾が体内に散らばっているため、肉に血液が残り臭みが強く残ることが多い。とにかく狩猟では生活が成り立たない。ジビエ、ジビエという人がいるがさほど売れるものでもない。

 行政はフェンスや電柵に補助金を出してはいるのだが、設置はしてくれない。水田にフェンスを張りそれを維持するには途轍もない労力が必要だ。その後の農作業も極めてやり難い。電柵の設置であればいくらか楽だが、下に生えた草が電線に接触すると漏電が起こって効果が低下する。夏季であれば10日おきに下草刈りが必要になる。除草剤?、草が枯れると保水力が落ち、畔が崩れやすくなる。バスタなどそんな事を起こさないことを売りにしている薬もあるが、やはり崩れやすくなるのは否定できない。急斜面であるほど畔や法面の崩壊可能性が高まるわけだ。

 あまり知られてないが、イノシシ猟はかなり危険である。瓜坊を見て可愛いなどと近寄ってはならない。日本に生息する猪は、体長でオスなら140cm前後、メスなら125cmとなり、肩高は60cmから90cm、体重は80kgから190kg、大きいものでは体調160cm、体重200Kgを越す個体もいる。可哀そうに猟犬はいつも怪我をしている。保険がないため治療費は思った以上に高い。さらに撃ったシカやイノシシの解体ができるかどうか。死んだ動物からは、多数のダニやノミなどの寄生虫がワラワラと這い出してくる。まあバーナーで焼けばいいのだが。解体後の内臓や骨などを処理するのも狩りをした人に委ねられている。狩猟用の高価な車も必要である。猟銃はとても高い。安物の銃では命にかかわる。道路に出たイノシシを撥ねてとった人の話では、肉の値段より車の修理費の方が遙かに高かったそうだ。

 狼の復活もロマンがあって良いなと思わないでもないが、世論が許さないに違いない。感傷的な動物愛護論が蔓延しているからである。現実的な案として里山に近い集落では柴犬、紀州犬、ビーグル犬などの中型犬を夜間に放す事を認めたらどうだろう。イヌの放し飼いが里山において禁止されたことが、イノシシなどの住宅地への侵入の一因であると考えている。都会のマンションでチワワやトイプードルを飼うための法律と、山間地で柴犬、紀州犬、ビーグル犬などの中型犬を飼う法律が同じであるのは理解できない。勿論大型犬は除かないと理解は得られないだろう。

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ペントースリン酸経路への異論・・・5

 次はディスコセア綱(class Discosea)に属する Acanthamoeba castellanii ペントースリン酸経路である。

acan Acanthamoeba castellanii の持つペントースリン酸経路

 Acanthamoeba castellanii はアメーバ型の原生生物の一種で、淡水域やその他の場所にも広く分布する土壌微生物である。アカントアメーバ属の大半はバクテリアを捕食して生活する従属栄養生物であるが、一部の種は感染性を持ち、ヒトや他の動物に対して角膜炎や脳炎(アメーバ性肉芽腫性脳炎)を引き起こす。このAcanthamoeba castellanii もアカントアメーバ角膜炎を引き起こすらしい。とはいえ、Acanthamoeba castellanii の持つペントースリン酸経路はいままで何度も見てきたものであり、NADPH2のみならず完全な形の糖相互変換系を持つオーソドックスなものでありこれ以上の議論は不要であろう。

 次は原生生物の大きなグループであるアピコンプレックス門(Apicomplexa;またはアピコンプレクサ類)に属する原生動物についてである。アピコンプレックス門の下位分類については分子系統解析による再検討が行われている段階である。Aconoidasida (無コノイド綱)は分子系統解析の導入以前に微細構造に基づき設定されたものであるが、主要な生物群においては分子系統解析でも比較的安定的なクレードを形成する。おせっかいかもしれないが、クレードとは共通の祖先から種分化により派生した子孫のすべてを含む種の1群を意味する分岐群をいう。アピコンプレクサ類は、生活環のどこかでアピカルコンプレックス(apical complex、頂端複合構造)という構造を持つ原生生物の大きなグループである。寄生性であり、配偶子の時期以外は鞭毛や仮足を持たない。

Apicomplexa (apicomplexans)
 Aconoidasida
  Haemosporida
   pfa Plasmodium falciparum 3D7
   pfd Plasmodium falciparum Dd2
   pfh Plasmodium falciparum HB3
   prei Plasmodium reichenowi
   pgab Plasmodium gaboni
   pyo Plasmodium yoelii
   pcb Plasmodium chabaudi
   pbe Plasmodium berghei
   pvv Plasmodium vinckei vinckei
   pkn Plasmodium knowlesi
   pvx Plasmodium vivax
   pcy Plasmodium cynomolgi
  Piroplasmida
   tan Theileria annulata
   tpv Theileria parva
   tot Theileria orientalis
   beq Theileria equi
   bbo Babesia bovis
   bmic Babesia microti
   bbig Babesia bigemina
 Conoidasida
  Eucoccidiorida
   tgo Toxoplasma gondii

  という事で、まず Haemospororida(住血胞子虫)から始めよう。住血胞子虫は赤血球や白血球に寄生する原生生物の一群で、代表的なものはマラリア原虫である。陸上脊椎動物を中間宿主、吸血昆虫を終宿主とする場合が多い。 Plasmodium falciparum 3D7から Plasmodium cynomolgiまで、12種のマラリア病原体類は、ほぼ同じペントースリン酸経路を持つ。

apfa Plasmodium falciparum 3D7 の持つペントースリン酸経路
pfd Plasmodium falciparum Dd2 の持つペントースリン酸経路

 下段にPlasmodium falciparum Dd2のペントースリン酸経路を示している。それ以外の11種のマラリア病原体は、上段に示した Plasmodium falciparum 3D7 の持つペントースリン酸経路と同じものを持っている。この系を見れば、NADPH2 生合成もできているしリボース−5−リン酸の生合成も機能している。共生微生物であるにもかかわらず大事な遺伝子は残しているという解釈で良いだろう。ただ、全ての種においてペントースリン酸経路の華とでも言うべき酵素(個人的感想にすぎない)であるTransaldolase (EC 2.2.1.2:Sedoheptulose-7-phosphate:D-glyceraldehyde-3-phosphate glyceronetransferase )を欠いているのは興味深い。この酵素が無くてもペントースリン酸経路は機能するのである。この酵素の反応を有機電子論的にトレースできず、長期間悩んだことを思い出している。

 下段に示したPlasmodium falciparum Dd2 の持つペントースリン酸経路 においては、Ribose phosphate isomerase(EC 5,3, 1,6: D-ribose-5-phosphate aldose-ketose-isomerase)に触媒される反応が欠損している。EC 2.2.1.2と同時にEC 5,3, 1,6を欠いた場合、リボース–5–リン酸の生合成が上手くできないのではないかと思うのだが、この反応は酵素が無くても少しづつ進むのではないかと思われる。

 水中で、リブロース–5−リン酸(上図右)の1位と2位の間でケト–エノール異性化が起こり1位の炭素がアルデヒドとなった後、この炭素原子を2位の水酸基が攻撃して閉館すれば左のリボース−5−リン酸が生成する反応は、糖化学においてはよく起こる反応である。両化合物の水中における平衡定数を精査すべきだとは思うが、さほどの問題が起きない可能性はあるだろう。

 次はアピコンプレックス門無コノイド綱ピロプラズマ目の Theileria 科とBabesia 科の生物である。過去からの分類学の流れで、小型のタイレリア科と大型のバベシア科に分けてはいるが、これは生物の系統を反映しておらず Babesia 属や Theileria 属は多系統的であることが明らかになっている。両者ともにマダニを終宿主とする寄生虫で、吸血された哺乳動物や鳥類の血球に寄生する原生生物である。 熱帯において家畜に対する致死的な病原体として警戒されているが、日本でも放牧牛の間で蔓延している小型ピロプラズマ症病原体も含まれている。

 ペントースリン酸経路の構成から見ると、Theileria 科の4種とBabesia bovis が下に示した同じ経路を持っている。

tan Theileria annulataの持つペントースリン酸経路

 先に述べた Transaldolase (EC 2.2.1.2:Sedoheptulose-7-phosphate: D-glyceraldehyde-3-phosphate glyceronetransferase )を欠いているだけでなく、3単糖、4単糖、5単糖、6単糖、7単糖の相互変換を担っている経路が抜け落ちている。にもかかわらず、NADPH2 の生合成もできているしリボース−5−リン酸の生合成も機能している。あの理解が難しかったペントースリン酸経路が、その存在意義を維持したままこんなに簡素化できるのかと驚いている。とはいえ、ペントースリン酸経路を、解糖系の一部とあわせて回路を形成していると見なしペントースリン酸回路と称する場合があるが、これら生物のペントースリン酸経路は最早回路を形成していないため回路と云う用語は適切ではないようだ。

 次は Babesia microti の持つペントースリン酸経路である。

Babesia microti の持つペントースリン酸経路

 この原虫の主要な病原体保有生物は齧歯類であり、通常はマダニ科のシカダニが媒介する。ダニ幼虫は感染を受けた齧歯類を吸血して感染し、変態して若虫となり、原虫を他の動物またはヒトに伝播する。詳しくはhttps://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%8A%E3%83%AB/13-%E6%84%9F%E6%9F%93%E6%80%A7%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%85%B8%E7%AE%A1%E5%A4%96%E5%AF%84%E7%94%9F%E5%8E%9F%E8%99%AB/%E3%83%90%E3%83%99%E3%82%B7%E3%82%A2%E7%97%87 を参照のこと。この原虫の持つペントースリン酸経路 においては、NADPH2 の生産のみならずいわゆる解糖系との接続も切れてしまっており、経路としての体をなしていない。これを見てどう解釈すればいいのか、途方に暮れるしかない。寄生生物であると云うロジックに頼るしかなさそうだ。

 次はBabesia bigemina についてだが、牛、水牛および鹿に感染し、中南米、東南アジア、アフリカ、豪州に分布し、オウシマダニをはじめとするコイタマダニ属のマダニによって媒介される。これまた詳しくはhttps://www.naro.affrc.go.jp/org/niah/disease_fact/k13.htmlを参照して下さい。

Babesia bigemina の持つペントースリン酸経路

 この原虫においては 6-phosphogluconolactonase(EC 3.1.1.31)を欠いていて、一見二つの系が繋がっていないように見えるのだが、この酵素は次の反応を触媒する。

 都合の良い解釈ばかり持ち出して気が重いのだが、これは単なる分子内環化反応であり水中であっても進まないわけではない。他の反応で機能する基質特異性の低い脱水酵素が、この段階を担っているかもしてないし、ホストのもつ酵素を借用している可能性も捨てきれない。などというでたらめに近い言い訳で NADPH2 生合成は可能かもしれないということにしておこう。言うまでもなく、そのスピードは高くはないに違いない。Babesia bigemina についての詳しい情報は下記を参照のこと。

https://www.rakuno.ac.jp/wp-content/themes/rgu/file/reserch-report_1212.pdf

 今回は何となく自信を持てない。共生と云う現象に頼りすぎているのかもしれない。でもここを通らないと次にいけない気がしています。とにかく中間段階にあるという事です。

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ペントースリン酸経路への異論・・・4

 いやいや原生生物界の生物群の多様性は驚きなどと云う言葉で現すべきではない、驚愕というかなんというか、目を洗われるような結果であった。分類に関しては Revision of higher taxonomic classification of eukaryote—As for classification in Adl et al. (2019) https://www.jstage.jst.go.jp/article/taxa/48/0/48_71/_pdf などを参照して下さい。とにかくざっとKEGGにおける分類を下に示す。

Protists

(no phylum) 分類門なし 1

Evosea    細胞性粘菌、原生粘菌

Discosea   ディスコセア綱(class Discosea)は、アメーボゾアの主要な分類群の1つ

Apicomplexa  アピコンプレクサ類は生活環のどこかでアピカル コンプレックス  (apical complex、頂端複合構造)という構造を持つ

Ciliophora   動物的単細胞生物の一種で、 ゾウリムシやラッパムシ、ツリガネムシ、テトラヒメナなどが含まれる

(no phylum)   分類門なし 2

Bacillariophyta  不等毛植物に含まれる単細胞性の藻類のグループで日本語では珪藻類。

(no phylum)   分類門なし 3

Oomycota   不等毛類に属する原生生物の一つで日本語では卵菌と呼ぶ。

Haptophyta   真核微細藻類の一群で日本語ではハプト藻と呼ぶ

(no phylum)   分類門なし 4

Euglenozoa   ミドリムシを含むユーグレナ植物門と、アフリカ睡眠病を引き起こすトリパノソーマなどが含まれるキネトプラスト類とをまとめた分類群

Heterolobosea   無色の原生生物の一群で、ペルコロゾア (Percolozoa) とも呼ばれ、アメーバ、鞭毛虫、シストといった形態の間を変態できる生物が含まれる。

Parabasalia   鞭毛虫型の原生動物の一群で、大部分が寄生性の生活を営む。特にシロアリやゴキブリの消化管内に棲むものは多彩な外見をしており、さらに自分自身の細胞内にも共生バクテリアを保持している。

Fornicata    嫌気性または微好気性の単細胞生物から構 成 さ れ る分 類 群 で あ る。 こ の 分 類 群 では典型的なミトコンドリアを欠き、その代りにミトコンドリアから進化し、機能が縮退したミトコンドリア関連オルガネ(MRO)を有している。

 この辺りの分類については無知同然ですし、分類自体も新説が毎年のように出されていて、確立されたとは言えない状態のようだ。偉大な先達である南方熊楠氏に助言を求めたい気分である。ともあれ上から見て行くことにする。

no phylum(分類門なし 1)の持つペントースリン酸経路


mbr Monosiga brevicollis の持つペントースリン酸経路
sre Salpingoeca rosettaのもつペントースリン酸経路

 この両者に関しては、襟鞭毛虫であるMonosiga brevicollisが経路1を持つ事で、いくらか動物に近く、群体形成性襟鞭毛虫であるSalpingoeca rosetta はこの系を欠いているため植物に近いのかなと思う程度で(この判断の正否は分からない)、NADPH2 生合成は行っているし糖の相互変関係も動いているため、さほど問題にするようなグループではない。

Evosea (細胞性粘菌、原生粘菌のグループ)

キイロタマホコリカビ ムラサキタマホコリカビ エツキタマホコリカビのペントースリン酸経路

Dictyostelium discoideum (cellular slime mold)(キイロタマホコリカビ)のペントースリン酸経路
Dictyostelium purpureum (ムラサキタマホコリカビ)のペントースリン酸経路
Cavenderia fasciculata (エツキタマホコリカビ)のペントースリン酸経路

 上記3種のペントースリン酸経路も、極めてオーソドックスなもので、ペントースリン酸経路の存在意義に異議申し立てをするようなものではない。

 次はEvosea(細胞性粘菌、原生粘菌)に所属する以下の3種の持つペントースリン酸経路である。

(no class)
Mastigamoebida
ehi Entamoeba histolytica
edi Entamoeba dispar
eiv Entamoeba invadens
Entamoeba histolytica の持つペントースリン酸経路
Entamoeba dispar のペントースリン酸経路

 Entamoeba histolytica はアメーバ赤痢を引き起こす病原体であると考えて良いようだ。詳しく言えば、原虫である赤痢アメ−バが引き起こす大腸炎で、粘血便をはじめとし、下痢、しぶり腹、腹痛などの赤痢症状を示すものをアメ−バ赤痢と呼ぶ。Entamoeba dispar Entamoeba histolytica の近縁種で人に感染するが、病原性は持たないらしい。この両者は同じペントースリン酸経路を持つのだが、NADPH2の生合成経路を欠いている。さらに、ペントースリン酸経路における象徴ともいえるトランスアルドラーゼも欠損している。この欠損があってもD-リボース−5−リン酸への系は存在している。とすれば、ペントースリン酸経路の存在価値は、D-リボース−5−リン酸生産にあるのかなと短絡的に考えてしまいそうだが、次のEntamoeba invadens のペントースリン酸経路をみると頭を抱えることになる。

Entamoeba invadens のもつペントースリン酸経路

  Entamoeba invadens は、人間の寄生虫である赤痢アメーバとよく似た爬虫類に寄生するアメーボゾア寄生虫なのだが、このEntamoeba invadens が持つペントースリン酸経路には、NADPH2の生合成経路のみならずD-リボース−5−リン酸生産を担う系が存在しない。さて、どのように考えればいいのだろう。まだ先があるので性急に結論を出すことは控えるが、これら3種の生物は寄生生物である。必要な生体成分はホストから供給されているという可能性を残しておくべきだろう。知らないことばかりでなかなか進まないが、70代半ばになっても考えるネタがあると云うのは幸せである。

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体調不良

 3月の終わり頃から一寸ばかり参加者の多い会合に3回ほど出席した。それが原因であるかどうかは不明だが、その辺りから無秩序な体調不良に悩まされている。視力の低下、倦怠感、体力の低下、味覚異常、痰が切れず声が出難い、嗅覚異常、平衡感覚の異常、食後の頻脈、昼夜を問わない頻尿など。症状をながめても腎臓が悪いとか肝臓が弱っていそうとか言えそうな体系性に欠けるのである。あり得る可能性の中で最もありそうなのは、しばらく放置していた糖尿病が悪化しているということだろう。

 あちこち纏めて全部悪い、頭も悪くなっていると云えば、それは仕方がないが、こんな場合西洋医学の切れ味が悪くなる。内科か、循環器科か、呼吸器科か、耳鼻科か、眼科か、泌尿器科か、どこに行けば良いか分からない。もうお年ですからと括られて終わりだろう。何とか科と分断された状況にある医師は他の分野に関して深い知識は持たない場合が多い。近くの総合病院に紹介するしかしないだろう。東洋医学はもともと切れ味鋭いものではないが、はまった場合はとても効果的なこともある。放置を続けていたらお盆が過ぎた。ロングコビッドの可能性も頭をかすめるが、その場合の治療法は確立していない。とすればどこへ行くべきか、しばらく考えてみよう。

 昨日、午後から夕立で少し涼しかったので、雑草が伸び放題になっていた5反ほどの畑の草を切った。前回から一月半くらいしか経っていないのだが草丈は1mを超えていた。秋作のジャガイモを植えようと思っているので、草切りをした畑を2度ほどトラクターで耕耘し、肥料をまいた後9月初めの植え付けとなる。それでも半分ほどの土地が余るので、残りにはカボチャ(冬至カボチャ)を植える予定である。植え付けた後、ほとんど手のかからないものを選んだわけだ。それはそうと、ほんの一畝だけ植えておいたサツマイモがそろそろ収穫なのだが、困ったことにすぐ近くにまでイノシシが侵出している。電柵をと思うが、乾電池式の発信機とポールと電線でも5万円ほどかかる。採れたサツマイモ、自分はひねたイモを食べ良い芋を売ったとしても1万円にもならないだろう。まあ来年も使えるので良いことにしよう。年に一回、一時期にしか使わない道具だけは増えて行く。生業としての農業では道具長者にはなれてもお金持ちにはなれない。もっとも納得してやっているので、苦にはならないし不満もない。

 

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