降る降る詐偽とは言わないが

 農民とは天気予報に振り回される存在である。朝起きると天気予報を見る。午後1時頃から雨などという予報があると、朝は早めに仕事を始め、1時頃には上がるつもりで働く。ところが2時になっても3時になっても一滴も降らない。体力の配分を間違った事で、夕方には足が上がらない。普通なら、フカフカした畑の土は好ましく感じるのだが、こんな時疲れた足がめり込む畑の土は疎ましく感じる。土が悪いのではなくこちらが疲れて勝手に感じているだけである。

 ここ10日程の間に何回か雨の予報があったが土の表面さへ濡れない程度の雨しか降らなかった。6月とはいえ、ここまで晴れの日が続くと作物は水が不足する。何とか次の雨まで持たせようと300Lにタンクと動噴を軽トラの背中に積みこんで、水まきに走ることになる。ナスは水切れに弱い。樹勢が落ちると後のなりがすごく悪くなるため、何とかしようとあがいているわけである。さらにだが、農薬をまく場合、雨の前に撒くのが常道だと聞く。雨が降る時には風も吹く。風で煽られて葉っぱに傷がつき、その傷に病原菌を含んだ雨の飛沫がかかるからだという。雨の前の薬剤散布は予防散布であり、雨の後の薬剤散布は治療散布ということになる。でも、雨の度に薬を2回も撒くはずもなく、病気になった葉っぱは切り取るようにしている。

 白いゴーヤの初収穫が昨日だった。去年は8月1日が初出荷だったので、ひと月ほど早い収穫である。理由はわからないが、すべての作物が半月から一月ほど収穫期が早まっているようだ。残念だが、出荷に必要な申請書の提出が遅れていたため、出荷は出来ない。自家消費するには多すぎたので、近所の人のお裾分けした。明日も採れるかもしれない。どうしよう。この季節、することは同じで、唯々草刈りである。無我の境地で草刈り三昧と洒落込みたいのだがそうもいかない。さらにこの時期、草刈り中にオオアワガエリだと思うのだが、イネ科の植物の花粉による花粉症を発症することが多い。草を切っている時はまだ良いのだが、その後がいけない。コロナコロナの世の中では、人中でのクシャミと鼻水はご法度である。従って、草刈りをした日、時には次の日まで人には会わないように心がけている。なんとも暮らしにくい世の中になったものだ。

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歴史生物学 TCA回路への異論 4

 では、TCA回路に対して私が感じている違和感について述べることにする。かたくなに定義にこだわるつもりはないが、やはり現在広く認められている主流派の定義を押さえておく必要があるだろう。私のようにある定義を読むたびに、この定義の到達範囲はどれくらいだろうとか、この定義はいかなるパラダイムの下に構築されたものだろうなどと考える人は少なそうだ。この習性が、お前は多少変わっていると誉められる原因であるようだ?多少とはどんな意味だろう。花落知多少

 さて、定義には単なる恣意的な定義と同時に、定義している物をどう捉えるかと言うパラダイムを明確に反映する定義がある。ではTCA回路はどう定義されているか。またもや日本薬学会のサイトとKEGGのサイトから引用することにする。別に恨みがあるわけではない。しかし、これらのサイトには当たり障りのないといえば批判じみて聞こえるが、そうではなく常識的な立場からの説明がなされているため引用しているに過ぎない。

日本薬学会用語解説による定義

Citric acid cycle、トリカルボン酸回路、TCA回路、クレブス回路

  H. A. Krebsにより提唱された、糖、脂肪酸、ケト原性アミノ酸の炭素骨格を酸化する代謝経路。好気的な条件下でエネルギー獲得に中心的な役割を果たす。真核生物ではミトコンドリア内(マトリクス)で行われる。すなわち、クエン酸回路に関与する酵素はマトリクスに存在する。唯一、コハク酸デヒドロゲナーゼはミトコンドリア内膜に存在する。炭素骨格を酸化する過程で、補酵素NADやFADを還元して、NADH+H+、FADH2を生成する。生成した還元型補酵素は、電子伝達系での酸化的リン酸化によりATPの産生に利用される。糖、脂肪酸、ケト原性アミノ酸由来のアセチルCoAは、クエン酸シンターゼの作用で、オキサロ酢酸と縮合しクエン酸を生じる。クエン酸は、順次、(cis-アコニット酸)、イソクエン酸になったのち、脱水素的脱炭酸を受け、2-オキソグルタル酸になる。さらに、脱水素的脱炭酸、CoA の脱離、脱水素、加水、脱水素などの反応を順次受けて、スクシニルCoA、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸を経て、オキサロ酢酸に変換される。回路が1回転するあいだに、クエン酸を酸化し2分子の二酸化炭素を生じるので、アセチルCoA由来の炭素骨格は完全に酸化されることになる。脱水素反応により補酵素を還元して、NADH+H+を3分子、FADH2を1分子産生する。また、エネルギー的にATPと等価のGTPを1分子産生する。(2005.10.25 掲載)(2009.1.16 改訂)

KEGGによる定義

 The citrate cycle (TCA cycle、 Krebs cycle) is an important aerobic pathway for the final steps of the oxidation of carbohydrates and fatty acids. The cycle starts with acetyl-CoA、 the activated form of acetate、 derived from glycolysis and pyruvate oxidation for carbohydrates and from beta oxidation of fatty acids. The two-carbon acetyl group in acetyl-CoA is transferred to the four-carbon compound of oxaloacetate to form the six-carbon compound of citrate. In a series of reactions two carbons in citrate are oxidized to CO2 and the reaction pathway supplies NADH for use in the oxidative phosphorylation and other metabolic processes. The pathway also supplies important precursor metabolites including 2-oxoglutarate. At the end of the cycle the remaining four-carbon part is transformed back to oxaloacetate.

 TCAサイクルは何に始まってどこで終わるのかという問題に、薬学会の定義は全く触れていない。分かっているでしょうというのが底流にありそうだが、文章を読んだ限りではミトコンドリア内で起こる反応となっておりピルビン酸からAcetyl CoAの段階が含まれるかどうかは分からない。一方KEEGにおいては、Acetyl CoAを出発物質として明確に指定し、Acetyl基に含まれる炭素がCO2へ、水素がNADH+H+へ変換された時点をもって終点としているようである。私はミトコンドリア内に運ばれたピルビン酸から回路を一周してオギザロ酢酸までとしたほうが合理的だと考えるが、この差異は歴史的な経緯に基ずく恣意性に基づくものに過ぎないだろう。

 しかし、大きな問題が二つあると考える。一つは、TCA 回路が好気的であるのかどうかという問題である。薬学会の定義に於いては、「糖、脂肪酸、ケト原性アミノ酸の炭素骨格を酸化する代謝経路であり、好気的な条件下でエネルギー獲得に中心的な役割を果たす。」と明確に書いてある。KEGGにおいても「Krebs cycle is an important aerobic pathway for the final steps of the oxidation of carbohydrates and fatty acids. クレッブスサイクルは炭水化物や脂肪酸を酸化する最終段階の重要な好気的経路である。」と述べている。その他にも色々な書籍を参照してみたのだが、すべて好気的過程であると書いてあった。どうやら、TCA回路が好気的代謝系であるという位置づけに対して違和感を感じる人はいないらしい。

 しかし、本当にTCA 回路は好気的代謝系であろうか。解糖の産物であるピルビン酸はミトコンドリア内で酸化的に脱炭酸を受けAcetyl CoAに変換された後、オギザロ酢酸とのアルドールタイプの縮合を経てTCA 回路に導入される。この回路では基質レベルでの酸化が起こり、1分子のアセチルCoA から3分子のNADH+H+、1分子のFADH2と1分子のGTPが生産される。TCA 回路で生産されたNADH+H+とFADH2は、電子伝達系を通って酸化を受け、それぞれ3分子と2分子のATPを生産する。多くの場合、「生物は嫌気的には1分子のglucoseから2分子のATPしか合成できないが、好気生物は解糖系の産物であるピルビン酸をTCA回路、電子伝達系で酸化して38分子のATPを生産できる」と、TCA回路と電子伝達系をまとめて好気的エネルギーを生産する系として記述されている。

 この結論について、学生の頃からどこか不満であった。TCAサイクルでは酸素分子は全く関与していないではないか。関与するのはNAD+或いはFADという補酵素である。これらの補酵素が酸化剤として働き、基質レベルでの酸化を起こしているのである。もし、TCA回路の酸素が関与しないこの基質レベルでの酸化を好気的経路として認めるのであれば、解糖系であっても好気的経路と云わなければならない。解糖系から出てくる2分子のNADH+H+を電子伝達系に流し込んで、「解糖系は好気的経路であり、グルコースをこの系で分解することによって、総計8分子のATPが生産される」という言明が成立すると思うのだが、ここに矛盾はないのだろうか。

 さらに38分子のATPが生産されるという場合は、解糖系で生産される2分子のNADH+H+と解糖系とTCA回路をつなぐ部分で生成される1分子のNADH+H+も、電子伝達系を通るものとしての計算結果である。ここにはATP生産という目的に合わせた恣意的な計算が存在する用に感じる。このような矛盾を引き起こしたものは、ATP生産という呪縛のもとに、TCA回路と電子伝達系を1セットのものとして組み合わせてしまったことに起因する。Krebsがこの経路を提出して84年が経ったわけだが、誰もこの辺りの曖昧さについて意識しなかったのだろうか?

 上のセクションで使用した解糖系という言葉は、通常使われているグルコースからピルビン酸までの代謝を意味している。自ら批判した解糖系を、このような形で使うことには忸怩たる思いがないわけではないが、このような書き方の方が一般的意味に於いては分かり易いと考え、そのまま使うことにした。

 ワクチン擬関連だが、ワクチンパスポートを実施する方向での議論が始まったそうだ。ワクチンを接種しても感染する事例には事欠かないし、ワクチンの有効期限も不明な状況ではパスポートの有効期間をどう扱うのか全く展望が見えないように思う。政府の本音はマイナンバーとの紐付けではないかと邪推している。災害便乗型専制政治の始まりかな。田舎で、肩をすぼめて静に暮らしたいと願っていたが、時代はそれを許さない方向に動いているようだ。まあ、先はさほど長くないし、今更都会に出て遊び回る気はさらさらない。しかしながら、その権利をワクチンパスポートという制度で頭から否定されると腹が立ち上がりそうだ。呼吸器が弱く、高血糖で、コレラの予防注射で高熱を出し、インフルの予防注射でインフルエンザに罹るようなな人間には、パスポートの取得は無理だろう。体の弱い若い人が可哀そうだな。


 忌野清志郎、亡くなって何年経つのかな。そう言えば土岐英史さんが亡くなった。彼のサックスは好きだったな。いつか生で聞きたいと思っていたが、パスポート云々ではなくもう無理か。

https://www.youtube.com/watch?v=9DSJMc0yeos

歴史生物学 TCA回路への異論 5 に続く

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歴史生物学 TCA回路への異論 3

スクリーンショット(2014-03-13 23.05.39)

 前回まで、ざっとではあるがTCA回路を構成する化学反応について生物有機化学の立場から描いてみた。解糖系に次いで、本来ならペントースリン酸回路についてもそれなりの論証が必要だと思うが、これはまた後でと云うことにして、再度図-2を見ながらTCA回路ついての議論をはじめよう。

図-2 一般的教科書に示されているTCA回路

 1937年といえば、そろそろ第二次世界大戦に向かい世情がキナ臭くなっていた頃である。この年、盧溝橋事件が発端となり日本と中華民国との間で日中戦争が勃発している。ヒンデンブルグ号の事故もこの年だし、いわゆる化学界ではウォーレス・カロザースがナイロンの特許を取得している。TCA回路は、この1937年にドイツの化学者Hans Krebsが発見した”代謝系であり回路”である。彼はこの功績により1953年にノーベル生理学・医学賞を受賞したのだが、今年で発見から84年が経っていることになる。「我々は、摂取した栄養素からいかなるメカニズムでエネルギーを獲得するか」という問題に対し、84年前に、あの回路を構築した彼の非凡な能力には脱帽するしかない。間違いなく、20世紀の生化学という学問における1つの金字塔であろう。

 1970年に行われたインタビューの中で、多くの優秀な科学者達がそのエネルギー獲得メカニズムの解明に失敗したにもかかわらず、彼が成功した理由について尋ねられたとき、Krebsは次のように答えている。

 「私は、生きている細胞で起こっている化学反応を解明しようという一人の生物学者の視座に立っていました。故に、生物における化学反応と細胞活動とを総合的に関連づけることに習熟していたのです。生物学者の視座から、細切れの情報をジグソーパズルのように組み合わせ、欠けている断片を探すことにより合理的な代謝過程像にたどり着こうとしたのです。

 従って、食物の燃焼の中間段階に関与しうるどんな小さな情報も見逃さなかった。トリカルボン酸回路の概念を最初に発見するのは誰か、の決め手となった重要な要因は、多分、この視座の違いだったと思います。」

(Krebs, H. A., “The History of the Tricarboxylic Acid Cycle” Perspect. Biol. Med., 14, 154~170 (1970). より引用 但し、言葉を補いながら我田引水的に意訳している)

 ここには、非常に重要なことが書かれていると思う。1つは細胞で起こっている化学反応(酸化反応を意味する)を生物学者の視座から見たということ、すなわち視座・視点の重要性を述べている点である。いま一つは彼自身も気付いていなかったであろう拘束条件である。最初に述べてあるように、「細胞で起こっている一連の(酸化)反応を合理的な代謝過程として記述」しようと考えた時点で、すでに目的の経路は「酸化反応であるという拘束」と「エネルギー産生系であるという拘束」の下にあったのである。これは批判ではない。彼の業績のすばらしさを十分に認めた上で、彼が生きていた時代に生化学という学問が持っていた枠組み(パラダイム)について述べているにすぎない。彼は、目的とする代謝系は食物の燃焼の中間段階に関与する酸化系であり、エネルギーを産生する系であるというパラダイムの下に、研究で得られた知識の断片を布置していったのである。

 さて、彼がそのようなパラダイムの中ににいたという視座に立ってTCA回路を眺めると、この回路はいくぶん奇妙である。よく見て欲しいのだが、この回路に於いて酸素は全く関与しておらず、通常の意味における酸化は起こっていない。もちろん、基質レベルでの酸化が起こっているではないかという反論が現時点では成立する。しかし、Krebs が研究に用いていたのはワールブルグ検圧計であった。発生した二酸化炭素をKOH溶液に吸収させ、ここでの体積減少を酸素の消費として見ていたのである。酸素の消費を伴わない酸化という概念を持ってこの系を考えたわけではないと推測される。

    つまり、彼は酸化的リン酸化、すなわち電子伝達系を含めた形でTCA回路を見ていたのである。彼が構築した余りにも美しいTCA回路は、多くの現象を考える上で非常に有益であった。しかし、その美しさと有益さが、この系を疑ってみるという意識の形成を阻害し続けたように感じる。その結果、TCA回路を酸化的代謝系と捉える考え方は、現代まで延々と引き継がれてきたようだ。

  最初からあまりに鬱陶しい議論をすると、訪問者が減るかもしれない。商用サイトではないし、アフィリエートで何か売ろうと考えているわけでもない。訪問者が減ったところで痛くも痒くもないが、読んでくれる人が多いのはやはり励みになる。アクセス解析をしたところで、誰が訪れているかなど分かるはずもなく、大まかな数字が得られるだけである。現在のところ、月に約 500 人のヒトが訪れ、1日当たり15 Mb程度の文書が読まれている。古希を過ぎた老爺が作り、大手のサーバーにも載せていないサイトとしては上出来だそうだ。

 それにしても世の中が落ち着かない。多分、コロナ以前の世界には戻れないだろう。バイデンの影の薄さは隠すべくもないし、習近平もどこで何を考えているのかなかなか見えてこない。あれほど世界を騒がせた金正恩もどうしているのか。カナダのトルドーは何をするつもりなのだろう。総じて、すべての政府がコロナ危機を煽り立てて国民を恐怖の坩堝に追い込むことで正常な判断力を奪い、この混乱に乗じて平時ではありえない政策を遂行するだけでなく、情報をコントロールして政府の権限を強める方向に動いているようだ。

 日本もまた同じである。いやいや、我々が暮らしていた世界がこれほどまでに脆弱なものであったのかと、改めて愕然としている。政府が政府として機能しない、科学が科学として機能しない、マスコミがマスコミとして機能しない世界に住んでいるようだ。よほど、冷静に事の成り行きをみていないと、○○真理教に飲み込まれてしまう。小此木さん、何があったのだろう。河野さん、そこまで断言したら、それがデマでしょう。忽那さん、新聞ジャック凄いな、焦っておられるのかな。JR東海、リニア−どうなる。オリンピックの強行は、もしかしたら何かのスピン?ワクチン擬、ロットによって副作用が違う?

 ニイニイゼミが鳴き始めた。ホオジロも高らかに歌っています。トビとカラスが戯れています。近くに巣があるらしいイカルが、怒らずに涼しい声で鳴いている。一日のうち半分の時間を、世の汚濁とは無縁な世界で暮らしています。これが精神安定剤になっているのだろう。雨が降らないため育てているナスとトウガラシが青息吐息の状態、さすがに見かねて水をやりました。300Lタンクで2回だから600Lか、井戸水で料金が安いから出来る話で、都会ではまず不可能でしょう。テントウムシダマシによるナスの食害が酷くなってきたので、明日は仕方なくアディオン乳剤でも撒くことにしよう。アディオン乳剤、ピレスロイド系の殺虫剤です。

歴史才物学 TCA回路への異論 4 に続く

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歴史生物学 TCA回路への異論 2

 さて、次の反応からが、常識的に見た本来のTCA回路を構成する反応群である。図-5から図-8に反応機構を描いておく。

図-5 アセチルCoAから2-オクソグルタル酸まで

 最初の反応はアセチルCoAがオギザロ酢酸と反応してクエン酸を与えるのだが、この段階で起こる反応は、解糖系の中で出てきたアルドール縮合と同じメカニズムを持つ。エノール化したアセチルCoAがカルボニル基に戻ろうとしたときに生じる炭素アニオンがオギザロ酢酸の2位のカルボニル基に付加し、クエン酸とCoAのエステルが生じるが、このチオールエステルはすぐに加水分解を受けクエン酸が生じる。最初の縮合反応をクライゼン縮合と書いてある場合もあるが、本来のクライゼン縮合は2分子のエステルからβ-ケトエステルを与える反応であるから、アルドール縮合タイプの反応としておいた方が無難かもしれない。

 このクエン酸から水分子が脱離してcis-アコニット酸が、cis-アコニット酸に脱水反応の場合とは逆向きに水が付加すると、イソクエン酸となる。イソクエン酸はNAD+を酸化剤として基質レベルでの酸化を受け、オギザロコハク酸が生じる。オギザロコハク酸は脱炭酸反応を受けやすいβ-ケト酸の構造を持つため、1位のカルボキシル基が二酸化炭素として脱離し2-オクソグルタル酸を与える。但し、この2-オクソ、2-オキソ或いは2-ケトグルタル酸という名称は、我々の世代にはちょっとだけ違和感がある。我々はα-ケトグルタル酸として教わってきた。郷愁が少しだけ邪魔をしているだけである。

 図-6には、2-ケトグルタル酸からスクシニルCoAまでのメカニズムを示しているが、これは先に言ったとおりピルビン酸からアセチルCoAへの変換メカニズムと同じであるため説明は省くことにする。

図-6 2-ケトグルタル酸からスクシニルCoAまで

 図-7においてはスクシニルCoAが遊離のリン酸による求核置換を受けSuccynyl phosphateを与えるが、この非対称酸無水物は非常に反応性が高いため、GDPの末端のリン酸残基による求核置換反応をうけ、GTPとコハク酸(Succinic acid)となる。コハク酸は、補酵素であるFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)の存在下に脱水素を受け、還元型FADとフマル酸を与える。蛇足だが、フマル酸は高校の科学の授業においてcis-trans異性について学ぶときにtrans体の例として取り上げられている化合物である。

図-7 SuccinylCoA からフマル酸まで

 図-8は最終段階に入って、フマル酸にエノラーゼと呼ばれる水付加酵素が働いて、リンゴ酸となった後、リンゴ酸の2位の水酸基の部分がNAD+の存在下に基質レベルでの酸化を受けオギザロ酢酸とNADH+H+を与える反応を示している。ここにおいてアセチルCoAの2個の炭素原子はCO2へと酸化され、次の電子伝達系で酸化されATP生産に関与する還元型補酵素{3x(NADH+H+)とFADH2}が生成する。

図-8 フマル酸からオギザロ酢酸まで

 CoAやNAD、あるいはFADの構造式が幾分難しそうに感じるかもしれないが、ナニそれは慣れに過ぎない。それぞれの構造式を一日に10回ほど描くことを10日も続ければ、殆どの人が描けるようになる。この構造を描けるようになって初めて、補酵素としての機能が理解できる。例えば、図-5においてNAD+がNADH(本当はNADH+H+と描くべき)に還元されると共に、イソクエン酸がオギザロコハク酸に基質レベルでの酸化を受けるのだが、一寸だけ違和感を覚える人はいないだろうか。この反応においてイソクエン酸の水酸基の根元に位置する水素が、水素アニオンとしてNAD+のピリジン環の4位の炭素を攻撃している。

 生物の体はその大部分が水である。今まで述べたすべての反応が水中で起こっている。さて、水素アニオン(水素化物イオンといったほうが良いのかな)は水中で安定に存在し得るのか。あまり安定ではない。還元剤として良く使われるLAH(リチウムアルミニウムハイドライド)、塩基として使われるNaH(水素化アルミニウム)などから発生する水素アニオンは、水があると激しく反応して爆発的に燃える。NaBH4(水素化ホウ素ナトリウム)から発生する水素アニオンは幾分マイルドで、含水メタノール中での反応に使われることがあるとは言え、さほど安定であるとは言えない。その水素アニオンが我々の体の中で実に効率的に移動しているのである。何故そんなことが可能であるのか。簡単な話で、酵素の活性部位において反応する化合物の反応部位が近接するように制御されていること、そして活性部位の周りをアミノ酸の疎水性の残基が取り囲み、反応する部位が無水状態になっているからである。

 昔ある女性研究者と話をしていた時、(反応とは関係ありません)、一寸だけ姑さんに対する愚痴を聞いた。「私、上品でしょう、言いたくてもクソババ」なんて言えないんです。だから心の中で「おクソババ様と敬語」を付けて呼んでいます。「おクソ」か〜、2-オクソグルタル酸を思い出した。ああ、皮膚の酸化が進んでいるんですね。あとはご想像に任せます。やはり、α-ケトグルタル酸が無難で良いな。

 次回から、今までの解釈を無難に信じている方々にとっては意外に感じるであろう批判を始めることにする。面白いか面白くないかは各人の受け止め方次第だが、主流の考えに背き足下を掘り続けてきた結果を書くことになる。天の邪鬼的な感性しか持たない私にとっては非常に楽しい作業であったようだ。 

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歴史生物学 TCA回路への異論 1

 いま、世の中ではクエン酸健康法というものが流行っているようだ。クエン酸を飲むと、血液の浄化、血管の強靱化、腎機能改善、血圧の正常化、排泄排便障害の緩和、体内老廃物の排泄、中性脂肪とコレステロールの抑制、免疫力の向上、糖尿病の予防、諸臓器への正常な酸素の供給、弱アルカリ体質化、自然治癒力の向上・・・・・と 、何が何か分からないが万能の効果が得られるという。生きていく上でのエンジンであるクエン酸サイクルが十分に機能すると、体の各細胞が活発に働き、健康と美が得られるらしい。???

 でもね、何にでも効くと言われるものは、何に対しても効かないのが世の常である。マスコミがどこからか引っ張り出してくる医学博士達が語る世界は、私にはからきし不可解な世界である。近年流行の「血液さらさら」だって、本当にさらさらになったら怪我しても血が止まらない。世の中のかなり多くのお父さんたちが服用している「ワルファリン」は血栓塞栓症の治療や予防に使われている薬である。このワルファリン、ムラサキウマゴヤシ(マメ科植物)を醗酵させたときに生成するジクマロールが、ウシの出血を止まらなくする原因であることをヒントに開発された農薬で、長い間「殺鼠剤」として使われてきた。いや、いまでも殺鼠剤である。この話をすると、あの医者はおれに殺鼠剤を飲ませているのかと怒る人がいるのだが、その通りである。まあまあ、あんたの薬がネズミにも効くと思いなさいと笑って答えているが、この薬、実は血液の凝固を押さえてさらさらのままにするのである。(図-1)

 図-1 ジクマロールとワルファリンの構造

 ワルファリンをネズミに食べさせると、網膜での出血が止まらなくなる。このため目が見えなくなり明るいところに出てくる。明るい所に出てくれば、猫などの天敵に遭遇する事故に遭うわけだ。天敵に襲われなくても、さらさらな血液ゆえに腹腔内での出血が止まらず最終的には死亡する。「血液さらさら」が死の原因になるわけだ。人においても、ワルファリンを飲んで交通事故でも起こしたら最悪である。怪我からの出血が止まらない。手術が出来ない。つまり世の中、中庸が一番で、血液は「適切にサラサラ」かつ「適切にトロトロ」であることが正常なのである。この言い方は間違いかな?「流れるべき時に流れ、固まるべき時に固まることが求められている」としておこう。そういえば近頃、核酸も販売ネタに使われるようになってきた。

 また初めから脱線してしまった。ここでは常識的なTCA 回路の解釈に批判を加えようと思っている。TCA 回路はクエン酸回路という別名を持つことから、クエン酸健康法の話へと脱線しただけである。さて、TCA回路はクレッブス回路、クエン酸回路、トリカルボン酸回路、TCAサイクルなどという多くの別称を持ち、内容は殆ど理解されていないにもかかわらず、知名度だけは異常に高い代謝系である。この点で解糖系によく似ている。まず、図-2に通常描かれているTCA回路図を示す。

図-2 一般的教科書に示されているTCA回路

 実はこの程度の図であっても構造式が難しいという理由で、ほぼすべての学生には不評である。理系に来ている学生にさえ不評なのだから、一般の人たちに不評なのは当然であろう。こんなん見たら、頭が痛うなるわと関西弁風に否定されてしまうのである。でも、しかし、そういって否定する人たちが、クエン酸健康法に嵌まりまくっているというこの矛盾は実に悩ましい。グダグダと理由も原因も述べず、効く効く催眠術を使う詐欺師等の勝ちということか。

 まずTCA回路と呼ばれている代謝経路について、常識とされている解釈に関する知識を持ってもらわないと、私が、一般的に流布している考え方にどのような異を唱えるのか、理解してもらえないことになる。従って、まず教科書的な意味での解糖系と、生物有機化学的に見たTCA回路について述べた後、考察に入ることにする。生物有機化学的に見たTCA回路については、有機反応論にアレルギーのある型は読み飛ばしていただいても結構である。でもね、これらの図を作るのは結構大変だったのです。読者にいくらかでも憐憫の情があるのであれば、目を通して頂きたい。

 図-2を見て欲しい。TCA 回路は通常はアセチルCoAから始まるように描いてるが、ここにはPEP即ちホスホエノールピルビン酸から描いている。前章に於いて、ミトコンドリア内に運搬されたピルビン酸を出発物質にすることを提案しておきながら、矛盾した行動のようだが、TCA 回路の意義を考える場合に青の矢印で流れ込む経路が無視できないからである。この話は後で説明するとして、ピルビン酸から先の反応をトレースすることにしよう。

 さて、ピルビン酸からアセチルCoAへの変換は図-3で示すように進行する。

図-3 ピルビン酸からアセチルCoAへの変換

 補酵素であるチアミンピロリン酸のちょっと変わった炭素アニオンが、ピルビン酸の2位のカルボニル基に求核的に付加反応を起こす。H+の処理にいくぶん問題が残るかもしれない描き方だが、そこは勘弁して欲しい。付加化合物が脱炭酸反応を起こして生成したエノール化合物は、窒素原子上の孤立電子対がN-C結合へと戻るときに、リポ酸の1位の硫黄原子を求核的に攻撃して、S-S結合の解裂を伴う付加反応を行う。付加生成物のチオアセタールの部分がカルボニル基を再生する反応に伴って、最初に反応していた補酵素(チアミンピロリン酸)の再生が起こる。

 リポ酸8位のチオールエステルのカルボニル基をコエンザイムAの末端に存在するチオール基が攻撃して、ジヒドロリポ酸が脱離すると同時にアセチルCoAへの変換への変換が完成する。(但し、このリポ酸は独立して動いているのではなく、この段階で働く酵素のリジン残基のε-アミノ基と結合した形で働いている)こう描くと初心者は難しく感じるかもしれないが、慣れればなんということはない。さらに、この部分が理解できれば、2-ケトグルタル酸からスクシニルCoAへの変換はほぼ同一の反応であるため、記憶は不要となる。最後になるが、アセチルCoAという言葉、TCA回路を炭素2単位のアセチル基を酸化する代謝系という意識で見ていると、アセチル基が主体であるかのように感じるが、アセチルCoAという分子の分子量809.6の中の43を占めているに過ぎない。言い換えれば、アセチル基を次の反応で機能させるにはCoA(コエンザイムA)という乗り物が必要だということを意味している。アセチルCoAという名詞の中で、アセチルは形容詞でありCoAが本体である。

 定義上、ここまではTCA回路には含まれない。解糖系とTCA回路を結ぶ上記の反応を経ることによって、ようやくTCA回路の入り口に辿り着いたわけである。

  TCA回路への異論 2 に続く

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