歴史生物学 TCA回路への異論 3

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 前回まで、ざっとではあるがTCA回路を構成する化学反応について生物有機化学の立場から描いてみた。解糖系に次いで、本来ならペントースリン酸回路についてもそれなりの論証が必要だと思うが、これはまた後でと云うことにして、再度図-2を見ながらTCA回路ついての議論をはじめよう。

図-2 一般的教科書に示されているTCA回路

 1937年といえば、そろそろ第二次世界大戦に向かい世情がキナ臭くなっていた頃である。この年、盧溝橋事件が発端となり日本と中華民国との間で日中戦争が勃発している。ヒンデンブルグ号の事故もこの年だし、いわゆる化学界ではウォーレス・カロザースがナイロンの特許を取得している。TCA回路は、この1937年にドイツの化学者Hans Krebsが発見した”代謝系であり回路”である。彼はこの功績により1953年にノーベル生理学・医学賞を受賞したのだが、今年で発見から84年が経っていることになる。「我々は、摂取した栄養素からいかなるメカニズムでエネルギーを獲得するか」という問題に対し、84年前に、あの回路を構築した彼の非凡な能力には脱帽するしかない。間違いなく、20世紀の生化学という学問における1つの金字塔であろう。

 1970年に行われたインタビューの中で、多くの優秀な科学者達がそのエネルギー獲得メカニズムの解明に失敗したにもかかわらず、彼が成功した理由について尋ねられたとき、Krebsは次のように答えている。

 「私は、生きている細胞で起こっている化学反応を解明しようという一人の生物学者の視座に立っていました。故に、生物における化学反応と細胞活動とを総合的に関連づけることに習熟していたのです。生物学者の視座から、細切れの情報をジグソーパズルのように組み合わせ、欠けている断片を探すことにより合理的な代謝過程像にたどり着こうとしたのです。

 従って、食物の燃焼の中間段階に関与しうるどんな小さな情報も見逃さなかった。トリカルボン酸回路の概念を最初に発見するのは誰か、の決め手となった重要な要因は、多分、この視座の違いだったと思います。」

(Krebs, H. A., “The History of the Tricarboxylic Acid Cycle” Perspect. Biol. Med., 14, 154~170 (1970). より引用 但し、言葉を補いながら我田引水的に意訳している)

 ここには、非常に重要なことが書かれていると思う。1つは細胞で起こっている化学反応(酸化反応を意味する)を生物学者の視座から見たということ、すなわち視座・視点の重要性を述べている点である。いま一つは彼自身も気付いていなかったであろう拘束条件である。最初に述べてあるように、「細胞で起こっている一連の(酸化)反応を合理的な代謝過程として記述」しようと考えた時点で、すでに目的の経路は「酸化反応であるという拘束」と「エネルギー産生系であるという拘束」の下にあったのである。これは批判ではない。彼の業績のすばらしさを十分に認めた上で、彼が生きていた時代に生化学という学問が持っていた枠組み(パラダイム)について述べているにすぎない。彼は、目的とする代謝系は食物の燃焼の中間段階に関与する酸化系であり、エネルギーを産生する系であるというパラダイムの下に、研究で得られた知識の断片を布置していったのである。

 さて、彼がそのようなパラダイムの中ににいたという視座に立ってTCA回路を眺めると、この回路はいくぶん奇妙である。よく見て欲しいのだが、この回路に於いて酸素は全く関与しておらず、通常の意味における酸化は起こっていない。もちろん、基質レベルでの酸化が起こっているではないかという反論が現時点では成立する。しかし、Krebs が研究に用いていたのはワールブルグ検圧計であった。発生した二酸化炭素をKOH溶液に吸収させ、ここでの体積減少を酸素の消費として見ていたのである。酸素の消費を伴わない酸化という概念を持ってこの系を考えたわけではないと推測される。

    つまり、彼は酸化的リン酸化、すなわち電子伝達系を含めた形でTCA回路を見ていたのである。彼が構築した余りにも美しいTCA回路は、多くの現象を考える上で非常に有益であった。しかし、その美しさと有益さが、この系を疑ってみるという意識の形成を阻害し続けたように感じる。その結果、TCA回路を酸化的代謝系と捉える考え方は、現代まで延々と引き継がれてきたようだ。

  最初からあまりに鬱陶しい議論をすると、訪問者が減るかもしれない。商用サイトではないし、アフィリエートで何か売ろうと考えているわけでもない。訪問者が減ったところで痛くも痒くもないが、読んでくれる人が多いのはやはり励みになる。アクセス解析をしたところで、誰が訪れているかなど分かるはずもなく、大まかな数字が得られるだけである。現在のところ、月に約 500 人のヒトが訪れ、1日当たり15 Mb程度の文書が読まれている。古希を過ぎた老爺が作り、大手のサーバーにも載せていないサイトとしては上出来だそうだ。

 それにしても世の中が落ち着かない。多分、コロナ以前の世界には戻れないだろう。バイデンの影の薄さは隠すべくもないし、習近平もどこで何を考えているのかなかなか見えてこない。あれほど世界を騒がせた金正恩もどうしているのか。カナダのトルドーは何をするつもりなのだろう。総じて、すべての政府がコロナ危機を煽り立てて国民を恐怖の坩堝に追い込むことで正常な判断力を奪い、この混乱に乗じて平時ではありえない政策を遂行するだけでなく、情報をコントロールして政府の権限を強める方向に動いているようだ。

 日本もまた同じである。いやいや、我々が暮らしていた世界がこれほどまでに脆弱なものであったのかと、改めて愕然としている。政府が政府として機能しない、科学が科学として機能しない、マスコミがマスコミとして機能しない世界に住んでいるようだ。よほど、冷静に事の成り行きをみていないと、○○真理教に飲み込まれてしまう。小此木さん、何があったのだろう。河野さん、そこまで断言したら、それがデマでしょう。忽那さん、新聞ジャック凄いな、焦っておられるのかな。JR東海、リニア−どうなる。オリンピックの強行は、もしかしたら何かのスピン?ワクチン擬、ロットによって副作用が違う?

 ニイニイゼミが鳴き始めた。ホオジロも高らかに歌っています。トビとカラスが戯れています。近くに巣があるらしいイカルが、怒らずに涼しい声で鳴いている。一日のうち半分の時間を、世の汚濁とは無縁な世界で暮らしています。これが精神安定剤になっているのだろう。雨が降らないため育てているナスとトウガラシが青息吐息の状態、さすがに見かねて水をやりました。300Lタンクで2回だから600Lか、井戸水で料金が安いから出来る話で、都会ではまず不可能でしょう。テントウムシダマシによるナスの食害が酷くなってきたので、明日は仕方なくアディオン乳剤でも撒くことにしよう。アディオン乳剤、ピレスロイド系の殺虫剤です。

歴史才物学 TCA回路への異論 4 に続く

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