寒がりなトマト

 トマトと云う植物は寒がりである。夏場はわが世の春を謳歌するがごとく枝を伸ばし、脇芽を伸ばしてゆく。トマト農家は40度を超えるような暑いビニルハウスの中で、収穫と脇芽摘みという苦行を強いられる。トマトの原産地は南米ペルーのアンデス高原といわれているのだが、熱帯の高原であることから気候は暖かく且つ寒暖の差は少ない。従って、原産地では冬に枯れることなく多年草として生育しているそうだ。筑波万博だったかな、水耕栽培した1本のトマトからて1万3,000個の果実を収穫した話があった。要するに、冬場の気温を上手くコントロールすれば越年も可能と云うことだ。

 しかし、日本では露地で栽培すると越冬はできない、秋の終わりには見る影もなく枯れてしまう。従って、市場に出ている冬場のトマトは、加温したビニルハウスの中で作られたものである。言い換えれば、冬のトマトは灯油の消費とバーターである。近頃、ガソリンや軽油のみならず灯油の価格も高騰している。このまま灯油の値上がりが続けば、トマトの生産量は減り価格は上がって行くに違いない。

 ジャガイモはトマトに比べると寒さに対して抵抗性が高い。霜に当たった新芽が枯れる場合があるとはいえ、私は春ジャガの植え付けは3月初旬に行う。勘の良い方はもう気付いているかもしれないが、ポマトについて書いている。1978年に、マックス・プランク研究所(分子細胞生物学・遺伝学研究所)のゲオルク・メルヒャーズが、細胞融合技術を用いて作出した雑種である。日本人は横文字表記を有り難がる傾向が強い。雑種をハイブリッドと言い換えると、突然高級品に見えてくるらしい。今でも誤解している人を見掛けるが、このハイブリッドは地上にトマトを生らせ、地下にジャガイモを作らせることを狙ったものではない。ポテトの持つ耐寒性をトマトに持たせることを狙った実験であった。

 トマトとジャガイモはともにナス科の植物ではあるものの、交配は上手くいかないらしい。(この部分は確認していない)従って、当時開発された細胞融合というという手法を使って、ハイブリッド植物を作出したというのが実情である。作り出されたポマトは、確かにトマトより耐寒性があったらしい。しかしこの植物、地上には小さなトマトをつけ、地下には親指程度のジャガイモしかつけなかったため、世間では失敗であると判断されたようだ。でも科学的に見れば良い結果であると判断していいだろう。ポマトはハイブリッドではなく雑種であったと云うことだろう。

 その後、色々な融合植物が作られた。トマピー =トマト+ピーマン、シューブル= 温州ミカン+ネーブル、グレーブル = グレープフルーツ+ネーブル、ハクラン = ハクサイ+赤キャベツ、ベンリ菜 = 小松菜+チンゲン菜、千宝菜 = キャベツ+小松菜などである。シュープルとグレーブル以外は商品化されているので、誰もが気付くことなく食べたことがあるだろう。そうだ、オレンジとカラタチから作られたオレタチもあった。では、動物細胞ではどうなのだと云う疑問が湧くかと思うけれど、動物細胞の細胞融合については一寸ばかり生臭くなるので書きたくない。センダイウィルスにでも聞いて下さい。

 動物細胞を使った細胞融合を一つだけ、金魚の細胞と象の細胞を融合させたらどうなるか、目的は皆目わからない。ただ、食えないと思う。名前がゾウキンだ。

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