F2

 エアコンが壊れた。この暑い時期にどうしよう。三菱のサービスセンターから電話がきたのだが、お困りですねなどという挨拶なしに、訪問費がいくらで、修理代金はこうこうで、何とか費はいくらです。よろしいですか。それから、作業員がお伺いできるのは3日後ですときた。とてもではないが、反論を許さないような冷静な喋り方である。かかってくる電話にはクレーマーからのものもあるだろう。話の取っ掛かりを微塵も与えない無機質な応対は見事だった。芸術品のようだ。これがAIだったら諦めも付くが、なまじ相手が人で、かつ女性あるが故に何とも云えない殺伐とした気分になった。(こんなことを書くとフェミニストの皆様に批判されるかもしれない。悪気はない、いくぶんかの優しさを求めただけだが、それがそもそも間違いだと言われそうだ)これが現代だなと諦めはしたが、次に頼む時は近所のお店にしようと心に決めた。

 F−2といえばアメリカ空軍のF16をベースにした日本の戦闘機である。エンジンの推力不足が原因で、頼りなかったF-1の後継となる支援戦闘機として開発された機体である。実はそんなことを書きたいわけではない。ここまでは落語の枕みたいなものである。

 多くの人が知っているに違いないと誤解しているのだが、流通しているほとんどの野菜はF1品種である。F1品種とは、昔習ったであろう「メンデルの法則」で有名な、「雑種強勢」という現象を生かし、優良な特性を持った親株同士を交配させてつくられている。交配によって生まれた一代目の子、雑種第一代(first filial generation)から「F1」と呼ばれている。簡単に言えば、例えば、「形はきれいだけど味が今ひとつ」な母株と、「形は悪いが美味しい」父親を掛け合わせた場合、両親の良い所だけを受け継いだ「形が良く味の良い」子供、つまりF1が得られる現象である。勿論、形が悪く味も良くないF1が得られる場合もあるわけだ。

 F1品種は、発芽や生長が揃い、味が良く沢山採れ、且つ病虫害に対する抵抗性を持つように、親を選んで作成される。従って、その一代に限っては望ましい性質を持った作物となるわけである。では良いことばかりかといえば、そういうわけには行かないのが現実である。

 では、そのF1種子は、どのように作られるのか?目的とする優れた性質の種をつくるためには、親株となる二つの品種を交配させる必要があるのだが、その際、二つの品種の花期を合わせる育成が必要となるだけでなく、母親となる側の作物において自家受粉が起こらないように、人為的に雄しべを取り除き、父親側の花粉のみで受粉させる事が必要となる。これは時間だけでなく、果てしない労力が必要となる作業となる。従って、こうしたF1種子の販売はとてもコストに合わないとされてきた。

 では何故、現在売られている野菜種子はF1だらけになったのか。自然界には雄性不稔という現象が知られている。雄性不稔とは、ミトコンドリアに存在する遺伝子の異常によって花粉をつくれなくなり、自家受粉ができなくなる現象である。つまり、先に自家受粉ができない母親の雄性不稔株を育成し、好ましい形質を持った父親の株を隣り合うようにビニールハウス内に植え、ミツバチを使って交配させれば、雄性不稔の性質を持つF1が得られることになる。2種類の株が並んで植えられていても、父親由来の花粉しかないので、人が面倒な交配作業をする必要は無くなると云うわけだ。この時点で、優良な性質を持ったF1種子が大量に得られることになる。

 では、問題がないかと云えばないわけでもない。F1植物から採種した二代目F2の種子においては、親の持っていた良い性質がばらけてしまい、良い品質の作物を継続して作ることは難しいといわれている。ここらあたりが一寸理解できない。ひょっとすると、雄側にこの遺伝子を核内に取り込んでいる株があるのかもしれない。そうであればF1株が稔性を持ってもおかしくはないとは思うものの、現実に何が起こっているのか私は知らない。オープンスペースで栽培しているのであれば、周囲に生えている同種の植物の花粉が働いているのかもしれない。ただ、農家にとってF1品種を栽培するということは、毎回種を購入しなければならない事を意味している。つまり、種苗会社に完全に支配されるということだ。日本では野口種苗さんが、F1ではない固定種の種を販売して頑張っておられるが、大手の種苗会社の売っている種はほとんどがF1種の種である。そしてその大手種苗会社には例外なく外国資本が入っているのが現状だ。ここから先は陰謀爺の話であるので、眉に唾をたっぷり付けて読んで欲しい。

 さて、世の中には雄性不稔に疑念を抱き、それに警鐘を鳴らす人がいないわけではない。雄性不稔を引き起こす遺伝子はミトコンドリアに存在する。ミトコンドリアにある遺伝子は母系遺伝をする。母系遺伝については、ミトコンドリアイブ仮説について書かれたウィキペディアでも読んで下さい。少し、遊びたい人であれば「パラサイトイブ」という小説がある。少々荒唐無稽なSF本だが、まあ楽しめるでしょう。そこでだが、雄性不稔を引き起こす母株の遺伝子は、確実にそのF1株へと引き継がれている。ところが、F1株において雄性不稔が必ずしも発現するわけではないらしい。これはさっき述べた通りで、メカニズムについては現在お勉強中である。

 そこでだが、無精子症の原因遺伝子ともいえる優勢不稔遺伝子を持つ野菜を食べ続けることで、人体への影響がないという研究結果はないようだ。優勢不稔を引き起こす遺伝子が、人の遺伝子に導入される可能性はないかと云う問い掛けらしい。新型コロナワクチンのmRNAが、逆転写を受けてヒトの肝細胞に組み込まれるなどと云う報告を見ると、この世界何が起こるか予想も付かないと云うのが実感である。人が知っていることなど、殆どないのではないかと思い始めている。人によっては、現在の少子化の原因であるかもしれない成人男性の精子減少が、野菜のF1種子の持つ雄性不稔遺伝子の組み込みのせいかもしれないと疑っている。では陰謀爺はどう考えるかと聞かれそうだが、わからないと答えておこう。その仮説が正しい確率は低そうな気はしているのだが・・・。

 去年、F1カボチャを栽培した畑があった。株の残渣を取り除く体力がなかったので、乗用モア(草刈車)を使って残渣を粉砕した。この作業時に採りそびれていた果実も粉砕してしまった。5月頃、その畑を見てみると沢山のカボチャの芽が出ていた。何で種子ができたのだろうと戸惑った。それにしてもこれらはF2であるから、まともな実は生らないだろうと思い、トラクターで耕耘して新たな苗を植えるつもりだった。ところが、ギックリ腰で動けない。従って、新規な植え付けを諦め、F2株をそのまま栽培してみることにした。ところが、去年より沢山取れた。立派なカボチャが沢山採れた。これは理論に合致しない。周りは果樹園が多く、花粉の親となるカボチャを植えている所は殆どない。どうなっているのだろう。来年、F3がどうなるのか、種代をケチって様子を見ることにした。そんな話を近所の人にしたら、転んでもただでは起きない奴だと褒められた?

 これで上手くいったら、種苗会社から営業妨害だと見做されるかもしれないな。

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