お盆興行 3

 昨年も書いたが、お盆興行です。霊感はあまり無いと思う。ただ、住む場所がかなり異質な場合が多かったので、いくぶん以上に納得できない現象に出会ってきた。本人がそれを心から信じているわけではない。科学者として常に疑うという立場を失ってはいないつもりだ。でも、起これば何らかの対応は必要である。科学を志すとしていくぶん以上の躊躇いを感じながらも、あるお寺の門を叩いていた。

 三十路を少し過ぎて、ようやく職にありついた。論文を書くより実験を進めるほうが遥かに面白かったので、実験ばかりしていた。よくあんな状況の私を拾ってくれたと、その大学に少しだけ感謝している。何故たくさん感謝しないのか、その理由は横に置く。職を得て二月ほど経った頃から猛烈に体調が悪くなった。まあそのうち直るだろうと我慢していたのだが回復しない。夜間のソフトボールチームに在籍していたのだが、打率が2割ほど急降下した。研究室に誰かいるような気がするのだが、見える筈もない。

 仕方なく、お寺の門をくぐった。ご住職にどうしましたと聞かれ、とにかく体調が悪いと答えた。どこが痛いとは言わなかった。そこはまだ研究者としての意地が残っていたわけだ。そうですかと答えた彼は、ご本尊に向かい手を合わせ不動明王の呪を唱えた。暫くの沈黙の後にこちらに向き直り、あなたの前任者が頼ってきてますよ。お亡くなりになったのではないですかと聞かれた。一寸待て、私は前任者を知らない。その人がお辞めになったからポストが空き、私が採用されただけだと思っていたわけである。とにかく供養をしておきましょう。数日で直ります。

 次の日、以前の経緯を知っていそうな人に俺の前任者はどんな人と聞いた。「ああ○○先生ね、先月九大病院で亡くなっていますよ。知らなかったんですか。」「知るわけないよ、会ったことはないし誰も教えてくれないんだから。」彼はある臓器のガンだったと聞いた。私の痛い箇所と一致した。そう言えば暫く前に、同僚達が葬式に出かけて行ったことを思い出した。「やだよ、こんなの」と思ったが、どうしようも無い。症状は一週間ほどで消えた。科学者としては、完敗である。

 お寺に行ったその時、もう一つ云われたことがある。「前任者だけではなく、もう一つ関連がありそうなものがあります。あなたが居る建物の下に、亡くなった人がいます。一人ではないですね。貴方が元気であれば問題はないでしょうが、体調を崩された時は影響が出るかもしれません。」意味がわからなかった。七階建てのビルの下に遺体があるのか。都市伝説で、倉庫業者の○○組のどこどこの倉庫の下には、死体が埋めてあるなどと云う話はきいたことはあるが、ここは大学である。そんなことがあるものかと思いながら、長年勤めていた事務の人に尋ねた。この場所、以前はどんな場所だったんですか。嫌な答えが返ってきた。「炭鉱の跡地です。窓の外に見える小さな山を指して、あれボタ山ですよ。落盤事故があって会社潰れたと聞いています。

 そうした感受性を持つ学生もいて、ある教室で寝ると金縛りに会うと話してくれた。私も寝てみたが、私には何も起きなかった。別の学生は、ある教室には入れないと言い、授業がある時は盛り塩をして入っていた。もう捨ててしまったが、別の教室で写真を撮ると、幾つかのオーブが浮かんでいるのを頻繁に撮ることができた。

 半分諦めた、体調が悪くなったらお寺へ行こう。しょうがないな。その後、何度もその寺に通っている。まあ、ホームドクターみたいなものである。逃げ道があると思えば、人生楽しく暮らせると悟ったわけである。でもまだ、探求心は残っている。試すと云えば失礼だが彼に何が見えているのか、すごく興味があるのも事実である。

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