最後の一葉

 最後の一葉(The Last Leaf) はオー・ヘンリーの短編小説である。詳しいストーリーは忘れているが、今でも小学生の教科書に採用されているみたいなので、誰もが知っている物語のようだ。笑い話なのだが、「最後の一葉」は日本語入力システム「かわせみ2」による誤変換で、筆者が予期していなかった変換の結果である。

 断捨離は余り好きじゃないと書いた記憶があるが、要らないものは捨てるという考えを押し通した場合、人の歯にある犬歯をどう考えるのだろう。それも乳児時代に生えている犬歯に存在意義はあるか。気違いじみた極論で本当にそんなことを考えているわけではない。温和で保守的な人間です。犬歯は獲物を捕らえ、切り裂くための歯である。裁縫の際に糸を引っ掛けて切ることができることから、糸切り歯ともいう。生え始めが周囲の歯よりも遅いため、生えるためのスペースが残っていないことがあり、この場合、隣の前歯を後に押し込み前側に生えてくることが多い。これを一般に八重歯という。

 八重歯は時にはチャームポイントになるかもしれないし、糸切りにでも役立っているから捨てなくてもいいかなどど、つらつらと考えていた。友人の歯科医師に聞いたことがある。何か役に立っているかと?答えは、犬歯は他の歯に比べ根が非常に深く頑丈な歯で、老人でも最後まで残っていることが多い。強度があるため、噛み合わせたときに前歯や奥歯に負荷がかかりすぎるのを防ぐ役割をはたすと、判ったような判らないような答えをもらった。

 詰まらないことを書いていると自覚しているのだが、今朝上顎左側の犬歯が抜け落ちた。可愛くて小さな犬歯である。「最後の一歯」と書きたかったのに、漢字かな変換システムが「最後の一葉」と変換した。世間的にはこっちのほうが通りが良さそうだが、本人にとっては「最後の一歯」である。勘違いをされたら幾分悲しいのだが、これで全ての歯が抜け落ち、これから総入れ歯の新たなる日々が始まるということではない。この犬歯は乳歯なのである。上顎の乳犬歯の生え変わりは11歳前後だという。とすれば、この乳犬歯は還暦を過ぎていたことになる。

 けつの青い若造がという表現があるが、まだ乳歯の残っていた私の青臭い精神はこの乳歯が担ってきたのかもしれない。では、本来生えるべき永久歯の犬歯はどうなったかというと、乳犬歯の上に横向きになって存在している。いまから10年ほど前に件の歯科医師に、この乳犬歯が抜けたら上の永久歯が生えてきますかと聞いたら、多分そのままでしょうという答えであった。未使用の永久歯は不要物か、いやいやこれも私の一部であり半世紀以上の年月をともにしてきた大事なものである。乳犬歯のあった部分は空隙になり、ここに生えるはずの犬歯は2階で寝ている状態だ。遂に歯が抜け始めたかと云われたら、いまから永久歯が生える隙間だと答えておこう。歯!葉!歯!。

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