新米の農民として、イネを5年ほど、野菜類を2年ほど、そして果樹を5年ほど育ててきた。イネに関してはそれなりの手順が確立しているため、農協の栽培歴と師匠のアドバイスに従っていれば、反当たり7俵程度はとれるようだ。機械としては田植機とコンバインがない(高すぎて買えない)、苗の育成は農協任せという状態で、一人でやれるかと言われれば否と言うほかない。5年経っても師匠頼りの状況が続いている。
野菜に関しては、何を中心に栽培すれば良いかが、なんとなく分かってきたところである。各野菜の最盛期に他の人と同じ野菜を作っても、殆ど収入にはならない。作る野菜を変えるか、品種を変えるか、収穫時期を変えるか、或いは売り方を変えるかどこかで工夫する必要がある。去年は色々な野菜を試したが、うまくいったのがヒユナとワケギである。植え方を一寸工夫すると、他の野菜がなくなる端境期に出荷できる。だめだったのが、ミニダイコン、山東菜、一部のベビーリーフ、最悪だったのは種を播いても発芽さえしなかったアイスプラントであった。
果樹については、クリ、カキ、スモモとクワを試している。クリに関しては、カミキリムシの被害が大きいだけでなく、8月後半に台風が来ると幼果が落ちてしまう。成熟して落ちた実の収穫が、イノシシとの競争になる。プロの農家はこうした問題をどうしているのだろう。現在は、カミキリに寄生され息絶え絶えになった株を切り、苗から植え直すかどうか思案している。
カキ、浮羽のカキは結構有名でかなりな面積で栽培がされているとはいえ、近年栽培面積は減少傾向にあるし、品種の置換も行われている。市場では少しでも早く出荷されたものに高い値がつくため、早生の品種が好まれているようだ。しかし、正直なところ早生に品種は余り美味しくないように感じている。11月後半に熟れる富有ガキがやはり美味しい。さほど美味しくないものを早く出荷してしまうと、その後美味しいものが出されても消費が伸びない。同じような現象がキウイで起こっている。キウイは収穫してしばらく追熟させないと旨くならないのだが、必ずフライングして旨くないものを出荷する業者がいる。こうした業者が全体の消費の伸びを邪魔しているのだが、彼らは高い値段での売り抜けを実現しているわけだ。
そこで美味しい晩生の富有柿の話に戻るが、12月の後半から剪定が始まる。3〜4年ごとに樹皮を剥がす作業もある。芽が出始める前に石灰硫黄合剤やマシン油を撒き、根元に少量ではあるが堆肥を施用する。4月からはまあ通常の薬剤散布、摘蕾、摘果作業が9月頃まで続いた後、収穫が11月から始まり12月の半ば頃まで継続する。つまり年中休む暇がない。天候による災害を受ける可能性も大きい。とすれば、おいしさはいま一つでも、高価で早く収穫の終わってしまう品種にシフトして行くのも仕方ないことだろう。非難はできない。
私も7本を残して残りの柿は切ってしまった。世話を仕切れないというのが本音である。この年になると、脚立に登っての作業はあまりしたくない。剪定、摘蕾、摘果、収穫の時に、空を飛んでしまう可能性を無視できないからだ。そして、切った柿の後にクワを植えた。桑の実で商売をしようと考えたわけだ。ところが、まあ思いがけない障害に出会っている。現在のクワは極めてマイナーな作物である。そのクワ栽培で葉っぱではなく実を取ろうとする農業者はさらに極めて少ない。いつも少数派にとっては似たもの同士の作物かもしれない。問題は、農薬会社がマイナーな作物に対して薬剤を適用申請をしていない点にある。勿論、それは合理的な判断で、申請にかかる費用と売れ行きを考慮すれば当然だといえる。
しかし、マイナーな作物であっても病気は発生するし害虫も寄生する。こうした場合の対応策として、作物のグループ化が行われクワに関してはブルーベリーおよびその他の小粒果実類に適用を持つ農薬が使用できることになってはいる。だが、こうしたグループ化がなされたが際に、使える薬は各植物に使える農薬の重なり集合と限りなく近いものとなった。つまり、毒性は低いが効果に関してはちょっと疑問という農薬が多数を占める。これは効かないといっているわけではなく、撒く時期や散布方法などにかなり篤農家的知識や予知能力が必要であると言う意味である。私はまだそのようなものを持ち合わせていない。菌核病が出たらどうしよう、紋羽病が出たらどうしようと日々悩んでいる。