前回の続きだが、ツマグロヒョウモンの雄の写真を撮った後、なんと私の庭にタテハモドキが飛来し遮光ネットに止まった。もう少し背景を考えてくれと云いたかったが、無理な話だろう。いくぶん羽の赤みが強い気がするが、タテハモドキであることは間違いないと思う。
タテハモドキは南方系のチョウで、私が探鳥と探蝶にふけっていた頃は鹿児島であっても迷蝶扱いされていた。近年、分布を北に広げているという話は聞いていた。やはり南方系の蝶であるイシガケチョウもよく見かけるので、この蝶も定着しているのかも知れない。休耕田、作付けを止めてしまったた水田に生えるオギノツメが食草であるため、食べ物に困ることはないだろう。
それにしても、命名という営為は難しい。モドキは擬きであり、偽物を意味する。大辞林に依れば、名詞の下について「そのものに似て非なるもの」を意味する。そして、そこはかとない非難の意味を含んでいることが多い。虫の命名においては‥‥モドキ、‥‥ダマシ、ニセ‥‥などの命名がなされるが、これらの修飾語が付いたから別のグループに属するムシと云うわけでもなさそうだ。
タテハモドキもタテハチョウに似た他のグループに属するわけではなく、れっきとしたタテハチョウ科の一員である。では何故そんな名前がついたのか。タテハチョウは漢字で書くと立羽蝶であり、羽を立てて止まることに由来する。ところがこの蝶は羽を広げて止まることが多いのである。立羽蝶のくせに羽を開いて止まる、従ってタテハモドキと云うわけである。
私の悪い癖であるが、タテハモドキは何故羽を開いて止まるのかと考えてしまう。この蝶、英語名はPeacock pansy、孔雀のような目玉模様を持つパンジーと云う。目玉模様が印象的であることが原因であろう。これを逆さまにしてみると、フクロウの目玉に見えないこともない。機能主義的に捉えれば、フクロウを恐れて捕食者が近寄らないから生存に有利だというストーリーになる。
よくあるベーツ型擬態による説明である。しかし、フクロウの目玉に似るように進化したとは云っても、それはある程度の形ができてからの話で、目玉模様出現の理由にはならないだろう。