歴史生物学 一次代謝と二次代謝 5

  植物の窒素廃棄の問題を考える事にする。窒素、リン酸、カリは中学生でも知っている植物肥料の3要素である。さて、窒素は地球上に無尽蔵に存在する。何しろ大気の80%が窒素である。ところがこの窒素、2個の窒素原子が3重結合をしている分子で、窒素原子間の結合エネルギーは225 Kcal/molにもなる極めて安定な分子である。植物はこの分子状窒素を利用できない。植物が利用できる窒素はアンモニア態窒素(NH4+)あるいは硝酸態窒素(NO3)が殆どで、近年アミノ酸も利用できるという話が流れている。このように窒素分子は極めて安定で、そのままでは植物は利用できない。

  長い地球の歴史の中で使われてきた窒素は、雷(放電)に伴い空気中の窒素から生成する窒素酸化物に由来するものであり、いま一つはいくつかの種類の真正細菌(シアノバクテリアも含めている)と一部のメタン細菌が固定した窒素に由来するものであった。こう書いたとき、根粒菌をどう扱えばいいか少し迷ってしまう。もちろん真正細菌に含まれるのは間違いないにしても、植物との共生をせずに窒素固定ができる根粒菌はいるのであろうか。生物による窒素固定の話は、非常に難解である。地球上の生物において、体を構成する成分として窒素を含むタンパク質は不可欠である。当初は、無機的に生産されていた硝酸を還元して使っていたと思われるが、どこかの段階でニトロゲナーゼを発明して、生産されるアンモニアをアミノ酸合成に取り込む系路を構築したのであろう。(廃棄の話をすると云いながら今のところ窒素固定の話になっている。同化している?)

  「・・・アミノ酸合成に取り込む系路を構築したのであろう。」と書いて、そっと次の話に行けば、かなりのヒトを騙すことができると思うのだが、そんな姑息なことはしない。都合が悪くても事実は事実である。ここには、ニトロゲナーゼについての理解しにくい疑問が存在する。ニトロゲナーゼは以下の式に従って1分子の窒素ガスを2分子のアンモニアに変換する。

     N2 + 8H+ + 8e + 16ATP ——————–> 2NH3 + H2 + 16ADP + 16Pi

  見て分かるように水素の生産も同時に起こっている。もちろん、水素生産を無視して書くことは可能だが、それでは事実は見えてこない。水素生産はニトロゲナーゼの代表的な副反応の一つであり、ATPの加水分解と共役した水素生産を示しているのだが、ニトロゲナーゼのもつこの還元的ATPアーゼ活性が、なかなか難しい。この反応を行うニトロゲナーゼを還元的ATPアーゼと捉えたとき、この酵素の基質特異性が極めて低いのである。次の表を見て欲しい。

スクリーンショット(2014-11-23 22.56.49)

  表の中でイタリックが外れている部分があるが、ご愛敬と云うことで許して下さい。もちろん、ある生物の持つ一つのニトロゲナーゼが全部の反応を行うわけではない。とはいえ、この基質の広がりは何を意味するのであろうか。ここで出現している化合物群を眺めると、原始地球における大気や海水中にある成分を考えてしまう。ニトロゲナーゼという酵素が極めて酸素に弱いことを併せて考えると、この酵素の出現は地質学的な意味でかなり昔と云うことになりそうだ。

                  歴史生物学 一次代謝と二次代謝 6 に続く

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