彼岸花

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図1 白花曼珠沙華

  彼岸になるとヒガンバナが咲く。今年は8月末頃からフライング気味に狂い咲きをする株を散見していたが、花がいくぶん小さい気がしていた。この季節になっての花は、やはり一段ときれいである。農舎の庭にも白花のヒガンバナがある。新築工事に伴って、今年はずっと踏みつけられてきたはずだが、季節を違えることなく花を付けた。ヒガンバナは4月下旬には花芽分化を終っていると聞く。いま咲いている花は、春先には開花用意が終わっていたものである。とすれば、これから出てくる葉っぱを大事にしてやれば来年も楽しめるということであろう。

  一般的に、ヒガンバナは有毒植物に分類される。しかし、救荒植物として、あるいは薬用植物として分類されることもある。ヒガンバナにはリコリン、ガランタミンを初めとしてシキミ酸経路に由来するノルベラジンアルカロイド類が含まれている。(図2)

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図2 彼岸花に含まれるアルカロイド

  リコリン(Ⅰ)はヒガンバナ科の植物が含有するアルカロイドで,ヒガンバナだけでなくスイセンやアマリリスなどにも含まれている。リコリンの毒性はマウス経口で10,000㎎/㎏以上と大したことはない。このリコリンはかなり水溶性があるため、すりつぶした球根を大量の水で晒すことによって残ったデンプンは食べることができる。従って救荒植物として分類することもできるわけだ。このリコリンには他の植物、特にキク科の植物に対する発芽阻害活性があると同時に抗菌性も認められている。(http://www.niaes.affrc.go.jp/sinfo/result/result15/result15_16.html)

  さて、田の畦にはよくヒガンバナが植えてある。本当かどうかは確認していないが、ヒガンバナの分泌するリコリンをミミズが嫌うという。ヒガンバナを植えておくとミミズがよってこない。すると、捕食者であるモグラが来なくなる。モグラが来なくなると畦が壊わされないということらしい。私も植えてみることにしよう。なお、同時に含まれるクリニンもレタスの発芽を阻害することが知られている。

  生薬学的な観点から見るとリコリンを含む鱗茎は石蒜という名称で利尿・去痰薬とされるが、個人の判断で飲むのは止めた方がよい。いわゆる漢方薬においては、植物が生えていた場所、気候、採取時期、採取年度、採取後の処理などに伴って生薬成分の量が大きく変化するからである。

  リコリンに比べれば少量しか含まれていないガランタミンは、有機リン系殺虫剤やカーバメート系殺虫剤のようにアセチルコリンエステラーゼを阻害することが知られている。阻害様式は可逆阻害である。私もそのうちにお世話になるかもしれないが、このガランタミンはアセチルコリンエステラーゼを阻害することで、脳内のアセチルコリンの濃度を上昇させるため、アルツハイマー病の症状改善に有効だそうだ。さらに余り嬉しくない話だが、アメリカではガランタミンがコリン作動性スマートドラッグとして記憶増強用サプリメント化され、販売されているときく。

  話は変わるがリコリン、クリニン、ガランタミンの構造式を見ると、大して似ていないと感じる人が多いと思う。しかし生合成系を見てみるとこれら3種の物質はよく似た兄弟と云って良い。図3に生合成系を描いてみた。

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  多分間違ってはいないと思うが、絶対正しいかどうかは分からない。とにかく、3種の化合物は1分子のフェニルアラニンと1分子のチロシンから生合成される。フェニルアラニンがPALによって桂皮酸になった後、オキシゲナーゼによって2回の水酸化を受け、3,4-Dihydroxycinnnamic acidに、さらに側鎖の2重結合が酸化的に切断されて3,4-Dihydroxybenzaldehydeまで酸化される。チロシン分子は脱炭酸を受けてチラミンとなった後、3,4-Dihydroxybenzaldehydeと反応してSchiff baseを形成するが、生成したC=N結合は還元されてN-(3, 4-Dihydroxyphenylmethyl)tyramine (IV)となる。このIVが共通の中間体として、ここから各化合物へと分岐していくわけである。N-メチル化とO-メチル化が酸化的に起こるラジカルカップリング反応より早期に起こった場合はガランタミンへの代謝が進み、このメチル化が起こらない場合はIVの立体配置の違いによりクリニンあるいはリコリンへの代謝が進むわけである。図中の黒い矢印は電子2個の移動、赤い矢印は電子1個の移動を意味している。

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