なぜ、どうして、なんで、でも

 大人にとって、何故何故何故と問い続ける子供は厄介である。3回も続けて聞かれりゃ答えきれないのが当たり前、どんな大人でも持っている知識はその程度である。子供という生き物はそれを知らない。先生は神様だと思っている。刷り込みの済んだアヒルみたいなものだ。要領の良いガキは大人が無知である事を阿吽の呼吸で察し、適当なところで追究をやめ歓心を買う事ができるのだが、要領の悪い子、社会性の発達がいま一つの子はそれが出来ない。素直に聞き続けるために自尊心だけで生きている大人の心証を大いに害してしまう。実に可哀そうだ。

 子供とは興味を持つと一途に走り出して、短期間に大人顔負けの知識を身に付ける生き物である。始めの頃、利いた風に教えていた大人なんて、瞬く間に置き去りにされる事は珍しくない。問題はこの知識量に逆転が起こった時の大人の対応にある。プライドが邪魔をして知らないと言えずに、邪険な対応におちいる大人が少なくない。まあ、邪険にされて社会的に成長する子供もいれば、何が起こったのかを理解できずに閉じこもってしまう可哀そうな子供もいる。

 最も良い対応は、凄いね、その理由はおじちゃん(おばちゃん、お母さん、お父さん、先生、誰でも良い)も知らないな。良いところに気がついたねと褒める事だ。そして最後に、これからもまた教えてねとにっこり笑ってお願いする。そうすると、子供は伸びるし、おじちゃん達も継続して知識を教えてもらえる。勿論大人の側に、時には軌道修正してやる程度のバランスのとれた常識と見識は不可欠だ。

 言うまでもなく私はこの種の子供だった。昭和20年代の半ば、皆がまだ生きるのに一所懸命だった時代に、この手の質問に丁寧に相手をしてくれる大人などまずいなかった。病弱で手がかかるにもかかわらず、何故何故と問い続けるこどもは、学校の先生達にとっては邪魔な存在であったに違いない。多分、両親も同じだったと思う。口止めのためではなかったと思うが、漫画など決して買ってくれなかった親が、生物学事典、科学事典、天文学事典を買ってくれた。それでどうなったかといえば、各事典の興味のある項目を、ノートにしこしこと書き写す日々が始まったのである。外部に対する初歩的な質問は減ったが、これはこれで別の問題を引き起こした。まあそれは仕方がない。

 そこでだが、つまらない写真をいくつか紹介しよう。ヤブガラシの写真である。

ヤブガラシ 左が新芽、右が少し生長した株

 ヤブガラシ、漢字で書けば薮枯、都会でも田舎でも、ちょっと気を抜けば生えてくる蔓性の雑草とされている。庭の手入れに手が回らなくなった没落した屋敷の庭で目立つことから、別名「貧乏葛」ともいう。我が家にもはえている、だから写真に撮れる。それで?という話だが、新芽が赤い。少し生長してくると、紅海老茶あるいは赤紅色をした茎の可憐さはなくなり、ちゃんとした緑色に変わる。何で新芽が赤いのだろう。

 アカメガシワの新芽も赤いし、カエデの仲間の新芽も赤い。黄色い新芽もある。色が付いていない白っぽいものも多い。私は濃緑色の新芽なんて見た事がなのだが、読者はどうなんだろう。

黄金柾の新芽

 話が見えてきたと思うのだが、先生といわれる職業の人が、秋の紅葉は秋になると葉緑素が分解されて消失してアントシアンの色が見えてくると言った。それは正しい、でもそこで悪い癖が出てしまった。新芽が赤や黄色の植物はどう考えればいいのですか?フーテンの寅さんではないが、それを言っちゃあお仕舞いよ。その後の顛末はご想像にお任せする。赤い新芽ならこちらのブログにいくつも紹介してある。https://ameblo.jp/kawasemi2030/entry-12589801130.html

 植物は光合成をする。光合成は葉緑体で起こる。光合成が起こると葉緑体周辺での酸素濃度が急増する。酸素は光合成で使い切れなかったエネルギーを受け取って、毒性の高い活性酸素に変化する。この活性酸素に対応するため、植物は活性酸素を作らせないメカニズムとともに、活性酸素を消去するメカニズム持つのだが、芽生えたばかりの幼植物ではこのメカニズムがまだ充実していない。とすれば、幼い植物においては葉緑体の発達がいくぶん遅れて進行したほうが、生き残りに有利であった。だから生き残った植物の幼芽は赤かったり黄色だったりする。「花の色素に関する考察」https://bamboolab.yamasatoagr.com/?p=7160 で書いた仮説の拡張版だ。

 ヤブガラシ、畑にはえてくるとなかなか面倒な草だが、山の法面などに生えている場合などは風情があっていいものである。派手な花を咲かせるわけではない。貧乏葛の名前に合った貧相な花を咲かせる。貧相であるだけでなく花弁と雄蕊は開花後半日ほどで散ってしまい、直径 3 ミリメートル位の橙色の花盤だけが残ることになる。ところが、この花盤は多量の蜜を分泌するため、蜂や蝶や甲虫など多種の昆虫が集まってくる。アオスジアゲハを採りたい時はこの花の横で待っていると、採れる場合が多い。悪い癖が出そうだ。散った後でなんで多量の蜜を出すの。どうして、何故?

カテゴリー: 歴史生物学 パーマリンク