殺戮現場を目撃

 先日、長閑な話を書いた。次の文章である。

9時過ぎ頃から蝶が飛び始めるのだが、思いがけなくセンダングサでの吸蜜が頻繁に起こっていることを知った。畑の入り口にセンダングサの群落がある。切っても切っても新枝が出てくる植物で、季節が進むと衣服に種子がくっついて面倒なことになるため、除草剤でも撒こうかと思っていた。ところが、この草の花にヒョウモン蝶が集まって吸蜜している。ヒョウモン蝶の仲間は、よく似た斑紋を持つ種が多い上に、雌雄で全く違う斑紋を持つ種もいるため、いつも通りこの蝶が何ヒョウモンであるかは分からない。そしてヒョウモンだけではなく秋型で少し小ぶりのナミアゲハやモンシロチョウまで吸蜜している。

 上で書いたことに間違いはない。このセンダングサにはチョウだけではなくミツバチもたくさん来ている。何だか、秋の澄み切った空と日射しの中で、蜜を求める昆虫たちの団欒の場のような印象で見ていたのである。ところが世の中、そんなに甘いものではなかった。スズメバチがこの花の周りをゆっくりと飛び回っていた。大きさからみてキイロスズメバチだと思うのだが、このスズメバチ、花蜜を求めてきたのではなく吸蜜しているミツバチを狩りに来ていたのである。ホバリング気味に飛んでいたキイロスズメバチが急降下すると同時にミツバチを捕獲し、素早く少し離れた木の枝に止まり肉団子にしてどこかへ運んでいた。センダングサの群落は、長閑な吸蜜の場ではなく、実に凄惨な殺戮の場であったということだ。

 昔の話だが、オオスズメバチがミドリヒョウモン(多分)を空中で捕獲する場面を見たことがある。百日草の花の上に着陸したオオスズメバチは、すぐに羽を切り落としチョウの身体をかみ砕きながらかなり大きな肉団子にして飛び去っていった。子供の餌にするとはいえ残酷な奴だと思いながらも、そういう生態学的位置にいるのだなと考えていた。彼等の行動に善し悪しはないのである。昆虫の中で、ある程度以上の空を飛ぶ昆虫は、エネルギー消費が大きいため、草食ではなくカロリーの高い蜜やより小さな昆虫を餌にするものが多いようだ。食べる虫が小さいが故に、さほど残酷であるとは感じないが、トンボもまた凄まじい生き物である。

 

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