義務教育不要論

 あいつらに勉強を教えたらいかん。義務教育なんか絶対しちゃいかん。特に電気関連の知識を教えるとスイッチを切って悪さをするごとなる。知り合いのGさんの声である。私の知るGさんは温和な常識人である。どう考えても、義務教育を否定するような人ではない。

 まあ私も、一応教育者という分類に入る職業についていた。義務教育に関しても、良い点と悪い点があることは認めた上で、一定レベルの教育の有効性は認めている。その義務教育が不要であると力説するGさんの話は、興味をそそられるテーマではあるが、古希を過ぎた農家の人が、力を込めて議論する話題ではなさそうにも思える。何があったのだろうかと聞き耳を立てていると、事の顛末が分かってきた。

 いまは栗の収穫期である。私の栗園は手入れが悪く、大した収穫はなかったのだが、Gさんは本職である。その栗だが、本当によく成熟した大きな栗は、落ちた瞬間に裂開した殻斗(毬・イガ)から飛び出すことが多い。Gさん、雨の合間を縫って栗の収穫にいったのだが、このこぼれた立派な栗の殆どをイノシシに食べられてしまったのである。雨続きで電気柵の充電が十分でなかったことと、伸びてきた濡れた草で漏電を引き起こしたことが原因らしい。それにしても、イノシシは実に器用に鬼皮だけを残して栗を食べる。

 彼はイノシシに教育機関があったら大変だ。彼らが義務教育を受けて、電気柵のスイッチを切れるようになったら、もはや対応策がないと力説していたのであった。人間も、教育を受けて悪知恵だけ付けて帰ってくる奴がおろうが。あれと同じこつたい。

 自らの知恵のなさを少々反省をしながら、そういうことかと納得した。

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