健康診断

  昔から健康診断が嫌いだった。一応教育に携わる職にいたため、胸部検診は義務だと思っていたが、胃の検診とか大腸ガン検診とかは不必要であろう。その部分は、正しい意味での自己責任である。

  十年ほど前に、国民健康増進法などという法律が作られ、国民は新たな義務を背負わされた。第二条 に次のように書いてある。「国民は、健康な生活習慣の重要性に対する関心と理解を深め、生涯にわたって、自らの健康状態を自覚するとともに、健康の増進に努めなければならない。」これをそのまま施行すれば、夜更かしをする人も、沢山食べる人も、いくぶん過度なダイエットをする人も、法律違反である。相撲取りは全員が平均体重をはるかに超していることを理由に悪質な違反であろう。マラソンランナーは、脳内麻薬が出るほどに体をいじめるから、これもまた悪質な違反であろう。別件逮捕の理由になるのかな?

  我々は、他人に迷惑をかけないという限りにおいて、愚行権をもつ。国がこうした法律を基に、お前の血圧は高すぎるだの、血糖値も高すぎるなどと口を挟むのは越権行為というより大きなお世話であろう。人間、還暦を過ぎれば体のあちこちにガタが来るのは自然である。天から授かった能力を、天に返していくプロセスが始まったに過ぎない。

  国民の健康を心配する暇があるようなら、国のきわめてメタボな財政問題とか、情報の流れる血管の詰まりとか、視野狭窄に陥った外交とか、そっちを心配してくれ。

  それで、先日健康診断があった。毎年、朝から食事をしてきたことを理由に胃の検診を受けなかった。だが、検診をとりまとめている方が、私のために困っていたらしい。あまり我が儘を言っても大人げないと思い、前日の夜から飲まず食わずで、検診に至った。ところが、この暑さである。どうやら、軽い熱中症になったらしく、検診後に頭痛と目眩に襲われた。次の日には回復したが、検診を実施したメンバーは健康増進法違反であったように思える。

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