グリホサートは芳香族アミノ酸の生合成を阻害して雑草だけではなく作物を無差別かつ強烈に枯らす。非農耕地で使うのであれば最高の除草剤である。現在売られているグリホサートを主成分とする除草剤には幾つかの種類がある。イソプロピルアミン塩であるかアンモニウム塩であるかカリウム塩であるかという違いとともに、用途の違いーすなわち農耕地用であるのか非農耕地用であるのかの違いである。農薬としての登録が取れている農耕地用のものは高価であるが、非農耕地用のものは値崩れが起こり安価で流通している。我々農家は、農耕地で使うこともあるため、農薬としての登録が取れている結構高い農耕地用のものを使わざるを得ない。
それはそうとして、実に効果の高いこの除草剤をより効果的に使うために、モンサントの研究者達はグリホサートに選択性を持たせるのではなく作物側にグリホサート耐性を持たせようと考えたのである。この頃までに、分子生物学が発展し、植物への遺伝子の導入が可能になっていたのである。繰り返すが、グリホサートはシキミ酸経路中の 5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(EPSPS)を標的酵素として特異的に結合し、その活性を阻害する。そこでグリホサートの影響を受けないEPSPSの探索が行われ、細菌であるアグロバクテリウム・ツメファシエンス (Agrobacterium tumefaciens)CP4株がグリホサートで阻害されないEPSPSを持つことが見いだされた。このバクテリアのEPSPS遺伝子を大豆に導入してグリホサート耐性を持たせることに成功したのである。一旦成功すれば、類似の手法でいろいろな耐性機構をもつ作物が作出されている。それにしても耐性遺伝資源である Agrobacterium tumefaciensが根頭癌腫病菌などと云われるといくぶん引いてしまいそうだ。
こうしてグリホサート作成されたグリホサート耐性大豆の生えた畑にグリホサートをまくと、雑草は枯れてしまい、耐性を持つ大豆は影響を受けずに生育する。一見すると実に理想的な畑を実現できるのである。人間を含む動物や昆虫は、もともと芳香族アミノ酸は食物から摂取するため、グリホサートには影響されず、グリホサートの毒性は発現しない。また、グリホサートは土壌中で微生物によって水と炭酸ガスに分解・不活性化されるため、残留性も低い。従って、除草剤耐性大豆を栽培した畑では、除草剤の散布回数を減らせるだけでなく、土壌の浸食を抑え、動物や昆虫に対する直接的な影響もないというストーリーが成立する。されど、そんな都合の良い話がそのまま実現することはなく、種々の問題が起こっているのが現実である。例えば、
https://www.environmental-neuroscience.info/pesticides/herbicides/entry47.html
もちろん、問題はないとする報告もある。
http://pssj2.jp/2006/gakkaisi/tec_info/glyphosa.pdf https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000168500.pdf
その辺りは、最早かなり政治的な話になっているので、真実がどの辺りにあるのかは部外者では判断が難しい。とにかく、抵抗性作物と対応する除草剤をセット販売できるというのは企業にとって魅力だろう。それはそうとしてちょっと気になるのはこうした抵抗性作物に特許が成立しているという事実である。新しい発想と技術で作られたものであるから、特許が成立して当然だと考える人が大部分であると考える。まあ確かに、特許とはそういうものである。
さて、いま流行中のコロナウイルス感染症、ワクチンの開発が拙速に行なわれているのだが、この中に従来のワクチンと違うメカニズムを持つワクチンが存在する。もう、DNAワクチンやウイルスベクターワクチンなどであるが、すでに幾つかが治験に入っている。少し説明する、例えばアストラジェネカ社が開発中のアデノウイルスベクターワクチンについてだが、まず新型コロナウイルス表面にある突起(スパイク)のタンパク質をコードする遺伝子を採取する。次にチンパンジーが罹る風邪のウイルス(アデノウイルス)の遺伝子を採取して、人の体内では増殖しないようにウイルスの増殖に必要なE1領域を除去して無害化する。先に採取しておいた新型コロナウイルスのスパイクタンパク質をコードする遺伝子を、このアデノウイルスの遺伝子に組み込むことで、ワクチンができあがるわけだ。
このワクチンを注射すると、新型コロナウイルスの遺伝子を持つアデノウイルスは人の細胞に侵入して、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を作らせるのである。この新型コロナウイルスのスパイクタンパク質は人にとって異物であるため、これを抗原とする抗体が作られる事になる。この抗体が、新型コロナウイルスに感染したときウイルス粒子に結合することで感染を防ぐことになる。完全に正確ではないが、そういう形で働くと考えて良い。つまり、我々の身体が新型コロナスパイクタンパク質の生産を始めることになるわけだ。
アデノウイルスはレトロウイルスではないため、人の遺伝子に新型コロナウイルスのスパイクタンパク質をコードする遺伝子が組み込まれる可能性はないとされている。また、アストラジェネカ社は「新型コロナウイルスの遺伝子を持つアデノウイルスが生殖細胞に侵入する懸念はないと考えている」とコメントしている。この辺りの危険性、言い換えれば安全性については、慎重に治験を繰り返すしかないだろう。ウイルスが生物であるかどうかの議論は別にして、何となくジュラシックパークのジョン・ハモンドとイアン・マルコムの台詞を聞いているような気がする。「ジュラシック・パークへようこそ」、「金に糸目はつけない」by ジョン・ハモンド、「生命に不可能はない」vs「科学者たちは、何ができるかに夢中になって、それをするべきかどうかは考えない」by イアン・マルコム
以上の話は妄想ではない。以下が妄想である。グリホサート耐性の植物はそれを作った会社のものである。では、同じく遺伝子操作を用いて新型コロナ耐性を付与された人間は、ワクチン会社のものだろうか。レトロウイルスと同時感染して、ゲノム上に新型コロナスパイクタンパク質遺伝子を持ってしまった人の立ち位置は、ラウンドアップレディ大豆や菜種などとほぼ同じように思えるのだが。いやいや馬鹿馬鹿しい妄想でした。