桜の季節

  もう少しでサクラの季節である。世の中、サクラが咲くと云うだけで浮き足立ってくるのだが、正直なところサクラは余り好きではない。花を見ずに高歌放吟する人々は嫌いだし、生き急ぐように散るサクラは痛々しい。だから嫌いなのかといえば、実はそうではない。

  サクラが咲きはじめる数日前、折り重なる蕾は弾けんばかりに充実している。そんな時期の黄昏に桜並木を歩くと、黒々とした枝にゴツゴツとした数知れない黒い蕾がまとわりついている。満開の桜とは全く違った貌を持つこの時期のサクラには、冥界から再生せんとする生命力が満ちているようだ。まるで異界へと続く隧道を歩いているような気になるのである。坂口安吾の小説「桜の森の満開の下」では、満開の桜の森での山賊の錯乱を描いているが、私は咲き始める直前の桜隧道のもつ生命力に満ちた妖気をおぞましく感じるのである。

  最後の文章、「の」が多すぎていくぶん不満だが、何度か読んでいるとそれなりのリズムはありそうである。このままにしておこう。

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