命名法の混乱ではなく私のバグ

チョウの名前について、昔書きかけて中断した記憶がある。何か他のことに気をとられてそのままになってしまっていた。当然のことだが何を書いたかは殆ど覚えていないし、公開したかどうかも記憶が定かではない。最近、新聞に「キオビエダシャク」という外来種の蛾についての記事があったのだが、その記事を読んで急に昔のことを思い出した。

都農町公式ホームページより引用(https://www.town.tsuno.lg.jp/article?articleId=666aa0c7e755be31c100597e

一部のニュースにおいては黒いチョウという表現をしている。確かに羽に黄色い帯がありこの写真をみればチョウの一種だと誤解される場合がありそうだが、この虫はチョウではなくエダシャクの仲間に分類されるガの一種である。従って羽に黄色い帯のあるエダシャク、名は体を表す、なんの疑問もおこらない。

とは云うものの、日本において区別して考えられているチョウとガは、ドイツ語やフランス語においては両者を区別しない。ドイツ語においてはチョウとガをまとめてFalterと表現し、これを区別したい場合にはチョウはTagfalter、ガはNachtfalterと呼ぶという。フランス語においても、チョウとガをまとめて papillon と表現し、これを区別したい場合にはチョウは papillon de jour あるいは  papillon diurne 、蛾については papillon de nuit あるいは papillon nocturneと言うそうである。チョウとガを区別して表現するかどうかはその土地の慣習であり、一方が正しくもう一方が間違っているということはない。さらに分類学的に言えば、鱗翅目(チョウ目) Lepidoptera を指すと書いてあるが、これをガ目とも云うとも書いてある。要するに目のオーダーでは区別はないということだ。

話は変わる。モンシロチョウというチョウがいる。キャベツ畑に現れ殺虫剤を使わなければ、キャベツをレースの塊にするチョウだ。今年4月に植えたキャベツは見事にレースになった。寒冷紗のトンネルをかけたのが遅れただけである。だからといってこのチョウを嫌っている訳ではない。問題はその名前である。一匹一匹をみれば可憐なこのチョウ、確かにその羽に紋はあるのだが、その紋の色は黒いのである。黒い紋があるのに何故モンシロチョウと呼ぶのだろう、というのが子供の頃からの疑問だった。何人かの大人に聞いてみたことはあったが、明快な答えは返ってこなかった。何しろ白いチョウはすべて、モンシロチョウだと思い込んでいるのが通常の大人という生き物である。知らないという言葉を子供に言うのは死ぬほど辛いと思っている先生という人種に、こうした事を聞くのはもっと悲惨なことになる場合が多い。こうした疑問は、追いかけても変人扱いされる場合が多い事を何度も経験していたので、いつものなぜなぜの癖が出たものだと還暦近くまで放置していた。

少し暇になって改めて昆虫の分類について調べ始めた。答えを先に書くが、モンシロチョウはシロチョウ科のモンシロチョウ属に属する。モンシロチョウというひと塊の用語のらしい。つまりモンシロチョウであり、その意味は羽に紋のあるシロチョウということらしい。つまりモン・シロチョウの羽には黒い紋があるのだが、モンシロチョウという名称の中にモンの色についての情報は含まれていないのである。ただ、紋のあるシロチョウという事のようだ。クロモンシロチョウあるいはモンクロシロチョウと命名すれば良かったのかもしれないが、そんな理屈っぽい名前ではモンシロチョウの印象が鬱陶しくなる、

それはそれで良いのだが、スジグロシロチョウというチョウがいる。このチョウはシロチョウ科のモンシロチョウ属のチョウなのだが、その羽には確かに黒い筋がある。モンシロチョウの命名の経緯に沿って命名すればスジシロチョウとするのが妥当であると思えるが、この場合はスジの色が黒いという情報が含まれている。

モンキチョウというチョウがいる。これをどう読むか。モン・キチョウと切って紋のあるキチョウと考えるか、モンキ・チョウと切って紋が黄色いチョウと考えるか。モンキチョウの羽には確かに黄色い円形の紋がある。困ってしまうのだが、モンキチョウはシロチョウ科に属する。モンキ・シロチョウとして、紋もはねも黄色いシロチョウ科のチョウとして考えるのが妥当かなと考えるのだが、違った捉え方も可能である。このチョウはシロチョウ科のモンキチョウ属に分類される。とすればモンキチョウはモンキチョウとしてひと塊の用語としてみるべきかもしれない。ただ、命名された理由は紋のある黄色いチョウであるという事だろう。

モンキアゲハというチョウがいる。この季節、林縁を比較的速い速度で飛び回る、アゲハチョウである。羽に黄色い紋がある。従って紋黄アゲハ、これでよく理解できる。スジグロシロチョウの構造と同じである。同じような名を持つチョウはかなり多い。ツマグロヒョウモン、シータテハ、エルタテハ、ウラナミシジミ、アサギマダラ等などである。

かなり悩ましいのはウスバシロチョウ、初めて見たのは大山の山麓だったと記憶しているが、モンシロチョウに似た大きさの白っぽいチョウで、羽がいくぶん透けている。だが飛び方をみるとシロチョウの仲間のとは雰囲気が違う。実はこのチョウ、シロチョウ属ではなくアゲハの仲間である。にもかかわらず、シロチョウという名前がついている。名前と分類が矛盾している訳だ。とはいえウスバアゲハという別名を使えば、この矛盾は解消する。同時に飛び方の違和感も解消する。

何をグダグダと書いているのかといえば、子供の頃、世の中はキチンと論理的に整理されたものであると信じていた。大学の先生が編纂した昆虫図鑑であれば、虫の名前と分類、各虫のカテゴリーとヒエラルキーに齟齬が生じる筈はないと思っていたのである。これはそうした先生方に責任があるのではなく、私が勝手に過大評価していただけで、現実というものがそんなに美しく整理されるものではない事を知らなかっただけである。こうした考え方の癖というものはなかなか変わらない。本を読んでも、新聞を読んでも、人の話を聞いても、何か違うなと思う事が多かった。まあそれは、極めて個人的などうでも良い事である。

昨日、田んぼの畦草を切っていたのだが、とにかく暑くてばててしまい畔に座り込んでしまった。熱中症ではなかったのだが、疲れ果ててしばらく立てなかった。しばらくボーとしていたら、目の前をシオカラトンボの雌が通りすぎて40cm程右側のイネの葉に留まった。数分後、左から青いイトトンボがやって来て手の届きそうな左側の葉に留まった。一寸小ぶりに見えたのでモノサシトンボではなくオオイトトンボかセスジイトトンボ、あるいはホソミイトトンボのどれかだろう。これらを区別できるほどの虫キチではない。綺麗だなと思い動かずに眺めていたら、アキアカネの集団がやって来て群舞を始めた。最高の景色である。気持ちが和んでしまって、夕食時のビールが実に旨かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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