追記(大牟田時代の記憶)と事故追記

三井化学大牟田工場での事故についてちょっと書いたのだが、大牟田に住んでいた頃の記憶を辿って、備忘録代わりに少し書いておく。単なる個人的内容であるため、多忙なひとは読み飛ばされるのが良いだろう。

1958年、小学校の4年の9月に、島原市の島原第一小学校から大牟田市の明治小学校へと転校した。

少し話は変わるが、1991年6月3日、雲仙・普賢岳で大火砕流が起きた時、島原市の市長として災害対応にあたり「ひげの市長」と呼ばれた鐘ヶ江管一氏が、94歳で亡くなった。私が島原にいた頃、鐘ヶ江氏は私の家の近くにあった旅館(国光屋)の経営者であった。因みにこの国光屋は西鉄ライオンズのキャンプの定宿であったため、当時黄金時代にあったライオンズの選手を良く見かけたものである。

1958年という年は、西鉄ライオンズ(現・西武ライオンズ)はオールスターまでに首位南海ホークス(現ソフトバンクホークス)に11ゲーム差を付けられていたにもかかわらず、後半に奇跡とも思える巻き返しで逆転優勝を飾った年である。続く巨人との日本シリーズでは第1戦、第2戦、さらに第3戦を落として3連敗に追い込まれた。降雨による(疑惑の)順延で中一日をはさんだ第4戦、三原監督は稲尾を三度目の先発に起用してシリーズ初勝利。10月17日に行われた第5戦でも、稲尾は4回表からリリーフ登板すると、シリーズ史上初となるサヨナラ本塁打を自らのバットで放ち勝利投手となった。6戦7戦も稲尾が完投勝ちしてこのシリーズを制したのだが、神様仏様稲尾様という言葉が新聞の見出しを飾ったのは、この5戦の翌日であった。

ここまで書いてニュースを見ていたら、またもや三井化学大牟田工場で事故のニュースである。FBS福岡放送のニュースを引用する。

《液体漏れの2日前にも塩素系ガス漏れ出す 三井化学工場の同じプラントで 7月の事故後に停止→試験運転中                 配信

ことし7月に塩素系ガスが漏れ出した福岡県大牟田市の化学工場で、その後も塩素系の物質が漏れ出す事態が相次いでいます。9月8日は塩素系の液体が漏れ、6日にも塩素系ガスが漏れ出していたことが新たに分かりました。

三井化学の工場で今度は「塩素系の液体」漏れ 7月の「ガス漏れ」と同じプラント 量はわずか 福岡・大牟田市

大牟田市浅牟田町の三井化学大牟田工場ではことし7月、ウレタンの原料を作るプラントで、腐食が原因で塩素系ガスが漏れ出し、延べ234人が体調不良を訴え、医療機関を受診する事態となりました。 その後、三井化学は原因や対策についてまとめ、9月3日に福岡県に報告していましたが、6日正午すぎに再び同じプラントから塩素系ガスが漏れ出していたことが分かりました。同じプラントからは8日も塩素系の液体が漏れ出していたことが分かっています。 いずれも漏れ出した量はわずかで、敷地の外には出ておらず、ケガ人や体調不良を訴える人はいませんでした。発覚後の消防や警察への通報は速やかに行われたということです。 このプラントは、7月の事故のあと停止していましたが、生産再開に向けて9月3日から試験運転が行われていました。 事故の原因について三井化学は、製造過程に関わるため公表しないとしています。》

ニュースでは幾分時系列が分かりにくくなっているのでまとめてみる。7月に塩素系ガスが漏れ出した福岡県大牟田市の三井化学のプラントで、生産再開に向けて9月3日から試験運転を行っていた際に、9月6日正午すぎに塩素系ガスが漏れ出した。そして8日も塩素系の液体が漏れ出していた。

まず、6日の正午過ぎに漏れた塩素系ガスは文脈から判断するとやはりホスゲンだろう。ただ、このニュースを書いた記者の方は改めて《塩素系ガス》とは何ぞやという疑問を持って、少なくともグーグルで検索してみて欲しい。AIによる回答が先頭に出てきて、何とも分かり難い説明がされている。このAIはなにも分かっていない。その後の検索結果を見ても塩素ガスについての説明そして次亜塩素酸ナトリウム溶液(塩素系漂白剤や洗浄剤)に塩酸を混ぜると危険とする項目が並んでいるだけで塩素系ガスの結果はない。何とも不可解である。有機化学の分野において塩素系ガスという分類はない。いやないだろう。40年以上有機化学の分野で生きてきたが、聞いたことが無い。どうやら、法規で定められている「特殊材料ガス」、「毒性ガス」、「可燃性ガス」を全てまとめた「特殊ガス」という分類の中から、塩素を構成成分とするガスを選んで塩素系ガスと呼んでいるようだ。ホスゲンはこの特殊ガスの分類の中で毒性ガスという項目に含まれる極めて毒性の高いガスである。

もっと分からないのは8日に漏れ出した塩素系の液体である。多分前回と同じ配管から漏れたと思われる。このホスゲンを送っていた配管のどこかで水が混入すると、ホスゲン1分子はは加水分解を受け2分子の塩化水素(HCl) と1分子の二酸化炭素を生じる。塩化水素も二酸化炭素も気体である。それ以外の物質は生じない。考えられるのは配管中に水が存在した場合、つまり管内が乾燥不十分のまま試験運転に入ったため、水に塩化水素(HCl)が溶け込み塩酸となって漏れ出した場合であろう。この推論が正しいとすればまた問題が生じる。塩酸を塩素系の液体とは呼ばないからである。仕方がないので塩素系液体と入力してググってみた。塩素系液体という項目それ自体が存在せず、塩素系洗剤、塩素系漂白剤、塩素系消毒液が代わりに出現する。塩素が含まれていれば塩素系の液体であるならば食塩水も海水も血液さえも塩素系の液体になる。

ホスゲンが漏れた場合にこれを処理する有効な方法は水を霧状にして噴霧することである。従って、化学兵器としてのホスゲンは雨の日には余り有効ではない。7月のホスゲン漏れの事故に際して、現場において水を噴霧して処理したことは間違いないだろう。9月6日にもホスゲンが漏れ出している。この時も水を噴霧して処理したとおもわれる。その際に使用した水が配管内に入り残っていたのだろう。流れてきたホスゲンと水との反応で生成した塩化水素が、残った水に溶けて生成した塩酸が漏出したと考えられる。そして漏出した塩酸を、分子内(?)に塩素が存在するが故に塩素系の液体と表現したのではないか。

この状況を総合的に見ると、配管の老朽化が根底にあるのではないか。ピンホールになりそうな腐食が隠れていそうな気がする。ホスゲンのための配管だから2重配管であろうしそれなりの漏洩対策がなされているとは思うが、ちょっと心配である。2重配管のそれぞれの材質は何だろう。圧力はどのくらいかかっているのだろう。疑問は山ほどあるが、生産

プロセスに係わることなので教えてはもらえないだろうな。

以上、私の推測を交えた感想である。間違っている可能性はあると思う。そうであれば対応する部分を指摘して頂ければ、削除あるいは書き直した上で謝罪することに全く異論はない。

それにしても記者会見において、塩素系のガス塩素系の液体は具体的には何ですかとどうして聞けないのだろう。その質問に対する回答さえあればこんな憶測まみれの文章を書く必要はないのに。視聴者に情報を与えない事を是とする報道の自由が、この世を闊歩している。

追記(大牟田時代の記憶)の続きは次回に廻すことにする。

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十八死に二生を得る

十日ほど前、ナスとトウガラシに農薬を撒いた。農薬は可能であれば使いたくないので極力使わないようにしているのだが、どうしようも無い場合もある。使用量は少なめに、撒いた後の時間はは長めにと考えている。この暑さの中では、日中に薬剤散布は植物にも過酷なので、5時過ぎからの散布となった。予定通りナスとトウガラシへの散布が終わった時、50L程の薬液が残った。薬剤の適用植物を考慮して別の畑の柑橘に散布することにした。

この畑は斜面になっている。いつもなら、平坦な部分に動噴と薬液タンクを積んだ運搬車を止め、そこからホースを引っ張って散布するのだが、時間が遅かったため細い犬走りにそのまま乗り込んだ。八朔とダイダイの5本に散布して帰ろうとしたが、その先にはUターンする場所が無い、少し上に次の犬走りの出口がある。ここに頭を突っ込んで回ろうとギリギリまで右に寄せて曲がろうとした時、右後輪ががけ側に滑り落ちた、ハンドルにすがりついて重心が左側に来るようにして力一杯ブレーキを踏んだ。数日前に切っていた枯れ草の上を50cm程滑って辛うじて止まった。危なかった。同じ日に近くの人がSS(スピードスプレーヤー)で転倒したと聴いた。鎖骨と肋骨と腰骨を折って入院したそうだ。あの滑りが止まらなければ、私も同じ運命に陥っていただろう。

落ちたとすれば、そこは私の土地ではなく他の人の土地である。昨日、近所の人の通夜の席でその土地の持ち主と会った。いやいや危うく貴方にも迷惑をかける所だった。もし死んでいたら事故物件になり、土地の価格が暴落したかもしれませんね、などと話していたら、怪我はなかったのですかと気づかって頂いた。無傷です、でも落ちていたら、私の葬式の方が早かったでしょうねと演技でもないことを言いながら、今後は気をつけます挨拶して分かれた。

もう年だし白内障があって遠近感に不安があるので注意しなければと自戒してはいたのだが、それから7日後、またやってしまった。夕方、田の畦草刈りを終えて帰る時のことである。設置している電柵の発信機をチェックしたら、電池残量の警告灯が点いていた。暗くなる直前だったので、急ぎ気味に堤防の細い道路に入ったら、前方に軽トラが止まっている。離合はできない細い道である。仕方ないかとバックを始めたら右の前輪が道路から落ちた。窓を開けてみると3m程下に水面が見える。右側に重心をかけるのが怖いため、助手席側から何とか外に出た。右の前輪だけでなく後輪も1/3程道路からはみ出している。

知り合いの農機具屋さんに電話をして、ロープで引き上げようとしていたら、この事故を見かけた3人の知人が集まってきた。先ず皆で車の後部を抱えて後輪を道の上に移動させ、それからロープで引っぱり上げて事無きをえた。とはいえこの事故も危なかった。

10日ほどの間に、2回も危ない目にあった。九死に一生を得る経験を二度も繰り返した。タイトルを十八死に二生を得るとしたのはそういう訳である。それにしても、この地区には助け合いの精神が溢れている。手伝って頂いた皆様に感謝感謝である。死に損なったという気持ちもある。神様か仏様かわからないが、お前は現世でもう少し働けと助けて下さったのかもしれない。この我がままな因業爺は何をすればいいのだろう。

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三井化学大牟田工場事故

  •  先月末に三井化学大牟田工場で事故が起こった。小学校の4年から5年にかけて、この工場の近くに住んでいただけでなく、何人かの友人がこの工場に勤めていた経緯もありニュースを追っかけていた。ところがこの事故についてのオールドメディアの対応が余りにも酷いことに耐えかねて一文をあげることにした。
  •  7月29日午後5時31分に事故が起こって3週間、もう全ての報道は出揃ったと考えて良いだろう。つまり、現在以上の情報は発信されないと考える。そこで、現在までの報道において決定的に欠けている部分について議論したい。
  • まず天下のNHKの記事を引用する。
  • 福岡 大牟田 「異臭がする」20人以上病院搬送 ガス漏れか
  • 2025年7月27日 23時41分
  •  27日夕方、福岡県大牟田市で「異臭がする」との通報が相次ぎ、消防によりますと、およそ40人が体調不良を訴え、20人以上を病院に搬送したということですが全員、意識はあるということです。通報があった場所から1キロほど離れた工場で塩素系のガスが漏れたということで、会社や警察などが詳しい状況や原因を調べています。
  • 27日午後6時すぎ「大牟田市橋口町で異臭がする」という通報があり、消防によりますとおよそ40人が体調不良を訴え、20人以上を病院に搬送したということですが全員、意識はあるということです。通報があった場所から東におよそ1キロほど離れた場所にある三井化学大牟田工場によりますと27日午後6時ごろ、工場の中にあるプラントから塩素系のガスが漏れ、7時50分ごろには収まったことを確認したということです。このガスを吸い込むと、せき込んだり、目に違和感を感じたりすることがあるということで、工場の外にいた社員数人も体調不良を訴え、病院に運ばれたということです。大牟田市は、漏れたガスが滞留している可能性があるとして、市民に対し、しばらくの間、屋内に避難するとともに、屋内にいる人も窓を閉めて屋外に出ないよう呼びかけています。会社と警察などがガスが漏れた詳しい状況や原因を調べています。》

次はやはりNHK、 福岡 NEWS WEBの記事より引用

大牟田 ガス漏れ 三井化学“配管に穴 有毒ガス漏れ出す”

07月29日 08時46分

 大牟田市にある化学工場で27日、塩素系のガスが漏れ周辺に住む住民が体調不良を訴えた事故を受けて、工場を運営する三井化学は記者会見を開き、何らかの原因で配管に穴があき、有毒なガスが漏れ出したと明らかにしました。

大牟田市では27日夕方、異臭の通報が相次ぎ住民などおよそ40人が体調不良を訴え20人以上が病院に運ばれ、通報があった場所からおよそ1キロ離れたところにある三井化学大牟田工場は、プラントから塩素系のガスが漏れ出したと明らかにしていました。

三井化学は28日夜、記者会見を開き、ガス漏れは自動車のシートなどで使われるウレタンの原料をつくるプラントで起きたと明らかにしました。

このプラントでは、おととい午後5時30分ごろに漏えいを知らせる検知機が作動したためプラントの停止や水をまくなどの対応をとり、7時20分ごろまでに敷地内の漏えいがなくなったのを確認したということです。

会社が事故後に調査したところ、ステンレス製の配管に穴が空いているのを確認し、6月に目視で点検した際には異常はみられなかったということで、対策本部を設置して穴ができた原因などを調べるとしています。

三井化学大牟田工場の鶴田智工場長は「ガス漏えいにより多くの方々に多大なるご心配・ご迷惑をおかけし深くおわび申し上げます」と述べて陳謝しました。

事故を受けて県や福岡労働局などは工場に立ち入り調査を行い、法令違反がなかったかなどを調べています。》

三井化学株式会社が出したお詫びの文書、これも引用しよう。

 

 

《2025 年 7 月 28 日

各 位

三井化学株式会社

 

大牟田工場における塩素系ガスの漏洩について(お詫び)

7月 27 日(日)17 時 40 分頃、弊社大牟田工場のプラントより塩素系ガスの漏洩が発生しました。

本漏洩により、近隣住民の皆様、関係ご当局の皆様、お客様をはじめとする多くの方々に多大なご迷惑をおかけし、深くお詫び申し上げます。

7 月 27 日 23 時現在で判明しております内容は、下記のとおりです。

1. 発生場所 福岡県大牟田市浅牟田町 30 番地

三井化学株式会社 大牟田工場 TDI プラント

2. 発生日時・経緯

7 月 27 日(日) 17 時 40 分頃 塩素系ガスの検知器作動、TDI プラント緊急停止

17 時 59 分 自衛消防待機

19 時 05 分 漏洩停止

20 時 32 分 敷地境界に塩素系ガスがないことを確認

3. 被害状況

人的被害 42 名が病院に搬送、受診中(7 月 27 日 23 時現在)

物的被害 調査中

4. 原因と対策

関係当局のご指導を仰ぎつつ、適切な対策を実施する予定です。

5. 製品出荷への影響

現在、鋭意情報収集中です。

6. 問い合わせ先

本社)コーポレートコミュニケーション部 広報グループ 03-6880-7500

大牟田工場)総務グループ 0944-51-8111

以 上》

 少しだけ厳し目の論評をしたのが讀売新聞であった。

《三井化学大牟田工場、塩素系ガス漏れ事故で通報怠る…消防隊員26人体調不良「こうした二次被害は防げた」

2025/08/01 11:00

  • 福岡県大牟田市の三井化学大牟田工場で有毒な塩素系ガスが漏れた事故で、同工場が現場処理に追われ、消防や警察への通報を怠っていたことがわかった。市消防本部が工場のガス漏れを確認したのは発生から約1時間半後で、救急出動した隊員26人が体調不良を訴えて病院で受診した。吉田尚幸消防長は「発生直後に通報があれば、こうした二次被害は防げたはずだ」としている。
  •  同工場などによると、7月27日午後5時31分、ウレタン原料の製造プラントでガス漏れ検知器が作動したが、プラントの停止作業に気を取られて消防や警察に通報しなかった。その後、異臭や息苦しさなどを訴える周辺住民らからの119番が相次ぎ、消防隊員30人が出動。呼吸器やマスクを着用していたが、住民らに聞き取りする際にマスクを外したケースがあった。隊員らが同工場に入ってガス漏れを確認したのは午後7時頃だった。
  •  大牟田市内の各工場には、事故が発生した場合、速やかに消防や警察、市に連絡することなどを定めた共通の対応マニュアルがあるが、今回、それが守られていなかった。同社の担当者は「通報しなかったことは申し訳ない。今後は再発防止に全力を尽くしたい」としている。
  •  同工場によると、事故で医療機関を受診した人は、31日現在で延べ155人に上っている。
  • 福岡県、被害者への適切な対応など要請
  •  県は31日、同社に再発防止の徹底や被害者に対して適切な対応を行うよう要請した。生嶋亮介副知事が、県庁を訪れた同社の岡田一成・常務執行役員と鶴田智・大牟田工場長に▽確実な安全対策の実施▽全ての事実関係の公表▽被害者への適切な対応――を求めた。
  •  終了後、報道陣の取材に応じた岡田氏は、「原因を徹底的に調べて再発防止を行う」とし、被害者に対しては「申し出に従って誠意ある対応をとっていきたい」と述べた。

有機化学を生業としてきた人間として、これらの報道そして三井化学のお詫び文書には納得がいかない。消防と警察への連絡の遅れが問題であることは当然として、どのメディアも三井化学でさえも、漏れたガスが何であるかの記載が無い。この報道を聴いた時、『塩素系のガス、水をまいて処理、ウレタン原料の製造に使われる』という条件を満たすのはホスゲンに違いないと判断した。何故、塩素系のガスというぼかした表現を繰り返し、ホスゲンであることを隠したのか。理由はホスゲンが余りにも危険なガスであるために違いない。会社側が隠したくなる気持ちは分からないでもないが、これはきちんと報道すべきだと激怒していた。会社側の責任は余りにも重い。

ホスゲンとは何か、長々と書くのは止めよう。第一次世界大戦では毒ガスとして使用された極めて危険なガスである。ウィキペディアのホスゲンのページ、特に毒性と治療法の項目を参照して欲しい。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%82%B9%E3%82%B2%E3%83%B3

消防への連絡時に漏えいしたのがホスゲンであることを伝えていなかった可能性もある。消防側が漏えいしたガスがホスゲンと認識していたら(消防隊員30人が出動。呼吸器やマスクを着用していたが、住民らに聞き取りする際にマスクを外したケースがあった)などという事態は起こる筈が無い。化学兵器対応の防毒マスクが必要な事態である。近隣住民には屋内退避を指示すべきであったろう。ただのマスクでホスゲン処理に行くなどありえないし、聞き取りを屋外で実施した可能性も捨てきれない。事故の規模が違うとはいえ、一つ間違えばインドで起こった『ボパール化学工場事故』を思い出させるような事故であった。

このガスを吸い込むと、せき込んだり、目に違和感を感じたりすることがあるということで、工場の外にいた社員数人も体調不良を訴え、病院に運ばれたということです。

などという能天気な記事を書いたNHKは、もはや報道機関としての体をなしていない。

オールドメディアの企業への忖度による自己規制、報道に携わる記者の知識レベルの低さ、あるいは質問能力のなさの何れが原因かは分からないが、報道しない自由が跋扈している気がしてならない。と書いた時点で気付いたのだが、この事件がウィキペディアにすでに記載してあった。そこには毎日新聞の記事が引用してあるのだが、そのなかには『原料であるホスゲンなどを含むガス』という記述がある。やはりホスゲンだった。などは塩化水素であろう。有料記事であるためこれ以上は読めないが、ホスゲンという物質名を出したという点で今回は毎日新聞を評価しよう。

ついでにもう一つの疑問、毎日新聞の情報源はどこなのだろう。毎日新聞が独自に取材をしてホスゲンであることを確認したのであれば毎日新聞の評価を上げてもよいが、これが合同の記者会見であったとすれば、他のメディアはこの情報を握りつぶした事になる。

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虫害

9月が終わるというのに、日中の気温は33度位ある。気象庁の報道する気温は、風通しの良い芝生の上、白く塗った百葉箱内の日影の気温であるから、この温度を信じて外出すると酷い目に遭う事が多い。とにかく今年は暑かった。

こんな暑い年は、害虫による食害が酷い。先ずカメムシ、色々な種類のカメムシが存在し、ほぼ全ての果菜類、果樹類、葉菜類のみならずイネをも食害して斑点米と呼ばれる等級の低い米の原因となる。我が農園でも甘柿が酷い被害を受けた。まともに食べられる果実は1本の木に1個あるかどうか分からないような状況である。渋柿がどうなっているかは未だ見ていない。ナスも8月後半から傷だらけである。とても売り物にはならない。もっとも、傷の部分を除いて自家消費という事になったため、夢にでるほど食べる事ができた。

ゴーヤも同様である。8月の半ば過ぎからワタヘリクロノメイガ(ウリノメイガ)が繁殖した後、ハスモントヨトウとカメムシによる食害で今季終了である。枝豆として食べようと植えた黒大豆もハスモントヨトウのために葉脈だけになってしまった。減反政策の続きで3年に一度水田での大豆栽培が行われているのだが、この大豆もハスモンヨトウのせいで葉っぱが食べ尽くされている。例年通りのスケジュールで農薬散布は行われたのだが、発生を抑えきれなかったと聞いた。来年は国産大豆も不足するかもしれないな。

梨とブドウは袋掛け栽培なので、さほど大きな被害は聞こえてこない。とはいえ、サツマイモやサトイモの葉はハスモンヨトウに食われて、茶色に変色している。農薬を上手く使っている人の畑はさほどでもないが、減農薬を目指して丁寧に育てている畑の方が被害が多そうである。我が農園のサツマイモは、草取りを全くしていなかっため、イネ科の雑草に覆われてハスモンヨトウがイモの存在に気付かなかったらしく、今の所食害はほとんどない。とはいえ、ようやく葉っぱに陽が当たり始めた状況だからちゃんとしたイモがはいるかどうかは別の問題である。

食害を受けた畑に見切りをつけ、秋作の野菜を植え始めている。ダイコン、カブ、キャベツ、白菜などがそうであるのだが、発芽したばかりの苗を、ヨトウムシが次々と食べていく。それは当然の話である。ヨトウムシが一杯いる畑から前作の野菜を取り除き、耕した畑に種まきをするのだから、食を奪われた彼らが次に生えてくる野菜を食べるのは当たり前であろう。不必要な農薬は使わないようにしているが、今年はベイト剤を使うしかないかなと考え始めている。

それはそうと、庭に植えていた桑の木に野蚕の幼虫がいた。飛ぶ能力を失っていない原種の蚕である。大きさからして最終令の幼虫らしく、突いてもほとんど動かない。サナギになる直前の眠(みん)の状態らしい。とすれば明日か明後日には繭を作っているだろう。

 

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ペントースリン酸経路への異論・・・7

 歳を重ねると物事の処理速度が大きく低下するにもかかわらず、処理すべき事柄が減るわけではない。年寄りが忙しい忙しいと言うわりにはノロノロしているように見える理由であろう。これは歳をとってみないとわからない。これに痴呆が被ってくると事はさらに悲惨な事になってくるに違いない。何でこんなことを書くかと言えば、私自身が明らかな老化の足音を聴く年代になったからである。

 前回のアップからどれくらい経ったか記憶にないが、こうして再び書き始めようとすると何をどう議論しようとしていたのか、記憶は薄れてしまいはなはだ心許ない。読者の年齢は知る術もないが、書いている本人の記憶がそうなのだから読者が以前の記事を記憶していると期待する方が図々しいだろう。従って、記憶がしっかりしているであろう若者には不要かもしれないが、何故にペントースリン酸経路に対して異論を唱える事になったか、手短に述べる事から始める事にする。

 ことの初めは解糖系におけるブドウ糖の位置づけについての疑問であった。解糖系に対し一つの疑問を抱いた事が発端である。解糖系は大腸菌からヒトまでどころではなく、原核生物(古細菌を含む)から真核生物にわたるほとんどの生物に広く分布する普遍的な代謝系と理解されている。その点について大きな疑問はないのだが、出発物質がブドウ糖であることに納得が行かなかった。解糖系の起源を考える場合、現在の常識に従えばブドウ糖がアプリオリに存在する前提で書かれていると考えざるを得ないが、その場合アプリオリに存在していたブドウ糖の起源は何処あったのか。ホルムアルデヒドが粘土鉱物の表面でアルドール縮合を続ければ、D-ブドウ糖が生成する可能性がない事もないが、だからといってD-ブドウ糖が特異的に集積する確率は絶望的に低いと考える。さらに、解糖系らしき系は持つものの、その系の中にブドウ糖を含まない生物も少なからず散見される。それらをどのように説明すればいいのか?

 私なりの答えは「歴史生物学・解糖系についての考察1〜5」に書いているので、その部分を参照して欲しい。系の起源の問題として捉えれば、解糖系に寄り添っている糖新生系の方がより古くより根源的であると言う結論にならざるを得ない。そう考えると、言い過ぎである事は自覚しているが、グルコースは解糖系からはみ出した盲腸であるとする考えさえ成立する。

 だが、世の中では解糖系こそが生物に存在する多くの代謝系のなかで非常に重要な経路であり、中心経路と呼ばれる立ち位置にあるとする考え方が主流である。その解糖系の意義付けが変わると、解糖系に連接する経路の存在意義に変化が生じるかもしれないと云う問題意識を持ってTCA回路を眺めてみた。

 そういう意識のもとにTCA回路を眺めると、解糖系の場合と同じように逆向きに反応が進行する嫌気的カルボン酸サイクルの存在とその存在意義がいま一つ曖昧なまま残置されている事に気付いた。さらに、現在行われているTCAサイクルの意義付けにおいては、α–ケトグルタル酸からのアミノ酸・タンパク質代謝に言及しているとは言え、TCA回路に続く電子伝達系と組み合わせてエネルギー獲得に重きを置く説明が優位な状況にある。

 歴史生物学的視座から考える場合、ある系路の原初的な形はどのようなものであったかを問題とする。勿論、過去の生物そのものがもっていた回路をそのまま調べるわけには行かないが、過去の回路を現在も維持していそうな生物種における代謝系から予想できない事はない。 さて、アセチルCoAがオギザロ酢酸と縮合してクエン酸となるのだが、回路の出発点をオギザロ酢酸におきクエン酸を通って α–ケトグルタル酸に至る右回りの系路(東廻り系路)とリンゴ酸を通ってα–ケトグルタル酸に至る左回りの系路(西廻り系路)に分けてみた。そうすると結構面白い結果が得られる。 例えば、Methanothermococcus やMethanocaldococcus属細菌は西廻りの系路を持つが東廻りの系路は持たない。

 この西廻り系路を持つ生物は古細菌だけではない。真性細菌であるChlamydia、Chlamydophil、BifidobacteriumPrevotella、Desulfotomaculumも、同じようにオギザロ酢酸からα-ケトグルタル酸までの西廻りの代謝を行い東廻りの系路は持たない。

 一方、TCA回路の西廻りの系を持たず東廻りの系のみを持つ生物も種々存在する。Eubacterium、Roseburia、Coprococcus、 Ruminococcus 属細菌などである。

 この現実を基礎に考えれば、TCA回路を回路と命名することの不合理さとともに、系の意義をエネルギー(ATP)生産系とする説明は現実を正しく反映しているとは思えない。幾分強引な推論だが、いわゆる解糖系と還元的カルボン酸サイクルに加えて、図3-24と図3-25の系について考えれば良さそうだ。これらの4種の回路と・非回路を持つそれぞれの生物群において、それぞれの系は同じ目的で駆動されていると考えて良いだろう。幾つかの異なるしかしよく似た代謝系が同じ目的を持って駆動している場合、まず各集団に共通するものを探すのが鉄則である。この場合、4つの系で共通している化合物は α-ケトグルタル酸である。

 ではこの α-ケトグルタル酸、生物の中でどのような意義を持つのか。多くの方がご存知の通り、α-ケトグルタル酸からはアミノ酸代謝が出発する。α-ケトグルタル酸の α-位のカルボニル基にアミノ基転移が起こりL-グルタミン酸、L-グルタミン酸の γ 位のカルボキシル基がアミド化されてL-グルタミンがつくられた後、これらが種々の α-ケト酸にアミノ基を転移して、多様なアミノ酸類の生合成が起こる。アミノ酸生合成は、生物がタンパク質をつくる前段階の欠くべからざる反応であり、「その出発物質であるL-グルタミンとL-グルタミンの原料である α-ケトグルタル酸を供給するのがTCA(非)回路の意義である」とするのが適切な判断だと思う。

 こんなブログを読んでいる方であれば、α-ケトグルタル酸から誘導されたL-グルタミン酸とL-グルタミンの存在意義は、先に述べたアミノ酸生合成の出発点であるだけではない。両化合物は、プリン代謝につながりDNAとRNAの原料であるアデニン、グアニンの生合成につながるのみならず、ピルビン酸の脱炭酸段階で必要なチアミンリン酸生合成へと伸びている。それだけではない。両化合物はピリミジン環生合成の原料でもありDNAとRNAの原料であるチミン、ウラシル、シトシンへと伸びるの生合成を可能にしている。

 つまり、α-ケトグルタル酸はアミノ酸生合成とタンパク質生合成の中核に位置する化合物であると同時に、プリン塩基とピリミジン塩基生合成担う共通の原料でもある。これらの事実を重ね合わせてこの系の意義を求めるとすれば、第一義的には α-ケトグルタル酸の供給という役割を見なければならない。酸化的リン酸化系を持つミトコンドリアの祖先となる好気性細菌が原真核生物と共生した際に、東廻りのTCA回路が酸化的リン酸化と共役して多量のATPの生産を始めたのは、大気中の酸素濃度が上昇した後の話であろう。

 ことの詳細については、歴史生物学 TCA回路への異論 1〜9に書いている。

     そこで目下の問題は、ペントースリン酸経路についての解釈である。実は何人かの大学教授の方々にペントースリン酸経路の意義について尋ねたたことがあるのだ、上手く説明する人に会った事がない。解糖系の副路でNADPH2の生合成系路だったよねという教科書的な答えが帰ってきた。あれは複雑で分かり難いとか授業をやり難い系路だと云う本音のような愚痴のような答えもあった。同感である。私も不惑の頃まで、この部分の講義をする時は、前夜から予習をしていても落ち着かなかった。

 ペントースリン酸経路に対して、糖代謝の根幹を担う解糖系と糖新生系に纏わりつく藤の木みたいに感じていた。天皇家に巻き付いた藤原一族といえば、感覚的に分かり易いかもしれない。先に述べたように、この解糖系・糖新生系の存在解釈に変更が生じたとすれば、この寄生植物のようなペントースリン酸経路の存在意義も影響を受けるに違いない。そう思って書いてきたのが、ペントースリン酸経路への異論1〜6である。そこに多分間違いないと思える答えは書いている。本人の中では結論が出ているのだが、文書の形を整えるためには、いま少しの考察を続ける必要が残っている。それは理解しているのだが、そこに手間ひまかけるのは精神的に辛いものがある。

 論文を執筆する場合、結果は見えていると思えるにもかかわらず、いくつかの穴埋めのために補充実験が必要になる場合がある。レフェリーは必ずその穴を指摘して書き直しを命じてくる。この補充実験が無駄に思えて何度取り下げた事か。結果は見えているので次の実験に取り掛かりたいのに、何で時間の無駄とも思える穴埋のための補充実験に戻らなければならないのかと、我が侭である事は分かりながらも逃避したわけだ。まあ実験計画の不備というのが現実であり、私の責任であるから、レフェリーに罪はない。穴埋め実験を学生に強制できるのが教授の特権だと云う人もいるくらいだから、誰にでも発生する事案であろう。

  先にも述べたように全種類の生物のペントースリン酸経路を順に検討するのはコストパフォーマンスが悪いので、次回からは興味深い系路をもつ生物のみを取り上げていく事にする。

 

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